DVと虐待、加害者とどう向き合うか
更生へ向けたプログラムと制度を討議

第14回国連犯罪防止刑事司法会議のプレイベント

2021.3.17

 

 笹川平和財団(東京都港区、理事長・角南篤)は3月5日、第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)のプレイベントとしてオンライン会議を開催し、家庭内で配偶者に暴力をふるい、子どもを虐待した加害者をいかに更生させるか、その体制のあり方をめぐり日本と韓国、台湾の専門家が論議しました。

第14回国連犯罪防止刑事司法会議のプレイベント

 冒頭、上川陽子法相がビデオメッセージで、家庭内暴力(DV)や児童虐待は「世界共通の問題」だとしたうえで、「被害者への支援だけではなく加害者にも焦点を当てて、被害が繰り返されないようにする視点」の重要性を指摘しました。
 新型コロナウィルス対策に伴い、家庭内の被害の潜在化リスクが高まり、深刻化することが懸念されていることや、児童虐待に対する体制整備が不十分であり、DVへの対応で被害者になることが多い女性が大きな負担を抱えることにも触れ、実効性がある加害者更生プログラムのあり方として、関係機関の連携、予防啓発としての相談、国際的なネットワークや官民の協力の重要性を強調しました。
 笹川平和財団の角南理事長は、財団が実施したジェンダー平等と男性のあり方に関する調査研究の結果を踏まえ、2020年3月に公表した「男性の新しい役割」に関する政策提言の中で、加害者更生プログラムの受講命令を制度化するよう提案したことを紹介。この分野では欧米諸国の取り組みが進んでおり、今回のオンライン会議などを通じ「家族主義の伝統が強い東アジア」で、加害者更生へ向けた体制のあり方を共通の話題として取り上げる意義を指摘しました。

韓国と台湾では

 会議は2部構成で、第1部「東アジアの経験から学ぶ」では、韓国と台湾の専門家から法的な枠組みや加害者更生プログラムについて説明がありました。
 韓国の仁川家庭法院(家庭裁判所に相当)の調査官である宋賢鐘氏は、韓国の特徴として、DVを刑事事件として扱い、検察が刑事処罰を求めて起訴するか、家庭裁判所に保護処分を求めて送致するかを決め「国家責任で被害者を保護し家庭を回復する」と説明しました。
 1997年の家庭暴力特別法を契機に加害者更生プログラムは、接近禁止や医療機関での治療を含む保護処分の1つとして、6カ月の執行監督期間中に行われます。2018年は家庭保護事件約1万8千件のうち、およそ半数に受講命令などが出されました。加害者更生プログラムは政府が負担しますが、受講しない場合には罰金が課せられ、刑事事件として送検されることもあります。宋氏は、今後はDVに伴う離婚や非行など、家族問題を扱う「統合的なアプローチ」が必要だとしました。
 1956年に韓国初の家庭問題を専門とする相談機関として設立された韓国家庭法律相談所の法律保護部門長、朴昭鉉氏によると、加害者更生プログラムは個別、グループ、夫婦のセッションなど6段階で構成されており、計20回、60時間が基本となっています。2006、2008、2018の各年にはプログラム終了から半年後に加害者と被害者を調査し、その結果「身体的暴力だけではなく、言葉による暴力の再発も減った」という効果を、朴氏は紹介しました。
 一方、課題として朴氏は、DV通報の積極化、相談への認識向上と財政支援、加害者更生プログラム終了後のモニタリングの法制化―などを挙げました。
 台湾からは衛生福利部心理及口腔健康司(厚生労働省に相当)の李炳樟氏が、1998年制定のDV防止法の適用が2016年の改正で未婚者にも拡大され、医療機関や保育所、社会福祉の現場に「DVの疑いに気づいてから24時間以内に通報する責任が課された」と説明しました。この規定に違反すると、罰金が科せられるということです。改正後、通報数は9%増の12万件強に(2016年から2019年)。DV被害者は毎年9万7800人で、そのうち裁判所の保護命令が下されるのは約16%。加害者更生プログラムには1〜2年の間に参加しなければならず、不参加の場合は保護命令違反罪として罰金や懲役の対象になります。
 1978年に創立され、10年前から台北市の委託で加害者更生プログラムを実施している財団法人・旭立文教基金の彭淳英主任は、「法律や保護命令を理解していない加害者が驚くほど多い」と指摘。加害者更生プログラムでは保護命令などについての理解や、暴力という自分の行為に対する認識、感情を抑制する方法や「暴力以外のコミュニケーション手段」を学ぶこと、子育て教育が必須になっていると説明しました。

日本の現場では

 第2部「日本における制度設計への課題」では「加害者更生プログラム実践の現場から」をテーマに、北米を参考にした内容のプロ グラムを実施している3つの民間団体の代表が、現状を説明し課題を提起しました。
 ロサンゼルスで学んだプログラムを取り入れ、2002年から東京で、これまでに男性加害者400人を対象に実施したアウェアの山口のり子氏は、加害者は「高学歴で社会的地位も高い普通の人」「病気ではなく、ゆがんだ考え方や行動がパターン化している」と分析しました。プログラムではグループで経験を語り合い、自分を客観的に振り返り、相手の立場に気づいて価値観や態度、行動を変えていくことを目的とし、会合には52回以上通うことを求めています。山口氏は、精神的な暴力が増えていることも挙げ、女性への暴力は「女性差別と性的役割の決めつけがある社会構造に起因している」と述べました。
 一方、2005年から加害者更生プログラムを実施しているRRP研究会の古賀絵子氏は「暴力は病気ではなく責任であることを認め、良い夫であることは良い父であること」を理解してもらうことが重要だと述べました。RRP研究会のプログラムには、加害者が8〜10人のグループとなり、週1回2時間の会合に計18回参加します。古賀氏は、参加者が少なく「氷山の一角にしか対応できておらず、もどかしい」と吐露し、場所と人件費、人員の確保が困難な実情も語りました。
 内閣府DV加害者対応に関する調査研究事業会議の座長を務める中村正・立命館大学教養教育センター長は、最近の児童虐待死事件を例に、児童虐待とDVが重なり合っている現状について述べました。中村氏は15年前から大阪で、男性の暴力からの脱却をめざす「男親塾」を始め、男性グループが月2回、各2時間の会合で子育てと夫婦関係の再構築について話し合います。「子育て支援だけでは母や妻に負担がかかる」ことから、「縦軸の子育て支援と横軸のDV防止教育」の両方を取り入れる視点が示されました。中村氏はまた、児童虐待の場合は家庭裁判所が関与できるため、プログラムを構造化して「保護者指導命令の中にDV防止教育を含める」ことなどを提言しました。
 次に、「日本における制度設計上の課題」として、広島大学ハラスメント相談室准教授で全国女性シェルターネット共同代表の北仲千里氏が、日本ではDV罪がなく、保護命令も身体的暴力に対してだけであるうえに、交際相手からの暴力には適用されないことを指摘。そして①公的な相談センターでは相談できる内容が定められていない②離婚したい人や働きたい人に対しての包括的な支援ができない③民間はボランティアベースで小規模である④親や兄弟から虐待された若年女性の居場所がない⑤ソーシャルワークの概念が定着していない―ことなど、多面的な問題を提起。「被害者支援はあまりにも貧弱だ」として、包括的な支援のための官民パートナーシップの構築を提言しました。
 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の菊池安希子氏(地域・司法精神医療研究部室長)は、一般的に使用可能なリスク評価の必要性について語りました。DVを「公衆衛生上の予防」ととらえた場合に、「1次予防は発生予防としての心理教育や啓発教育、2次予防は早期発見や介入、重症化予防にあたる加害者更生プログラム、3次予防は裁判所命令による強制的な加害者更生プログラム」だと説明。リスク評価の活用と研修などを提言しました。
 こうした発表を受けて、北海道大学アイヌ・先住民研究センター客員研究員の李妍淑氏から「韓国は刑事的な側面が強く、台湾は民事的なアプローチという違いはあるが、『法は家庭に入らず』という東アジア特有の文化や一心同体的な家族観によって、加害者への処罰が軽微であるという共通点がある」との見方を表明。日本については、法的資金が投入され制度的にも進む韓国、台湾と比較すると「頑張らなくてはならない」と述べました。
 最後に法務省の早渕宏毅参事官が、民間と地域、政府が連携を深める必要性や、民事面では安全で安心な面会交流の具体的な取り組みを進めており、離婚後の面会交流と養育費は交換条件ではなく、子供の利益を最優先にすべきだとの認識を示しました。

(ジャーナリスト 村中智津子)

【参考資料】
韓国におけるDV加害者プログラムの効果検証報告書:
「家庭内暴力相談プログラムの効果に関する調査研究結果」韓国家庭法律相談所(家庭内暴力特別法の施行 20年記念討論会資料)

韓国におけるDVの法的措置の概要:
「家庭保護事件の概要」仁川家庭法院(裁判所)調査官 宋賢鍾  

台湾におけるDV加害者プログラムの概要:
「家庭内暴力加害者の認知および保護者教育支援と更生の要点」台湾衛生福利部

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