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[ワークショップ全文①]「地域社会の多様性とムスリムコミュニティーに関するワークショップ」
~ミャンマーでの調査結果を事例に~(2017年3月28日開催)【趣旨説明】

2000.04.01

趣旨説明

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(堀場) 汎アジア基金では、2016年度より、日本国内におけるイスラームへの理解促進を目的の1つに掲げ、「アジアのイスラーム:実像と課題」という事業を実施しております。過激派の台頭や武力紛争の長期化が問題となる中、イスラーム社会に対する、われわれ日本人の認識や理解はあまり進んでいるとは言えません。イスラーム社会の存在を正しく理解し、関係強化をしていくことは、笹川平和財団の重点目標の一つです。

 イスラーム社会の理解といいますと、どうしても中東と理解を結びつけて考えられがちだと思いますが、実は南アジアには約4億人のイスラーム教徒(ムスリム)が存在し、ASEANの全人口約6億人のうちの半分、約3億人がイスラーム教徒ですし、アジアは最大のイスラーム教徒)を有している地域だということが言えます。

 しかしながら、世界最大のイスラーム教徒人口を有するインドネシアですとか、人口の9割がイスラーム教徒であるバングラデシュなどの国を除くと、国民国家という枠組みの中では、イスラーム教徒がマイノリティーに属している国が多いため、アジアに住むイスラーム教徒もしくはムスリムコミュニティーというものに対する関心があまり向いていないのかなと思っております。

 アジアには、さまざまな民族、宗教が共存してきた長い歴史がございます。しかし一方で、近代的な国民国家の枠組みの中での統一が強調され、違いに目を向けるのではなく、いかに同じ国家の構成員としての国民として国家を形成していくかということが大きな課題となる中で、マイノリティーが住みにくい社会になっていったという経緯もございます。

 しかし、もともとアジアは多様性に富んだ、共存の知恵がある地域です。日本にとって重要なパートナーであるアジア諸国の理解を促進するためにも、地域の多様性を理解し、共存の歴史と知恵を知ることはとても重要だと思っております。また、その中に存在するムスリムコミュニティーについて理解することは、イスラームの多様性を知ることにつながりますし、マイナスのイメージに陥りがちなイスラーム教自体の正しい理解にもつながると思っております。本日のワークショップを通して、アジアにおけるムスリムコミュニティーの歴史や生活を知ることで、イスラームの理解が少しでも促進されればと思っております。

 この1年間、各地で調査を行ってきた中で、今回のワークショップでは特にミャンマーに焦点を当てております。私はインドネシアの研究をしておりますが、2011年以降の民主化移行に伴い、ミャンマーの行く末を実はすごく心配しておりました。インドネシアは、1998年のスハルト政権崩壊後、一気に民主化の波が押し寄せた中で、アチェ、パプア、東ティモールでは分離独立運動、私が長く研究していたインドネシア東部のマルク州ですとか、中部のスラウェシ島というところでは住民がキリスト教徒とイスラーム教に分かれて、血で血を洗うような戦いが行われておりました。また、カリマンタン島の南部、西部では、民族の違いが争点となった紛争が起きるなど、スハルト政権崩壊直後、インドネシア各地で暴力紛争が多発いたしました。

 インドネシアでは、独裁政権下の抑圧から解放され、民主化移行期に見られたアイデンティティ・ポリティクスに翻弄された人々が、民主化の意味を履き違え、宗教や民族の違いを尊重するのではなく、相手を過激に非難し、さらなる不安をあおる現象が見られました。権威主義体制の中で利権を得てきた国軍などの一部の集団が、その対立をあおり、住民の不安感を高めることで、民主化を阻止しようとした動きも見られました。よって、ミャンマーでもインドネシアの二の舞が起きないか、大丈夫かなと心配していたわけです。

 ミャンマーの民主化のプロセスは、国軍がいまだに大きな力を持っておりますし、一方で民族紛争はまだ終結しておりません。また、2013年にタイム誌で、「仏教徒テロの顔 (The face of Buddhist Terror)」として表紙に取り上げられたウィラトゥという仏教僧の存在からも、仏教徒とイスラームの対立が先鋭化しているのではと危惧もしておりました。このようなミャンマーに対する関心から、本日は斎藤先生にミャンマーのムスリムを取り巻く現状を分かりやすくお話ししていただくことにいたしました。

 また、ミャンマーのイスラームを語る上で、国際社会が「ロヒンギャ」もしくは「ロヒンジャー」と呼んでいる、主にミャンマー西部に居住するムスリムコミュニティーについて無視するわけにはいきません。とはいえ、今回はミャンマーの都市部に住むムスリムについて調査していただいたので、ミャンマーのロヒンギャについてはその対象ではありません。しかし、ロヒンギャの問題はミャンマー国内の問題ではなく、隣国バングラデシュ、また、東南アジア各地にも広がっておりますし、地域の不安定化にも大きな懸念材料として存在しておりますので、コメントという形で、ミャンマーの外にいるロヒンギャ問題に関しての報告を、バングラデシュ研究の立場から日下部先生に、そして、タイ、マレーシア、インドネシアにいる難民の調査をしてきた当財団の岡本主任研究員から、アジア各地に広がっているロヒンギャの実情についての報告をしていただこうと思っております。

 それでは、早速ですが、ミャンマーのムスリムコミュニティー、特にヤンゴンとマンダレーでの調査報告を、斎藤先生にお願いしたいと思っております。よろしくお願いいたします。

>ワークショップ全文②【斎藤紋子氏報告1/4】