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オーシャンニューズレター

第86号(2004.03.05発行)

第86号(2004.03.05 発行)

サハリン石油ガス開発と日本の海洋への影響

エトピリカ事務局長◆高田晴雨

サハリン島の石油ガス開発プロジェクトが進められているが、はたして原油流出事故が起きた際の被害リスク等の分析や防災対策は十分なされているのだろうか。北海道の近海で行われるエネルギー資源開発は、わが国の経済やエネルギー安全保障の将来にとって期待される事業ではあるが、豊かな自然環境への配慮を欠いたままで開発が進むことを危惧する。

懸念される環境への悪影響

北海道とその周辺の海域はカニ・ウニなどの豊かな漁場であり、北海道民、日本全体が直接、間接に受けている恩恵は図りしれない。いま、この北の海で「サハリン石油ガス開発」プロジェクトが進められており、当該プロジェクトによる原油流出事故や環境破壊が懸念されている。

サハリン島は、北海道の北わずか50キロ足らずにあり、島の北部に大規模な油田が存在することは古くから知られ、戦後、日本と当時のソ連邦が共同で開発していた時期もあった。現在は、8~9の鉱区に分かれて開発が進められ、様々な国の資本が投下され開発が進んでいる。最も開発が順調に進んでいるサハリンII鉱区では、ロイヤル・ダッチ・シェルや三菱商事・三井物産が資本参加し、サハリンエナジー社という企業を設立し、商業ベースの石油採掘及び天然ガス開発を進めている。日本に近い場所でのエネルギー資源開発は、経済やエネルギー安全保障に関しては大変好ましいことであるが、原油を運ぶタンカーやサハリン沖の石油掘削リグなどからの流出原油が、海流により日本の沿岸部に漂着した場合の被害リスクに対して十分な分析・防災対策がとられる必要がある。

自然環境に配慮した開発をもとめて

市民団体エトピリカは3年にわたってサハリンで現地調査を行っている。

このような事情から、北海道の市民団体「エトピリカ」は2000年から3年にわたってサハリンでの現地調査を実施した。その結果、現地の環境が貴重でかつ、繊細なものであり、動植物の往来も盛んで北海道と自然が一体化していることが明らかになった。

これら貴重な自然や北海道の基幹産業である漁業を守るためにも、国、地方自治体、その他の利害関係団体とともに、自然環境や事故対策に配意した開発を企業側に対して申し入れ、多くの会合を開催してきたところであり、改善がみられた部分もある。特に、サハリンエナジー社とは定期的な協議会を開催する約束も取り付けるに至り、困難な国際的環境保全の取り組みとしては一定の成果を上げることができた。

しかしながら、解決されるべき課題はまだまだ多い。現地サハリンの漁業関係者は深刻に油田ガス開発を懸念している。油田開発の行われるサハリン東海岸は依然として豊かな漁場であり、多くの人々が生活の糧を得ている。石油開発企業はパイプライン建設のための補償交渉を行い、漁民の説得を続けている。同じく日本でも、オホーツク沿岸の漁業者の心配は尽きず、原油流出事故だけでなく、サハリン南部のLNG基地建設に伴う港のしゅんせつ工事による漁場への影響など、今後も、さらなる情報開示や工事規制が求められている。

これまでも海外の大規模開発が環境問題として日本で取り上げられているが、日本への影響は間接的なものであった。このサハリン石油ガス開発問題については、日本に直接の影響がでる初めてのケースである。同時に、日本の環境保全活動、政府、地域の行政機関がどのような対応を取るのか試されてもいる。

このような状況を踏まえて、私どもが調査団を送った中で得られた基礎資料や現地の情報などを近日中に公表し、この問題に対する啓発の一助としたいと考えている。(了)

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  • サハリン石油ガス開発と日本の海洋への影響 エトピリカ事務局長◆高田晴雨
  • 編集後記 ニューズレター編集代表(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生新

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