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ヌーマン・クルトゥルムシュ・トルコ共和国副首相来日記念講演会
「新しい世界平和に向けて:イスラム文明の役割」要約

2015.04.01

P1230245_2.jpg笹川平和財団は316日、仙台で開催された国連防災会議のために来日したヌーマン・クルトゥルムシュ・トルコ共和国副首相をお招きし、「新しい世界平和に向けて:イスラム文明の役割」と題する講演会を開催致しました。新たな世界平和は可能であるかと講演会の冒頭で問いかけたクルトゥルムシュ副首相は、イスラム世界における3つの事例と、イスラム文明が平和を築く際に提示する5つの基本的な基準を語りながら、イスラム文明の果たせる貢献について話されました。

■ 世界が直面する危機と取り組むべき問い

世界は様々な危機に直面している。広範囲の地域で政治的、経済的危機が発生している。中東イスラム世界もこうした危機と無縁ではない。中東イスラム社会では2つの重要な脅威がある。一つはシリアやイラクをはじめ世界各地で発生しているダーイシュのようなテロ組織である。これらの組織の一つが「イスラミック・ステイト」と自称していることに15億人のイスラム教徒が心を痛めている。「イスラム」は語源学的にも、経験的にも平和を意味する。このような語がテロと同義に用いられていることは非常に悲しい。人々の殺害、拷問など残虐な行為を決してイスラム教と同じ文脈で語ってはいけない。こうした行為を行うテロ組織はイスラムを正しく理解していない。その一方、イスラム国と同様に危険なもの、これらの活動によって強化されているものに、イスラモフォビア(イスラム嫌悪の感情)がある。反イスラム主義というものはテロの発生を利用してイスラム教徒全体を敵として定義し対立を煽っている。こうした脅威とともに飢餓、紛争などが絶え間なく起こっている状況下、我々が問うべきは、現代社会において本当の平和、真の世界的な平和を構築することは可能だろうか、またイスラム文明がその平和のためになんら貢献できるのか否かである。

 

■ 平和共存の3つの事例

P1230354_1.jpg宗教、民族を異にする人々が共存することは可能であり、歴史上数多くの例がある。イスラム世界の3つの例からお話ししたい。一つ目は、パックス=オットマーナ、すなわち「オスマンの平和」と呼ばれていた時代のバルカン半島、そこでは、異なる宗教、宗派、民族が5世紀にわたり共存し、宗教や宗派の紛争もなかった。このことはすべての人が宗教、言語、文明、文化の自由を保障されていたから可能であった。二つ目は、オスマン帝国支配下のクドゥス州、エルサレムを含む、ダマスカスからマサダ砂漠までの広範な地域において、イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が共存し、402年間一度も宗派闘争や民族紛争が起こらなかったことである。これは、信仰の自由、自らの伝統・習慣についての教育を受ける自由、コミュニティーを形成する自由、商業の自由、移動の自由という5つの基準が満たされていたからである。三つ目の事例は、アンダルシア時代のウマイヤ朝である。アンダルシア・ウマイヤ朝はヨーロッパ啓蒙思想の背景をなし、文化、医学、芸術においても先進的で、ヨーロッパの文芸思潮やルネサンスに影響を与えた。残念なことに、ウマイヤ朝がなくなってから、イスラム教徒が改姓を迫られ、多くがイベリア半島を後にしたのである。

■ イスラム文明が人間に提示する5つの基準

3つの事例に続いて、イスラム文明が提示する世界平和のための5つのパラダイムを挙げる。

一つ目は、人間は平等であり、人種、言語、性別、経済力、階級による優劣がない。二つ目は、宗教選択の自由である。イスラム教では、アッラーは自分を信じるか信じないかの自由を人間に与えている。この選択の自由があるからこそバルカン半島は5世紀にわたり平和であった。三つ目は、力ではなく権利と正義が基本であること。現在の世界システムは、正義ではなく力に基づいた世界である。四つ目は、宗教・宗派を問わず、すべての人間にすべての資源を最大限に利用する権利を与えていること。しかし今の世界では、この権利が保障されていない。五つ目は、「マールフによる支配」。マールフとは公正性、善良さ、支えあい、相互の友好、善行といった人類共通の価値を指している。人類はこれらの価値を普遍的なものにする必要がある。

■ 世界平和を可能にする人間観 

イスラム文明では、所得の多寡にかかわらず、最も美しい姿で創造されたものが人間であり、その価値において人間はすべて平等である。これは「人間は人間にとっての狼」という人間観やすべてを経済尺度でみる「ホモ・エコノミクス」という人間観とは異なる。他方、人間には差異がありそこには緊張や不和も生じうるが、そうした緊張や不和は、武器によってではなく対話と合意により解決が図られるべきである。

クルトゥルムシュ副首相は、イスラム文明が世界平和の促進に果たす役割を過去の事例を用いてこのように話された後、テロ組織がもたらす脅威やテロの存在を利用する反イスラム主義を乗り越え、正しいイスラム理解の普及を図るべく、友好国である日本とますます協力していきたいとの気持ちを述べられました。

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