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オーシャンニュースレター

第97号(2004.08.20発行)

第97号(2004.08.20 発行)

読者からの投稿 小型ボートの規制緩和で本当に得をするのは誰か

鎌倉の海を守る会幹事/神奈川県 遊魚・海面利用協議会委員◆奥田みゆき

小型船舶の規制緩和による個人船の安易な普及には問題があると考える。
縦割り行政を超えてその背景を知り、状況を見て話し合うことが絶対に必要である。
海洋性レジャーの促進は大いに結構だが、個人船であっても釣りマナーやローカルルールを無視できない。
それを可搬型ボートのユーザーにどのように周知し守らせるかは重要な課題である。

カートップボーディングの安易な普及にモノ申す

個人が釣りに利用する小型ボートに関する最近の国土交通省の規制緩和においては、時として水産業との間に軋カじることがある。私が平成13年に投稿したPWC(水上バイク)に関わる問題にもその事例をみることができる(本誌No.24に掲載、当時の5級船舶免許制度に不適切があった)。船舶の操縦技術と気象海象に関する知識や、操船者自身を取り巻く状況に応じた適切な判断能力が相対的に向上する社会でなければ、本モノのマリンレジャーの発展と普及につながるとは思わない。ここで主張したいのは、一方向からの判断による規制緩和は他人や社会環境に対する迷惑の基にもなり得るということである。

縦割り行政を超えてマリンレジャーの背景を知り、それを取り巻く状況を見て、かかわる立場を交えて話し合う事が絶対に必要である。

この度は本誌No.92土肥ペーパー※1に則して、水産からの立場で反論をお許しいただきたい。カートップボーティングは「自家用車で移動できる個人所有の釣り舟」で、好きなだけ釣り場を変えることができる。ユーザーには楽しみなことだが、プロの船頭が誘導するのではないマイボートは無知なだけに、漁業の生簀や定置網のブイに係留して網の中の魚を釣り上げようとする者(確信犯も少なくないはず)が過去にも大勢いて、個人船の安易な普及がマナーの啓発だけでは済まされない状況に発展することは、拙稿のPWC問題に続き容易に推察できる。免許制度※2をやめたとしても、海面の自然科学と社会科教育はなくてはならないのである。

ローカルルールを可搬型ボートのユーザーにどう伝えるのか

魚は日本の大切な食料資源であり、釣り場の環境と秩序の維持が重要な課題であることが認識されて久しい。第一次産業の漁業と第三次サービス業としての釣り客案内業とのバランス取りに、水産の現場は大いに苦労しているのである。こうした現代において海洋性レジャーの促進は大いに結構だが、釣りにかかわる地域の協定(ローカルルール)を可搬型ボートのユーザーにどのように周知し、守らせるかは重要な課題である。

例えば神奈川県では、漁業資源を守るために昭和45年から『遊魚協議会』を設けて釣り案内船の在り方を検討し、業者や釣り客に対し様々な規制や禁止事項を示して協力を求めてきた。その内容としては、禁漁期間。仕掛けや餌の種類に関する取り決め。竿上げの時刻や操業時間の取り決めがある。また大量の撒き餌が水質の汚染を招くことから、アミコマセの量やコマセカゴにも規格制限が設けられている。これを看板の設置や印刷物の配付などにより周知に努力し、釣りマナーの啓発とローカルルールの尊守を呼びかけているが、可搬型ボートの船長にはどのようにして伝えればよいか。それにかかる費用を誰が負担するのか。そしてルール違反する者をどのように扱うのか。

特に真鯛釣りは人気が高く、神奈川県の水産行政では毎年予算を投じて約100万尾の稚魚を相模湾や東京湾に放流しているが、そのほとんどが一般の釣り人により直接各々のクーラーボックスに入ってしまうため、漁業者の水揚げとはなっていないのが現実である。(財)神奈川県栽培漁業協会の研究によると、平成10年度の真鯛捕獲率は遊魚によるものが約70%であるという。平成3年から平成12年度に捕獲された鯛のおよその平均44%は放流魚で、そのほとんどが市場に出ることなく持ち去られる。だから鮮魚店の真鯛は色の黒い養殖魚ばかりで高値なのである。

これでは放流事業が広く国民の利益とは言い難いが、放流をやめてしまえば漁業資源がいなくなってしまう。そこで同栽培漁業協会では真鯛資源の維持、拡大を図るために受益者負担の考えにより、一般の釣り人から魚の代金をほんの少額もらうことにしたのである。

神奈川県 遊魚・海面利用協議会がつくったパンフレット。自家用ボートで釣りをする人たちに向けてマナーやローカルルールの尊守を呼びかけている。(クリックで拡大)

平成13年4月1日から『真鯛釣りには真鯛放流協力金』の名目で1人あたり1回200円を乗り合い船で徴集することとし、稚魚を放流する資金の一部に当てている。真鯛の他クロダイ、ヒラメ、メバルも育種生産し放流されていて、マイボートによる釣りでもこれらの魚は無料であるところの天然魚だけではない。しかしその代金を支払う窓口が今のところないし、こうした仕組みを知る人も少ないのではないか。まれに釣り専門誌のコラムでふれられる程度で社会的な認識は低いと推察する。

規制緩和とは自由勝手の意味ではなかったはずだ

カートップボーティングは自分勝手な釣りができるためむやみに普及させれば、沿岸域の漁業資源を増やそうとする水産サイドの施策をなし崩しにしてしまう可能性が大いに懸念される。さらに、ボートをおろすスロープをインフラ整備と呼ぶなら、駐車場や公衆トイレなどを併設しなければ地域住民の迷惑となることはさけられない。当然、受益者負担の原則において整備され管理されるものであろうと考えるが、それは誰か。

海と水産からは離れた事例だが、山梨県の本栖湖では水上バイクの利用者が国立公園内の湖畔に茂る樹木を勝手に切り倒して地図にない道路をつくり、トラックを乗り入れて簡易トイレまで設置して、バーベキューなどやりたい放題。後にはゴミや残飯が残されて、富士の自然環境を荒らしている。この事実を大問題と感じているのは私と地元住民と環境省だけだろうか。それは水上バイクを輸入、製造販売する企業にはまるで責任がないと言えるのだろうか。

国土交通省とボート業界への注文として船の安全性を求めるガイドラインとともに、製造者責任を明確にし、問題解決のための知恵を出してもらいたい。現場は対策に追われるばかりである。各地の怒りの声に耳を傾ければマイボートを禁止する地区があるのも当然のことと受け止める。ボート購入者に対して水面利用の社会的な教育や野性の動植物についての啓蒙に、努力と経費を払うのも業界の仕事ではないだろうか。

現代においては操船免許と共に釣りの免許も必要な制度なのかもしれない。自由放任は自省があってのことである。そうして成熟したおとなの社会において規制緩和がなされるべきものではないだろうか。(了)

※1 本稿はShip & Ocean Newsletter No.92 土肥由夫氏の提言「新しいマリンレジャーの普及を促す」に反論を試みたものである。また、No.83遠藤輝明氏の提言「魚は誰のモノか」を参照いただきたい。

※2 平成15年6月1日より、全長3.33メートル未満、エンジン出力2馬力以下の小型ボートには操縦免許と船舶検査が免除されることになった。

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