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オーシャンニューズレター

第72号(2003.08.05発行)

第72号(2003.08.05 発行)

GESAMPとGMA ~海洋環境評価のための新システム構築をめざして~

GESAMPセクレタリー、IMO海洋環境部長◆關水(せきみず)康司

国連総会は昨年、海洋環境評価のための新しいシステムとしてGMAの設立を求める決議を採択した。GMAの目的は、海洋環境の物理的破壊をもたらす様々な人類の活動のインパクトから、海洋を保護するための国際的な活動を強化することであり、国連の海洋環境評価のための第三者機関であるGESAMPが、GMAの設立に向けて果たす役割は大きいと考える。日本の科学者及び海洋関係者の参加が望まれる。

科学的立場から海洋環境の総合評価を行ってきたGESAMP

GESAMPという言葉は、多くの読者にとってはおそらく耳慣れないものと思うが、これは国連が組織する合同専門家会合の名称で、正式には「海洋環境保護の科学的側面に関する専門家会合」といい、IMO(国際海事機関)、FAO(国連食糧農業機関)、UNEP(国連環境計画)、UNESCO-IOC(ユネスコ政府間海洋学委員会)等8つの国連機関の支援をもとに活動している科学者の集まりである。

われわれ人類の海洋に関わる活動は、海運、漁業、沿岸開発、観光等に限られるように思われているが、人類の営みが海洋環境に与える影響は極めて広範囲なものである。大洋で生成される雲が雨となり、陸地を潤し、農業をはじめ種々の人類の活動を可能にし、さらに河川や地下水脈となって海洋に注がれる大気と水の大循環は、海洋汚染や海洋環境の保全を考える上で欠かすことのできない視点である。そして、海洋での人類の活動が、領地、領海や国の管轄権を超えるものであるため、これらを規律するためには国際的な取り決めに依らざるを得ないが、国連やその専門機関で合意される環境保全のための政策や諸活動には、個々の国の利害を超えた科学的な立場からの助言が反映される必要がある。このような考えの下に、人類の活動が海洋に与える影響を、国や国際機関から独立した立場から科学的に評価し、政策の立案に資するアドバイスを提示することを目的に、GESAMPという国連の合同専門家会合が1969年設立されたのである。

GESAMPのメンバーは、IMOを始めとする国際機関が指名した科学者及び海洋関係の専門委員より構成されている。常時二十名程度の科学者メンバーの他に数十名の専門委員が維持されてきており、これまでに500名を越える科学者が、50以上の国々から指名され活動を支えてきた。わが国からも、最近では吉田多摩男(生態毒性学)、北野大(化学)、若林明子(生態毒性学)さんらがメンバーまたは専門委員として指名され貢献している。

GESAMPはこれまでに43の報告書を作成する他、4次にわたる地球規模での海洋環境の総合評価活動を行い、海洋環境の現状を評価するとともにさまざまな提言を行ってきた。GESAMPの勧告は、地球環境に関わるさまざまな国際会議で取り上げられており、1972年のストックホルムでの国連人間環境会議以来、IMOでの海洋汚染防止条約の採択、国連海洋法条約の採択、UNCEDにおけるアジェンダ21の採択等に貢献してきた。特に2001年に刊行された海洋環境の現状と評価に関わる報告書である「A Sea of Troubles」は、進行する海洋汚染と海洋資源の枯渇の現状を、変わりゆく関係、水の現状、海の生命の営み、大気と海洋、陸地と海の5つの視点より総合的に論じ、今何が国際社会で求められているか、そして問題の解決のために何をすべきなのかについて提言を行い大きな反響を呼んだ。

GMA設立の目的とGESAMPがこれから果たすべき役割

さて、持続可能な開発に関する地球サミット(WSSD)実施計画が「2004年までに海洋環境の状態に関する常設の世界的な報告・評価プロセスを構築する」ことを定めたのを受けて、国連総会は昨年、海洋環境評価のための新しいシステムの設立を求める決議を採択した。このシステムの正式名は「海洋環境の現状の地球規模での報告と評価のための国連の下での定期的プロセス」であるが、ここでは単にGMAと呼ぶことにする。

GMAの目的は、陸からの海洋汚染を含む海洋環境の物理的破壊をもたらす様々な人類の活動のインパクトから、海洋を保護するための国際的な活動を強化することである。政策決定者達は実施すべき措置のプライオリティを決めるために、海洋環境の現状とその評価に関わる正しい情報を必要としている。GESAMPのこれまでの活動にもかかわらず、現在入手できる情報は分散的であり、政策立案におけるガイダンスとして有効な情報を与える総合的な海洋環境情報システムは未だ整備されていない。特に海洋環境の破壊と衰退が、社会経済に与える長期的影響を評価するシステムは緒に着いたばかりであり、提案されたGMAはこの分野の発展を促すものとして大いに期待されている。

GMAの設立のためには、国連の制度の下で広範囲にわたる協力関係の樹立が不可欠であり、このため国連決議は、GESAMPを支えてきた8つの国連機関の協力を求めている。

GESAMPはこれを受けて、去る5月にGMAプロセスにおけるGESAMPの役割を検討し、GMA設立のための政府間会議への提案の骨子を合意した。

GESAMPはGMAの全体プロセス(概念図参照)の中で、全体システムの設計と政策レビューの段階で、大きな役割を果たすべきと考えている。特に地球規模での政策レビューの基本資料を検討するプロセスを通じて、第三者独立機関としての評価アドバイスを提供することによって、GMA全体の中で中心的役割を果たしていきたい。このためGESAMPでは現在作成の途上にある新しい戦略プランの中で、GMA支援のための科学パネルを設立する計画を進めており、そのパネルに参加する科学者の候補を掲げる名簿(プール)を作成中である。専門家名簿の作成はGESAMPを支援している8つの国連機関の共同作業として行われ、GESAMP議長との密接な調整の下にIMOのGESAMP事務局がその作成の任にあたることになるが、この秋には広く国際社会から候補者を募るための人選の手続きが具体化すると思われる。

GESAMPの事務局としては各国政府のみならず広く関連国際学会や非政府機関を通じ候補者を募ることにしているが、欧米先進国以外の地域からの専門家の参加を特に求めていきたいと考えており、この観点から、日本の海洋関係の専門家、実務者そして広く海洋に関する分野の科学者がプールの作成に参加し、GMAの設立とその世界的な実施に貢献することを期待したい。(了)



GESAMP:IMO/FAO/UNESCO-IOC/WMO/WHO/IAEA/UN/UNEPJoint Group of Experts on theScientific Aspects of MarineEnvironmental Protection

GMA:Regular Process under the UnitedNations for the Global Reporting andAssessment of the State of the MarineEnvironment

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