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公開シンポジウム「国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用」の開催 (結果概要)

2018.02.26

 2018年1月29日、当研究所は、日本海洋法研究会、日本海洋政策学会との共催で、日本財団の助成の下、公開シンポジウム「国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全及び持続可能な利用」を開催しました。

1.背景・目的
 公海は世界の海域の約7割を占めていますが、国家管轄権外区域(公海や深海底)の海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用については、国連海洋法条約(UNCLOS)や生物多様性条約(CBD)等の既存の国際法の枠組みでは明確な規律がありません。そのような状況をふまえて、UNCLOSの新しい実施協定の策定を目指すプロセスの一環として、2017年7月のBBNJ準備委員会第4回会合の勧告を受け、第72回国連総会決議において、BBNJに関する法的拘束力ある文書を交渉するための「政府間会議(Intergovernmental Conference)」の設置が決定されました。また、この政府間会議が2018年9月から開催されることも決定されました。

これらの動きを踏まえ、BBNJに関する諸問題の日本への影響を議論する場を設けることが重要であるとの認識のもと、日本国内の理解増進を目的として、三団体の共催で本シンポジウムを開催しました。

(左)開会挨拶をする坂元教授

(右)登壇者による記念撮影
(左から、前川チーム長、森下教授、坂元教授、白山理事、長沼交渉官、西村教授、
西本准教授、都留教授、薬師寺教授、古川部長)

2.概要
(1)冒頭の開会挨拶において、三団体を代表して、坂元茂樹・同志社大学法学部教授/日本海洋法研究会会長より、本日の参加者、登壇者、共催者、支援者への感謝の意が表明されるとともに、海洋国家である我が国にとってBBNJ交渉への積極参加は重要であること、今回のシンポジウムはBBNJに係る調査研究活動の成果の一つであることが述べられました。

(2)午前の部では、薬師寺公夫・立命館大学法務研究科教授が座長を務め、BBNJの交渉実務や法政策的観点から、5名の登壇者が発表を行いました。

 長沼善太郎・外務省海洋法室条約交渉官は、「BBNJ新協定:準備委員会における議論と今後の展望」として、これまでの交渉における主要論点である、①海洋遺伝資源(利益配分の問題を含む)、②区域型管理ツール(海洋保護区を含む)、③環境影響評価(EIA)、④能力構築・海洋技術移転や今後の議論の見通し等について説明をしました。その上で、我が国として、保全と持続的な利用のバランスがとれた、実効性のある普遍的な(多くの国が参加する)新協定の策定に向けて、引き続き交渉に取り組んでいくことを述べました。

 前川美湖・海洋政策研究所チーム長は、「BBNJ準備委員会:NGOからの報告」と題して、これまでの交渉の流れを概観したうえで、BBNJ交渉のような国際会議におけるNGOの役割として、アドボカシーや科学的な知見の提供、アウトリーチ、さらに一般的なロビー活動等の他、会議におけるサイドイベント・ワークショップ等の実施による情報提供や議論の機会の提供など、交渉において果たす役割は大きいこと、また、だからこそ継続的関与が重要であり、海洋政策研究所としても引き続きNGOとして交渉への貢献を続けていくことを述べました。

 都留康子・上智大学教授は、「環境法に浸潤される海洋法-BBNJに見られるCBDの影響」という内容で、BBNJをめぐる議論の歴史的背景を中心に報告をしました。従来海洋法の分野と認識されていた諸問題に対して、生態系の一体性が重要性という認識の下、次第に環境法の影響が強く出てきているとして、BBNJはその最たる事例であるとの指摘がありました。特に、1995年の生物多様性条約(CBD)の下で採択されたジャカルタ・マンデート以降、海洋における保護区や遺伝資源の利益配分等に係る議論が認識され始め、その後2010年の名古屋でのCOP10を受け、BBNJの議論にも弾みがついていると述べました。その上で、現在の議論は特に途上国の期待が過剰になっているとして、今後の議論においては、事実関係を明らかにする科学的知見の集積や共有等が重要であるとの指摘がありました。

 西本健太郎・東北大学准教授からは、「BBNJ準備委員会におけるMPAをめぐる議論」として、国家管轄権外区域におけるMPAの設定に係るBBNJ交渉上の論点を中心に報告がありました。まず、一口に「MPA」等といっても、一般的に受け入れられた定義はなく、実際に導入される措置には様々なものがある点に留意する必要があるとの指摘があり、その上で、BBNJ交渉ではMPA設定のための手続きや管理措置の実効性の確保に議論が集中したこと、その中で、新協定が中心となりMPAに関する措置等を決定・実施すべきという「グローバル・アプローチ」と、既存の枠組みを中心とすべきという「地域アプローチ」、その中間の「ハイブリッド・アプローチ」というモデルについての議論の紹介がありました。しかしながら、準備委員会における議論では具体的な内容については何も決まらず、今後は理念的な議論だけではなく、具体的・実際的な要素を絡めて議論する必要があるとの指摘がありました。

 西村智朗・立命館大学教授からは、「名古屋議定書から見たBBNJ」と題して、CBDの下の「名古屋議定書」とBBNJ新協定の関係に焦点を絞り、海洋遺伝資源のABS(遺伝資源へのアクセスと利益配分)に関して名古屋議定書が及ぼしうる影響について紹介がありました。名古屋議定書は、他の国際協定との関係に関して定めており、そこでは遺伝資源につき、BBNJ新協定も含めて、名古屋議定書との間で相互補完的に実施することを求めているとして、新協定の位置づけや関係性について留意する必要があるとの指摘がありました。また、名古屋議定書第10条の「グローバル多数国間利益配分メカニズム」の内容次第によっては、公海の海洋遺伝資源にも名古屋議定書が適用される可能性があるという指摘もありました。その上で、海洋遺伝資源の持続可能な利用における管轄権の内と外での手続きのバランスや、学術研究の発展を阻害しないことの重要性が述べられました。

(3)午後の部では、古川恵太・海洋政策研究所海洋研究調査部長が座長を務め、BBNJに係る自然科学の観点から、3名の登壇者から発表がありました。

 竹山春子・早稲田大学理工学術院教授は、「サンゴ礁研究―沖縄をフィールドとした現場からの報告と提言」という内容で、遺伝子研究の歴史及び関連する技術の発展を概観しつつ、遺伝子研究・遺伝資源の捉え方について解説をし、サンゴ礁保全に係る最前線の研究を例に、サイエンスに基づいた海洋の資源開発・利用・保全の重要性を指摘しました。特に、遺伝子研究は、CBDが採択された90年代には、クローン生物の作製ができるくらい成熟・発展しておきており、このころから遺伝子をめぐる捉え方に違いが出始めてきたこと。また、今日、遺伝資源というものは情報化・データベース化することでシェアが可能になってきていること。さらに、最近の分子生物学や技術の発展により、遺伝子の解析も安価でできるようになっており、途上国も参入のハードルは低いとして、全くリスクを取らず金銭的な利益配分のみ求めることは、却って途上国の発展にはつながらないという指摘がありました。

 森下丈二・東京海洋大学教授は、「MPAを含む区域型管理ツールに関する議論:BBNJと漁業」と題し、漁業の観点からの問題意識を踏まえ、BBNJの主要論点の一つである海洋保護区(MPA)を含む空間ベースの管理手法について論じました。その中で、漁業については地域的漁業管理機関を通じて世界の海のほぼ全てがカバーされているが、公海において実施されている漁業というものは漁獲全体の10分の1以下であるとして、仮に、BBNJに関するMPAが公海に設定される場合、その管理、監視、評価をグローバル・アプローチで実施することが本当に可能か、実効的かを議論する必要があることを指摘しました。その上で、現在、「ペーパーMPA」と言われる、設定はしたものの保護・保全にほとんど役に立っていないMPAが多くあるという指摘に触れつつ、今後のBBNJ新協定の交渉においては、MPAを含む管理手法の実効的な運用と管理という実態面について精査する重要性があることが強調されました。

 白山義久・海洋研究開発機構理事は、「国家管轄権外海域の生態系はいかにして保全するべきか?」と題して、国家管轄権外区域における海洋生物多様性の豊かさとそれら生物には多くの未解明な部分があることを紹介しつつ、BBNJの保全に向けた包括的論点や順応的管理の重要性についての説明がありました。報告では、200海里以遠・深海底にあるBBNJの保全に人間が働きかけて環境を保全するのは物理的にも経済的にも不可能であることを認識する必要があるとして、沿岸域における保全との違いを考慮しつつ、BBNJにおいて何が有効な管理か検討する必要があるとの指摘がありました。その上で、「順応的管理」という、生態系の複雑・不確実性を考慮した、モニタリングや評価、対応が重要であり、そのため安価な手法や技術が、今後のBBNJの保全や途上国にとっても有益であることが示されました。

 (4)パネルディスカッションでは、坂元教授が座長を務め、午前及び午後の部の報告者がパネリストとして登壇し、フロアとの質疑応答も含め、活発な議論が行われました。冒頭、坂元教授は、これまでの総括として、本シンポジウムにおいて改めて、バランスのとれた、実効的で、普遍性のある新協定を作っていく必要性が確認されたと述べました。議論では各パネリストが、BBNJ交渉の展望・課題や日本が果たすべき役割等について、それぞれの報告を踏まえて分野横断的に議論をしました。

パネルディスカッションの様子

(了)

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