新着情報

一覧にもどる

スリン・ピッスワン氏(前ASEAN事務総長・元タイ外務大臣)講演会「タイにおける政治情勢と今後の行方」サマリー

2014.11.19

笹川平和財団は、アジア諸国において政策決定・世論形成に影響力のあるオピニオンリーダーを日本に招へいすることで、人的交流の促進、協力体制の強化、日本とアジア諸国間の相互理解の深化を目的とした「アジアオピニオンリーダー交流」事業を2014年に開始しました。本年度、本事業の第一弾として、前ASEAN事務総長スリン・ピッスワン氏を招へいし、「タイにおける政治情勢と今後の行方」と題した講演会を開催いたしました。なお、モデレーターは、東南アジアの政治に造詣が深く、バンコクに駐在経験もあるNHK解説員の道傳愛子氏に努めていただきました。
スリン・ピッスワン氏

スリン・ピッスワン氏

スリン氏は、タイと日本の二か国間関係について「タイと日本は125年に及ぶ外交関係を樹立しており、政治的にも経済的にも、密接で良好な関係を築いている。このことが、日本や日本人がタイにおける政治情勢と今後の行方を注視していることの大きな理由である」と述べた上で、「タイ政治がどのような状態にあっても、タイと日本が政治および経済の分野において良好な関係を保つことに疑いの余地はない。」と強調しました。
会場の様子

会場の様子

その上で、軍の政治への関与について、次のように述べました。「タイでは、1930年代から現在に至るまで、軍事クーデターが繰り返し行われており、民政と軍政が交互に敷かれてきた。そのため、軍の政治への関与は、タイ国民にとって強い反感を覚える類のものとはなっていない。」
また、タイにおける「クーデター」の意味について、次のように解説しました。「タイの国民、特に地方の農民層は、2001年のタクシン首相の登場により、自らが政治に関り、中央の政策決定に影響力を行使することが出来るようになるとの期待を持つようになった。実際、大衆迎合的な政策が採られ、ある程度の富の分配が地方にもなされた一方で、政治権力は、中央に集約された。そして、中央政権への過度な権力の集中により、縁故採用、職権乱用、汚職などが頻発し、タイは『中央』と『地方』、つまり『黄(反タクシン派 バンコク中間層・既得権層)』と『赤(タクシン派 主に地方の農民層・労働者層)に分断された。その後のクーデターや政権交代を経ても、『中央』と『地方』の格差は広がり続け、2013年10月末にはバンコク市街が反政府デモ隊に占拠されることとなり、対立は決定的なものとなった。さらに2014年2月の総選挙や5月のインラック首相の辞任を受けても、『赤』と『黄』の対立が収まる兆しは見えず、ついに2014年5月22日のクーデターの日を迎えた。つまりクーデターは『赤』と『黄』の対立がさらに高まり、その着地点が見えない中でのタイにとって必要な『息継ぎ』のための空間であった。タイ国民の85パーセントは、息継ぎがなされたことにより、『赤』と『黄』の全面的な武力衝突を避けられたことに安堵を覚え、軍の介入を支持した。」
さらに、今後のタイ政治の行方について「軍は、『改革』と『地方分権』を掲げて、クーデターを実行した。立法会議、暫定内閣、改革会議が立ち上げられ、新憲法の公布とその後の民主選挙の実施を2年以内に目指している。民主政治には、憲法の尊重、過度な権力の行使の防止、縁故採用のない官僚制の設立などが必須であり、民主化のプロセスに、国民が出来うる限り関わっていくべきだと考える。タイ国民は、過度な中央への権力集中により国が窒息した教訓を胸に、『タイの民主主義は、今後どうあるべきか。また民主政治に軍がどのように関わっていくのか。』ということを考えていかなくてはならない。タイの民主化には時間が必要であり、日本からの助言、支援、共感、理解、そして忍耐が期待される。」と締めくくりました。

左から:スリン・ピッスワン氏とモデレーターの道傳愛子氏

左から:スリン・ピッスワン氏とモデレーターの道傳愛子氏



関連情報

「アジアオピニオンリーダー交流」事業

2014年10月23日開催 スリン・ピッスワン氏講演会