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オーシャンニューズレター

第97号(2004.08.20発行)

第97号(2004.08.20 発行)

「国際海事大学連合(IAMU)」 その生い立ちと将来

国際海事大学連合事務局長◆山本 恒

「国際海事大学連合」は世界の4年制商船大学の連合体である。
1999年に世界各地域を代表する7大学により創設されて以来会員数は急速に増加し、現在では43大学とほぼ全世界をカバーするに至っており、優秀な船舶職員育成と海上安全関連調査研究を通して国際海事社会への貢献を図っている。

1.「国際海事大学連合」の生い立ち

「国際海事大学連合」(International Association of Maritime Universities(以下"IAMU"と省略))は1999年11月アジア、両アメリカ大陸、太洋州、アフリカ、西欧、地中海・中東欧の6地域代表大学と世界海事大学(WMU、在スウェーデンのマルモ市)の7商船大学により、日本財団の支援を得て創設された。当時、海事教育訓練分野における国際的活動は幾つかの組織・機関で行われてはいたが、4年制船舶職員教育機関という一定の会員資格要件を共通の基盤とし、組織単位で海事教育訓練及び学術調査研究活動を国際横断的に行うものは存在していなかった。

これらの大学が共有した問題意識は次の通りであった。国際海事社会におけるグローバル化の急進展に対する高等海事教育機関としての的確な対応の重要性。海上交通の安全管理及び海洋環境保全の重要性。蓄積された海事関連技術(海技)及び調査研究能力水準の維持発展と、その次世代への伝承を国際的規模で行うことの重要性。

こうして創設に携わった7商船大学(幹事大学)は次の4項目を活動目標として設定した。

(1)次世代に望まれる総合的海事教育システムの開発。(2)国際的海事安全管理システムの確立。(3)学部レベルの統一カリキュラムの開発。(4)国際統一海技免状付与システムの開発。

幹事大学を軸に各地域ごとに推薦された合計8商船大学と日本財団を加えた16メンバーで構成する国際理事会が中心となり諸活動を開始する一方、新規会員の誘致に努め、今日では全世界4年制商船大学の9割以上をカバーする43大学を擁するまでに成長し、会員総数は特別会員の日本財団を加えて44という大組織となっている(8ページに「IAMU会員大学一覧」を掲載)。

2.IAMUの活動

IAMUは次の4つを活動の柱として、全世界に広がる会員大学ネットワークを通して目標の実現に向けて取り組んでいる。

年次総会:全会員大学出席によるIAMU運営に関する討議及び会員大学教官の論文発表を行っている。

作業部会:IAMUの目標実現に関連する各種調査研究活動を日常的に行っている。今年度からIAMUの目標である「次世代型海事教育訓練」「海事安全管理」「統一カリキュラム」「統一海技免状」のそれぞれの面から同時に取り組むことができる「年間統一テーマ」を定め会員大学が共同で調査研究活動を行うこととなった。今年度のテーマは世界商船隊の中で急激に拡大している高度なハイテク商船運航技術システムを必要とする「液化天然ガス(LNG)」。

会員提案制度:全会員大学の教官から、IAMU目標に沿った優秀調査研究活動提案を発掘し支援を行うもので、今年度は50件の中から9件の調査研究提案が厳選された。最終報告は来年度の年次総会で発表される。

編集部会:学術論文集"IAMU Journal"と会員相互交流および対外向け広報を目的とする"IAMU News"という二つの定期刊行物の編集・刊行を行っている。これらの刊行物は会員大学のみならず国際海事機関(IMO)などの世界の海事関係者にも広く行き亘っている。

こうした活動が起爆剤となり、各会員大学間での2大学間ないし複数大学間での学術交流、共通カリキュラム策定と実行の試み、教官・学生の交流などの動きも国境を越えて急速に広がり、IAMUの全世界に亘る大きなネットワークのなかで多様かつ斬新な海事教育活動が加速している。

3.活動を通して得られたこと

ここで、商船大学の国際的横断連合体という世界海運史上初めての試みから得られた極めて興味深い内容を紹介させていただく。

  1. 高等商船教育の類型:世界の商船大学には次のような「4つの型」がある。
    【第1類型】 英国(または英国連邦)型:船員資格要件に関する国際条約(STCW条約)の最低要件水準が主眼。教官は乗船経験豊富な上級海技免状所有者。
    【第2類型】 東欧型:教育期間5~5.5年で学生は海技免状と学位(学士)を取得。教官は乗船経験豊富な上級海技者と学術研究者を適当に配置。
    【第3類型】 日本・アジア型:教育期間4~4.5年で学生は海技免状と学位(学士)を取得。教官は上級海技者と学術研究者を適当に配置。学術研究の比重高い。
    【第4類型】 アメリカ型:教育期間4年間で全寮制軍隊式環境。学位と海技免状取得可能。教官は乗船経験豊富な上級海技者が主体。
    詳細は別の機会に譲らせていただくが、船舶職員教育と学術研究のバランスは第2,3類型が良く、船舶職員教育に限るとアメリカ型が最適と思われる。
  2. 商船大学-その本質的に"ナショナル"な存在:IAMU会員大学はすべて国立または公(州)立であり私立は皆無である。商船大学は各国家に制度的に縛り付けられ、それゆえにグローバル化が進行する国際海事社会の実相に機敏に対応することを著しく困難にしている。ここにIAMUの存在意義がある。会員が現実に身をおく、いわば平面の「2次元の世界」に立体の"もう1次元"を提供することにより、"ナショナル"な拘束を超越できる空間を提供できるからである。
  3. 商船大学と現実海運界との距離の拡大:グローバル化の進展に伴い、海運業界が商船大学の卒業生の受け入れを減少させてきた結果、商船大学と実際の海運業界との距離が拡大してきたようである。
  4. 会員所在地:会員大学の所在地は、例外なく、高等商船教育機関を国家財政で維持する合理的基盤を持っていた諸国、すなわち、自国輸出入貨物を基盤とする自国海運業が存在する国である。これは「海技の伝承」を考える場合に大変示唆的である。
  5. 伝統的船員教育を維持するアメリカと中国:多額の費用が掛かる船員教育を、若年層吸引力と規律とをもって維持している主要国がアメリカと中国である。両国では自国民による「伝統的な規律ある船員」が健在である、と言えよう(ちなみに日本商船隊船員の海外依存度は90%以上)。
  6. 会員大学間共通試験:会員大学間で学生の能力評価をIAMU統一試験をもって行うことができないものか、と慎重に検討しているが、なかなか難しい課題である。これは国際海事社会全体の課題でもある。

4.IAMUの今後の展望

これまで見てきた通り、IAMUは制度的に個別国家の枠組みに縛り付けられてグローバル化に対応し難い会員商船大学に、国際横断の活動空間を提供する誠に時宜を得たプロジェクトである。国際海事社会のグローバル化が一層進展する一方で、会員大学所在の各国では自国の優秀船舶職員が急減し始めている今日、これまでに築き上げた世界を網羅するIAMUのネットワークを最大限活用し、国際海事社会の最適人材供給システムを実現する、という真にグローバルな課題がIAMUを待ち受けている。(了)

■国際海事大学連合(IAMU)会員大学一覧 (クリックで拡大)
赤字:IAMUの創設に携わった7商船大学(幹事大学)、及び特別会員の日本財団
黒字:その他会員大学

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