総合的海洋政策

【インド】海洋(基本)政策

  • 海洋政策声明(海洋開発局、1982)

インドの海洋の開発に関する総合的な方向性を示すものとして、首相の直接指揮の下にある海洋開発局が1982年に出した「海洋政策声明(Ocean Policy Statement)*1」があります。また、海運省は2006年、「国家海事発展計画(National Maritime Development Programme)」を作成、それを踏まえて政府が採るべき優先分野の明確化とロードマップ作製を意図する「マリタイム・アジェンダ2010-2020(MaritimeAgenda2010-2020)*2」を作成しました*3。この中では、港湾設備の現状と将来予測を示した上で、港湾を効率的に使用するために必要な設備、人員、整備計画等が具体的な目標として書かれています。さらに、大規模な海軍の近代化に取り組む国防省は、2007年に「海洋の自由な使用:インド海軍戦略*4」を作成し、2009年に改訂版を出しました。この文書の中では、地政学的な状況、インドにとって優先するべき海洋、インド海軍が果たすべき役割について書かれています。ただ、インドは海洋全般の基本法令や、沿岸域を総合的に管理する計画といった省庁をまたぐ法的基盤が整備されておらず、それぞれの省庁でそれぞれに沿岸域を管理する法律を有し、重複が指摘されています。あるのは環境保護法(Environment Protection Act、1986年)に基づく、沿岸域における活動規制や各州が作成する沿岸域管理計画です。また、世界銀行のプロジェクトとして、沿岸域総合管理プロジェクトがあり、インド各地をまたぐ大規模プロジェクトが行われています*5

海洋政策声明(1982年、抄訳)*1

  1. 1.海洋は最後のフロンティアとして知られている。インドの長い海岸線、過去の冒険心によって海洋に関する素晴らしい伝統を培ってきた。私たちの海岸を洗うインド洋は、私たちが利用する必要がある時、その機会を提供してきた。海洋開発成功のため、国中が、この知識のフロンティアを利用しようという企業精神に満ちているべきである。私たちが他の科学的分野で探究してきた経験は、海洋開発の分野においても、その努力を助けることになるだろう。必要なことは、世界の他の地域における開発に対し関心を維持し続け、ダイナミックな推進力を促す政策とその体制である。
  2. 2.国連海洋法会議において圧倒的多数の国々から採択されたことにより、海洋においては新しい国際的秩序が構築された。沿岸国の経済的権限は、海岸線から200マイルの地域まで及ぶ。この体制においては、約202万平方キロメートルの地域、陸地の約3分の2に相当する部分がインドの権限の範囲下になった。この地域で国家は、生物資源、非生物資源の利用について排他的な権限を付与された。加えて、インドは15万平方キロメートルまでの範囲の深海にある多金属団塊の回収と加工について「パイオニア・インベスタ」としても認められている。
  3. 3.長期間にわたって、海洋は人々に、近くから遠くの土地へ行くことを可能にし、多くの人々の暮らしを支える資源となってきた。現在でもインドは公的にも民間企業でも、海洋資源を利用している。この国は大量の魚、炭化水素資源を海から得ており、調査、図表作成、開発によって、基礎的な知識、海や海底に関する情報の収集といった多くの科学的な業務も行われている。海洋構造物の建設と発展の中で、進歩をみることができる。
  4. 4.広大で、複雑で、不安定な海に対しては、連携し、中央主導で、高度に洗練された開発が求められる。海から入手できる豊富かつ多様な天然資源を統制し、管理し、利用するための基本的な必要条件として、海域(海底、水質や大気の構造を含む)に関する十分な知識に基づくべきである。インド洋海域固有の潜在性を決定づける基本的な知識に加え、我々は資源を生かす適切な技術の開発もしなければならない。支援するインフラは建設してきた。全体を管理統制する効率的なシステムもまた必要である。
  5. 5.私たちは生物資源分布図、商業利用可能な生物の目録を用意し地図にすること、深海における利用可能な鉱物資源の推計も必要である。支援用のインフラ、様々な種類の研究船を必要とするような動機、資源利用のためのよく練られたプログラム、先端技術、このすべてが海洋技術の発展を促進するために必要である。インフラ部門では、公海及び200海里までの排他的経済水域については、その資産を利用するための調査をしなければならない。
  6. 6.主に進めるべき分野は、魚や海草といった生物資源の適切な利用、炭化水素や重砂鉱脈の開発、風のような再生可能な海洋エネルギー資源の利用、水質による温度変化、潮の高さ、塩分濃度、深海から多金属団塊を回収し加工することである。
  7. 7.海洋開発は他の分野における科学技術成果と結びついたものである。だから、我々は、海洋科学技術に関する基本的な発展、すなわち海洋環境技術の発展を遂げている間に、海洋環境を利用し維持するための技術的発展も連動させなければならない。200万平方キロメートルの海域までフロンティアが拡大したことは、新しいエネルギー資源、鉱物、食料へのアクセスが増したことであり、海洋技術の分野を大きくまたぐものであって、特に構造、物質、器具、深海潜水装置、船の推進システムに関係するものである。天然資源、例えば魚や海草の利用、養殖によるさらなる食糧資源の生産は、水産養殖と海洋牧場といった科学的な手法を必要としている。海洋環境について調査し予測するために必要なことは、海と海底鉱脈地図の作成と図表作成、測地、海洋力学、波、サイクロン、海洋生物、化学、物理学に関わる業務である。これらすべてに関わる研究は、当初から基本的な理解を持ち、予測能力を確保するために、様々なプロセスで審査されなければならない。海洋科学技術はまた、現在最先端のレベルを超えて、将来、大きな進展が達成されることを見越していなければならない。
  8. 8.基礎的な科学技術の研究と発展と並行して、我々は深海の調査を行うべきである。深海においても同様に、排他的経済水域とその隣接する海において詳細な調査、サンプル調査を行うことが、多金属団塊、重金属、化石砂鉱、燐灰岩の位置と豊かで経済的に利用なものであるかどうかを評価するために必要になろう。調査を行ってデータを集める際は、連携し、コストパフォーマンスがよくなるよう統合調査システムを構築するべきである。
  9. 9.深海にいる魚を利用する国産技術開発のために、より多くの努力が必要である。これは、より大きな漁船を運用するためのインフラ設備や体制を整える必要性も意味している。
  10. 10.開発プログラムの重点は、技術の獲得に置かれるべきである。自立的であるためには、これらの技術の大半は国産で開発、試験、運用されなければならない。潜水システム、位置決定・維持システム、材料開発、海洋データ収集装置、砂防工事技術、潜水艇、エネルギーと省エネルギー装置に関わる技術は優先順位が高い。新技術のいくつかは商業化して、コストパフォーマンスをよくしなければならない。
  11. 11.海洋開発にはインフラによる支援体制が絶対の必要条件である。インドでは、多様なインフラがすでに利用可能で、適切に増補しなければならないと同時に、特に、海の安全と救援、航路の体制、通信網、適切な地図と海図の向上のような基本的な支援施設などについては特に増補しなければならない。海洋資源についてのデータセンターネットワークを通して完全で信頼できる情報を提供するためのインフラ支援と、プロセスとマーケティングシステムのためのインフラ支援に、技術の発展と資金支援が必要である。これには利用可能なインフラ設備を広範囲に強化することが必要である。十分な港、造船、船の修理設備の供給に加え、様々な開発部署で十分な技術を持つ人材が必要である。
  12. 12.海洋環境と資源の監視と保護のために、法的枠組みとそれに付随する執行体制の統合が求められている。すでに海域や漁業に関するいくつかの法律が策定されている。それらいくつかの法的措置の内、沿岸警備隊は、執行の側面を担当している。海洋発展局の保護の下で、法的枠組み全体を調整するメカニズムを適切に強化しなければならない。
  13. 13.この観点から、我々は複数の異なる省庁が連携して作成したデータベースをつくらなければならない。海洋科学技術に関する情報が急速に増大する中で、このようなデータベースはより一層必要となっている。海洋開発局は、適切な収集、国の内外からの情報の照合と普及メカニズムに基づく集約したデータシステムをつくることにする。
  14. 14.自立的な技術基盤の構築には、よく訓練された人材が強く求められる。技術を持つ人材育成訓練を適切に計画する。若い科学者、技術者、エンジニアを、海洋開発プログラムに積極的に関わるようにし、国の内外のインド人研究者の参加を促すような段階を設けることとする。
  15. 15.既存の政府省庁は、このような高まる要求に対して、適切なだけの力を傾けるようにしなければならない。海洋開発局は、この重要な努力が払われてこなかった分野において、組織的な対応能力を高めるように促す省庁として、他の関連省庁と連携して機能するものである。複雑なプログラムを要する海洋開発では、よく整備された統制管理が必要とされており、海洋開発局に制度的拡大を行い、適切で迅速な海洋開発を助けるために他の省庁を動かす十分な権限を与えることが必要とされていて、それこそがインドを国際的な事業において最先端の国にすることになる。また、この事業は、海は人類共通の資産という精神に基づいて、先進国と発展途上国が深く協力することを意味している。
  1. *1 Department of Ocean Development, Government of India, "Ocean Policy Statement"
    (現在は、インド地球科学省のこちらのURLに掲載されています。)
  2. *2 Ministry of Shipping, Government of India, "Maritime Agenda 2010-2020".
  3. *3 これらの文書については海洋政策研究財団「インド港湾調査報告書」(2011年3月)において詳述しています。
  4. *4 以前はインド海軍のホームページに掲載されていましたが、現在は掲載されていません。
  5. *5 Project "Integrated Coastal Zone Management" (The World Bank).

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