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[ワークショップ全文③] 「地域社会の多様性とムスリムコミュニティーに関するワークショップ」
~ミャンマーでの調査結果を事例に~」(2017年3月28日開催)【斎藤紋子氏報告2/4】

2000.04.01

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 いくつか事例をご紹介させていただきます。一つ目は、身分証明書についてです。身分証明書に民族・宗教欄というところがあります。先に写真をお見せしますが、ミャンマー国籍を持っている人はこのピンク色の身分証明書を持っていることになっています。ただ、ミャンマー国籍を持っていても、ミャンマーの国籍法というのは国民を三つに分類しておりまして、このピンク色はミャンマー国籍を持っているミャンマーの「国民」に分類される人となります。それ以外に、「準国民」、「帰化国民」という三つの分類があります。それぞれカードの色が違って、ぱっと見れば、この人は準国民なのかな、帰化国民なのかなというのが分かります。
 これは仏教徒のものをコピーさせてもらったのですが、問題になる部分はここのところで、民族・宗教という欄があります。この人はヤカイン族で仏教徒というふうに書いてありますので、これは問題にはならないんですけれども、イスラーム教徒の場合、先ほど言ったバマー・ムスリムの人たちが、「自分たちはもうビルマ文化を受け入れているから、ここをバマー、つまりビルマ族にしてほしい」その一方で、この宗教というところで「イスラームと書いてほしい」と言うと、「ビルマ族にはイスラーム教徒はいないから、そんなことはできないよ」と、身分証明書を発行する役所で言われるという嫌がらせがあります。最近ですと、「ここはお父さんとお母さんの両方の民族を書け」と言われるので、両親が混血の場合は、例えば、お母さんがバマーとカレン族、お父さんがシャン族とモン族だと、四つ民族が書いてあるというようなことも多々あります。それについては宗教を問わず同じことが起こっているんですけれども、さらにそこでイスラーム教徒だと、そこに追記で、土着民族名プラス、「インド」にする、それとも「バングラデシュ」にする、それとも「パキスタン」にするというような、無理やり「何か外国の国名を入れろ」というふうに言われるということが実際に起こっています。
 さらに、この臨時証明書というのが問題になっていました。今はもうだいぶ回収されましたが、これも軍事政権の時から発行されているもので、先ほどのピンク色の証明を持っていない、もしくはそれ以外の、「準国民」、「帰化国民」の証明を持っていない人に発行されていました。これは臨時証明なので、国籍を持っているという証明にはならないと書いてあります。
 これは基本的には、例えば、内戦が起こっていたところでミャンマー政府と折り合いがついて、内戦が終わったので、今まで発行していなかった身分証明書を出すけれども、「とりあえず臨時の証明書で我慢してね」というような場合に出されていたということです。実際に出されていた人というのは、ロヒンギャの人が多くて、彼らは国籍がはっきりしないので、とりあえず身分証明書として渡されたものです。この身分証明書が選挙前や、憲法に対する国民投票の時にもこれが大量に発行されて、「このカードを持っていれば投票できるよ、当たり前だけど賛成に入れてね」というようなことが起こったり、軍事政権から民主化政権に変わる最初の総選挙の時にも、「このカードを持っていれば投票できます、もちろん軍政から引き継いだ政党に投票するよね」ということで発行してもらったというようなことが多々起こりました。これについては、「どこの国民か分からない人たちに選挙権を渡すのか」ということで強い反対が起こり、前回の総選挙の前に実は回収されています。彼らは投票権を剥奪されてしまい、投票できなかったということになります。
 この証明書を剥奪して、次は、何を渡しているかというと、同じようなものですが、ミャンマー語を直訳すると「帰化権審査カード」となります、National Verification Cardというのを発行しています。これは、このカードを受け取ると、おそらく今後、「外国人」として扱われるだろうといろいろな報道でも言われていますが、一応、国籍の審査をしてくれることにはなっています。これも先ほどの白いカードと結局変わらず、どこの国民と認定するものではないと書いてありまして、今、これを受け取っちゃうと外国人になってしまうのではないかとか、そういったことが非常に問題になっています。
 身分証明書をなくしたムスリムなんかは、役所に再発行をお願いしても、面倒くさいから白い臨時カードしか発行してもらえなかったという人が実はいまして、もともと国民の権利を持っていたのに白いカードを持たされてしまったと。その後、白いカードを回収されて、今まで国民だったのに突然外国人にされてしまうかもしれないと危機感を非常に持っています。この帰化権審査カードについては、誰に発行するかということも実は問題になっていまして、ムスリムの間では、「ムスリムは今後これしか発行されないんじゃないか、最終的には外国人にされてしまうんじゃないか」というような噂が流れています。その噂を否定するような報道もないので、ムスリムの人たちは、やはり不安に駆られています。



>ワークショップ全文④【斎藤紋子氏報告3/4】