Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第107号(2005.01.20発行)

第107号(2005.01.20 発行)

国際語「TSUNAMI」の国、日本のなすべきこと

岩手県立大学総合政策学部教授◆首藤伸夫

巨大津波は極めて稀にしか発生しないが、スマトラ津波としてTVを流れる映像からは想像もできないほどのものである。
次の巨大津波までには世代が幾つも交代するため、知識をつないで行くのが極めて難しい。
継続して防災教育を行い、事ある毎に津波への備えを付け加えて行くしかない。
世界最悪の津波被災国日本が、世界へ移転できる技術は少なくない。今こそ活用すべきである。

1. 何故、多くの犠牲者が出たのか

2004年12月にスマトラで発生した津波は、全世界を揺るがしている。生々しいビデオがテレビを通じて流れ、今更ながら津波の恐ろしさを確認したという人が多い。しかし、映像で見る限り、インドネシア以外での津波の強度は小規模なものでしかない。それにも関わらず、なぜあれだけの被害となったのか。

死者への敬意を欠く言い方ではあるが、津波に対して無策であり、無知であった結果なのである。

2. 巨大津波とはどんなものか

■図1 1946年アリューシャン・ユニマック島を襲った巨大津波

これを書いている段階では、インドネシア・アチェ州の沿岸を襲った津波の詳細は分かっていないが、巨大津波といって差し支えのないものであったに違いない。

詳しい目撃談などが残る過去の津波で巨大なものを探せば、日本なら明治29年(1896年)の明治三陸大津波がある。切り立った前面がやってくると、それで発生した「アフリ風」で、水が触れるより先に、家が吹っ飛ばされた。津波が高さ40m近くまで駆け上がった所もある。死者は2万2千人。岩手県では1万8千人が亡くなり、遺体8千が回収できなかった。

これと同程度のものに、50年後の1946年に発生したアリューシャン津波がある。その直後、画家が生存者に何度も確かめて描き上げたというのが図1である。NOAAのバーナード博士に、今では画家の名が判らないとの註釈付きで、25年程前に頂戴した。津波前面が30mの崖となって切り立ち、新設間もない灯台を一撃で倒した。

この二つの巨大津波とも、地震が弱く津波が大きい「津波地震」で発生した。三陸沿岸では高々震度2でしかなかったから、避難しようとする人は皆無で、大きな人命喪失につながったのである。

3. 津波対策の基本

津波という自然現象との付き合い方をどうするのか。

1960年のチリ津波が、地震を感じないニュージーランドに到達したとき、ここでも引き潮が先行した。ヨーロッパ系の住民は珍しいことだと海辺へ下り、先住民系の住民は異常な自然だとして遠ざかったと言い伝えられている。自然への畏怖を忘れない後者の立場は、今後は薄れて行く一方であろう。だとすると、津波とは何かを学習してもらうしか術はない。

津波、まして巨大津波は、100年、200年の間隔をおいて発生する。その間に世代が変わり、記憶が薄れ、切実感がなくなる。これに対抗するには、継続する防災教育しかない。そして次が、諸種の防災対策であろう。

4.前もって備える津波対策が必要

太平洋には国際的な津波警報の組織がありインド洋にはなかったから、今度の被害につながったと言うのは易しい。では、1775年にリスボンで12m、1855年にアゾーレス諸島で10mの津波が経験された大西洋に、津波予報組織が存在しているだろうか。世界で一つといわれる、ハワイに中枢のある太平洋の組織にしても、1960年にチリ津波があったからこそでき上がった組織なのである。

災害直後にのみ対策を唱えるのでは間に合わない。機会ある毎に、津波に備えて欲しい。例えば、日本が1998年から赤道近くに設置し始めた高性能海洋観測用ブイである。これに米国のものと同様に津波計を付けておけば、遠地津波予報の精度向上に極めて役立つ。

いつか起こるだろう津波に前もって備える、これが求められている。災害直後に騒ぐだけでは、次の津波への良い備えとはならない。

5.日本に何ができるか

東北大学が行っている国際協力、TIME計画(Tsunami Inundation Modeling Exchange)のシンボルマーク

世界最悪の津波常習国日本は、世界最先端を行く津波防災国である。その知恵を役立てる方法はいくつもあり得る。その例のひとつが、東北大学災害制御研究センターが中心となっているTIME計画である。ユネスコの標準手法ともなっている数値計算手法を技術移転しており、津波危険諸国でハザードマップを作るのに役立てられている。

日本の津波総合対策は、構造物、津波に強いまちづくり、予警報などのソフト対策の三つを組み合わせることとなっており、いずれにおいても経験を積んでいる。これらを、対象国の、対象地点に適合するよう、技術移転することは可能な段階となっているのだから、活用しない術はあるまい。(了)

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