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オーシャンニュースレター

第62号(2003.03.05発行)

第62号(2003.03.05 発行)

ウミガメ保護と今後の浜辺の集落のありかた

NPO法人日本ウミガメ協議会会長・東京大学大学院農学生命科学研究科客員助教授◆亀崎直樹

日本におけるウミガメ保護活動の主要な部分は、日本の各地で活動をつづける多くのボランティア団体や個人によって支えられている。しかしながら、単にウミガメの産卵回数や卵の数などのモニタリングでは自然の変動まで理解するのは無理であり、砂浜の全動植物の変動を把握する必要があると考える。そして、そのモニタリング体制については公共事業のひとつとして行政が積極的に整備すべきと考える。

日本におけるウミガメ保護活動の現在

ウミガメという動物は甲長は1m近くにもなる巨大な動物である割には、人間に危害を与えることはまずない。そのような動物が南日本の人里に近い砂浜に、初夏の夜、産卵のために上陸してくる。苦しそうな息づかいを聞き、涙が流れる大きな眼を見ると、それにたまたま出くわした人間はこの神秘的な動物に同情を寄せ、彼らがどこからやってきたのか、そしてそこでどんな生活をしているのかと思いを巡らす。同情は保護活動につながり、好奇心は科学につながっていく。これは、万国共通な人の心の自然な流れであり、ウミガメが産卵するところでは、それを資源として利用する場所も多いが、卵を採取する際に一部を残したりする保護活動が古くから行われ、また、ウミガメに印をつけて行動を探ったり、その卵の発生を観察する研究に近い活動も、世界中の海岸で多発的に行われてきた。

日本でのウミガメの保護や研究活動も例外ではなく、本州南部や四国・九州・南西諸島などで20~30年前から上陸するウミガメの数を数えるなどの活動が各地で行われてきている。

日本ウミガメ協議会は1990年に発足した民間団体で、1999年に特定非営利活動法人の認証を内閣府から受けている。主に、沖縄県から関東までの日本のウミガメの産卵地で活動する団体個人、さらには研究者や行政担当者などウミガメに関心のあるもので構成されている。現在の理事は20名で地域のボランティア団体の代表や学者、水族館の研究者で構成されている。会員数は800名で、職員は大阪事務局に3名、小笠原海洋センターに2名、八重山海中公園研究所に1名の計6名が存在する。その他に、奄美大島・高知・和歌山に、現地で生活する資金を送って調査活動を継続させている「仕送りボランティア」と称する若者を数人確保している。

ただし、日本におけるウミガメ保護活動の主要な部分は、屋久島うみがめ館や宮崎野生動物研究会、日和佐うみがめ博物館、南部町ウミガメ研究班、表浜ネットワークなどの独立した団体がボランティアを擁して実施しており、当協議会の活動としてはそれら団体間の情報交換、さらに研究者とボランティアの協力体制に必要な調整、諸外国との情報交換などを行ってきている。

われわれの活動は、研究分野、教育啓蒙分野、国際協力分野に分けることができる。

科学分野では、標識調査による産卵個体の回遊先の解明、産卵回数の変動を明らかにしたほか、内外の大学研究者に協力する形で、DNAによる日本産アカウミガメ・アオウミガメの系統学的位置付け、同じくアカウミガメの子ガメが太平洋を横断しメキシコ沖で育つことのDNAによる証明、日本の産卵地の沖合いでのウミガメの行動、砂中温度の測定による日本で生まれる子ガメの性比などを解明してきた。

教育啓蒙分野に関しては、一般向けの書物として「ウミガメは減っているか」「日本のウミガメの産卵地」「日本のアカウミガメの産卵と砂浜環境の現状」などを出版し、また、主要メンバーによる著書もいくつか公表されている。さらに、全国各地で行われたメンバーによる講演も少なくない。

一方、国際的な立場としても理事の4名がIUCN(国際自然保護連合)のウミガメ専門委員を務めている。また、年に1回開催されるウミガメの生物学や保護を検討する国際会議にも参加するほか、若手の研究者の参加に援助を行ってきた。その結果、それまで国際的にはほとんど知られていなかった日本の情報が伝わり、また、諸外国の最新の研究成果や保護技術も日本に伝わるようになった。近年では、国際的に軋鳰・b材料(タイマイというウミガメの鱗板)の取り引きに関する問題、漁業で誤って捕獲され死ぬウミガメの問題に関する国際会議からの招聘に応じて出席することも多い。

ウミガメ保護連絡会と当会研究員写真アカウミガメの測定写真

左/上陸したアカウミガメを専用のノギスを使い、甲長を測定している所(鹿児島県屋久島 2001年撮影)

右/台風で地形が変わってしまった砂浜で、産卵された卵を確認中。調査者は渥美町ウミガメ保護連絡会と当会研究員(愛知県渥美町 2001年撮影)

ウミガメの保護のために砂浜の全動植物のモニタリングを

十数年ウミガメに関する活動を行ってきた中で、鮮明になってきたことは、ウミガメの保護とは砂浜の保護であり、砂浜の保護とは海辺の集落の健全な発展を目指すことにあるという当たり前の概念である。海辺の集落は半農半漁が本来の姿であり、その多様な自然資源をうまく利用して豊かで平和な生活が成り立ってきた。ところが、その自然資源の恵みの大切さを見失った集落は、あちらこちらで開発工事を優先させ、自ら自然資源の枯渇につながる方向に向かい、それがウミガメの産卵する砂浜の消滅につながったのである。自然資源が中途半端になくなった集落ほど、魅力のない土地はない。集落はそこで生産可能な自然資源を最大限に生み出す環境を整え、それを活かすことが最も大切だと考える。そのためには早急に自然のバランスとその浮動を評価し、管理していく体制を整える必要がある。

われわれは今、地方の集落の浜のモニタリングを行っていく体制を、行政が積極的に整備するべきではないかと考えている。われわれはウミガメの産卵回数や卵の数などをモニタリングしてきて、その数が1990年代に大きく減少してきたことを確認してきた。しかし、それだけで自然の変動が理解できるかは全く無理で、ありとあらゆる動植物についてはその変動を押さえる必要があると考えている。確かに海岸に走るフナムシの数、砂浜のハマゴウの生えてる部分の面積を記録に残しても、何の価値があるのかは一般人には理解しがたい。しかし、長年に亘ってそこに生息する動植物の定性的、定量的評価を行い、その集落ごとの自然の健全性を検討していくことは、自然と共生していくためには不可欠な活動であり、今後の公共事業の一つになりうると考えている。(了)

■国内のアカウミガメの産卵回数の推移
国内のアカウミガメの産卵回数の推移グラフ

【ウミガメ保護活動を行っている主要な団体】

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