Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第40号(2002.04.05発行)

第40号(2002.04.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者 (横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新

◆今年の春は、ゆっくりと楽しむ間もないうちにあわただしく駆けぬけてしまった印象が強い。「ゆく春や波座(なぐら)に消ゆる帆掛船」(伊藤虚舟)。なぐら(なごろ)とは、風が穏やかになった後もなお高くうねりたっている波、あるいはその波の立っている所の意とか。ゆく春を惜しむこころとはほど遠い世間の動き、と思うのは編集子一人ではあるまい。

◆今日の貨物船は、波が高かろうと低かろうと、なぐらに消えゆかねばならないきついスケジュールをかかえる。せめてものこと、高い安全性を持つ船だけが海を行き交い、海の豊かな環境や人々の安全を損なうことなく、国際的分業の進んだ経済の恩恵を享受できることを望むが、どうやら競争的経済においては、人々の自然の選択に任せるだけではそのような状況が実現しない可能性が高いようである。

◆世界各国の経済を物流面で支える縁の下の力持ちともいうべき船を「造り、維持する」という営みにおいて、短期の効率と利潤の極大化を求める個々の経済主体の合理的選択と、社会全体で、一方において、そのような選択による低価格の恩恵を享受する可能性と、他方において、中・長期での船の質の低さがもたらす事故による、環境、生命、財産への壊滅的破壊の確率の上昇とを、どのような天秤にかけて、誰のどのようなコストの負担で、より望ましい状況にわれわれの社会を近づけうるのか。本号掲載の三論文は、等しくこの問題を、それぞれ異なる立場から鋭く論ずる。高品質という差別化が競争戦略であることを説くキース・ウィルソン氏、規制にともなう主権の尊重と安全の確保の狭間での国際的努力を紹介する山田浩之氏、インセンティヴの付与という市場志向的手法の重要性を説く工藤栄介氏に感謝しつつ、多くの読者からのさらなる議論を期待したい。(了)

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