Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第62号(2003.03.05発行)

第62号(2003.03.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新

◆景気は良くならず、イラクや北朝鮮情勢も悪い方向に進み、花粉症は始まり、いやなことばかり。寒い夜には酒でも飲んで、せめてつかの間の幸せに浸りたいもの。

◆「薄月の鱈の真白や椀の中」松根東洋城。値段の安さ、控えめではあるが、決して自己主張がないわけではないことが鱈の魅力で、生鱈の淡々とした白さがさまざまな素材と出会って、豊かな華やかさに転ずる。バターとの組み合わせの豊穣、昆布〆の陰影、肝と味噌で煮る鱈汁の艶麗、豆腐と白さを競うちり鍋の滋味。潮風と日光が凝縮した干物のしたたかな強さ。鱈の干物も世界中の共通の食材、スープになったり、日本ではいも棒などという洗練された料理もある。

◆鱈の漁獲が減少しているというが、欧米人がスープの素材として珍重した海ガメの減少は、より深刻なようである。日本の砂浜は亀と結びついてわれわれの心の原風景となっている。亀崎オピニオンは、砂浜の保護が海辺の集落の健全な発展と同義であることを指摘する。人々のくらしが変わる中で、新たな公の役割が求められ、非営利活動組織等の動きも含めて、目先の利益に結びつかない社会的な活動の確保のあり方を考える時期に来ている。

◆吉田オピニオンは、新しさを求めるアメリカ社会のダイナミズムを船用ベンチャー企業によって紹介する。鱈ちりの淡白さによっても、ムニエルの濃厚さに負けない精神の活力を、われわれはいかに確保すべきであるか。

◆田中投稿を読んで、「バベットの晩餐会」という20年以上昔の映画を思い出した。デンマークの寂れた漁村の寒風吹きすさぶ風景と、フランス革命から逃れてきた女性の超一流シェフの作る鱈の干物等を使った料理がすさんだ人々の心を徐々に溶かしていく場面が強く印象に残っている。夢も上質の料理も人を活性化させる。上質の夢を持ち続けることの豊かさを共有したい。(了)

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