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セイエッド・アッバス・アラグチ氏(イラン外務事務次官)講演会「中東情勢とイランの新たな役割」要約

2017.12.15

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 笹川平和財団は、「イランと国際社会の関係構築支援」事業の一環として、イランのセイエッド・アッバス・アラグチ外務事務次官を招へいし、201788日に『中東情勢とイランの新たな役割』と題する講演会を行いました。アラグチ氏は、中東地域の変化、イランの政治体制、核合意(JCPOA)を取り上げながら、以下のように対話と協力のアプローチの重要性を説きました。

■中東が抱える問題と変化

 中東という重要な地域における様々な動きは直接的に国際情勢に影響を与える。そして、この地域は深刻な課題に直面している。例えばシリア・イエメン・イラク・アフガニスタンにおける内戦、全体主義的な政権、貧困や経済の不平等、外国の介入、テロリズムなどである。そしてパレスチナ問題も継続している。

 同時に中東におけるプレーヤーの性格や位置づけに変化が生じている。エジプト・シリア・イラク・サウジアラビアといった伝統的な既知の大国に加え、イランやトルコのような非アラブ諸国が影響力を増している。さらに、非国家主体・テロリスト集団・中東域外の国々も重要なプレーヤーである。また、ソーシャルネットワークやメディアを介した市民社会が新しい主体として中東に形成されつつある。全体として、中東は、混乱と不確実性を伴う移行期を経験している。

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■イランの2つの力の源

 このような状況において、イランはもっとも安定した地域大国として台頭しつつある。その源は、軍事力というよりも、国民の力である。つまり選挙制度と民主主義体制である。選挙に関しては、先の選挙の投票率は72パーセントと非常に高く、厳しくかつ激しい選挙戦が繰り広げられた。また、体制に関しては、イランは欧米的な民主主義ではなく、イスラーム民主主義である。すなわち、イスラームの原則や価値観と民主主義の制度が共存している。これはイランの人々が革命ののち自ら作り上げたものである。

 確かに、イランはミサイルなどのすぐれた防衛力を有している。しかしこれは従来型の通常の弾頭しか載せられないように設計されているうえ、防衛のためだけに使うことになっている。この能力もまた、国内で培ったものである。イランは、中東においては唯一、自分たちの力で安全保障を構築している。同盟国関係や安全保障条約を結ぶこともしていない。このような状況下で中東地域のテロと戦っている。

■交渉というアプローチ:JCPOAを例に

 中東地域が抱える様々な問題は、グローバルな脅威であるテロを除けば、軍事的には解決できない。平和と安定を実現するためには、対話と協力が必要である。ただ、これら二つの要素を追求する前に、どちらかが勝ってどちらかが負けるというwin-loseではない、win-winのアプローチを導入しなければならない。

 イランはこの政策に基づいて活動している。具体的には、核合意に向けた交渉と、それを通じて生み出されたJCPOA(包括的共同作業計画)である。JCPOAは、アメリカとイラン双方がwin-loseのアプローチをやめたことによって、平和的な合意に達した結果可能になった。より具体的には、アメリカは濃縮に関するイランの権利を受け入れ、イランは核濃縮に関する活動は平和目的に限るということに合意し、一定の制約を受け入れた。その結果としてJCPOAは安全保障理事会に承認され、実際に履行されることになった。このようにwin-winのアプローチに基づく交渉が存在したからこそ、この大きな危機を乗り越えることができたのである。

 JCPOAは二つの部分からなる。核に関する部分と、制裁の解除に関する部分である。前者に関しては、イランがこの合意を遵守しているという点において完全に成功している。また、エネルギーや輸送部門における他国とのビジネスは正常化し非常にうまくいくようになり、JCPOA前と比べて経済は9パーセント成長したし、インフレ率は1桁になった。しかし後者に関してはまだ不足している部分があり、銀行部門での制裁がまだ若干残っている。JCPOAを生産的な雰囲気の中で実施するという約束をしたにもかかわらず、今のアメリカ政権はそれと反対の方向に向かっている。アメリカはJCPOAに違反しているのではないか。

 しかし、いずれにせよ、JCPOAは全体としては非常に安定した状況にある。安全保障理事会・国際社会・EUをはじめとするヨーロッパ諸国など多くの方面からのサポートがあるからである。特に、ヨーロッパ諸国は、アメリカの新しい方針あるいは政策が何であれ、イランと経済的・政治的な関わりを維持するということを主張している。このように、国際社会においては、イランはとても強力なポジションを持つことができている。

 我々がJCPOAから学ぶことができる教訓があるとすれば、こういったきわめて複雑な問題に対する解決とは、全てを諦めることでも、全面対決することでもなく、双方に利があるようなwin-winのアプローチをベースにして、お互いに対して敬意を払いながらきちんと交渉をすることである。これはアジアにおける問題にも使えるアプローチであろう。このようにすることで、平和と安定と繁栄を世界全体で謳歌することができるようにと願っている。

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