Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第484号(2020.10.05発行)

編集後記

帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

♦先月に日本を襲った最大級の台風10号は、日本沿岸の高水温で猛烈な台風になったという。高水温で懸念されたのは、昨年以上のサンマの不漁である。それによりサンマの回遊経路がはるかな沖合になると予測されるのである。近年のサンマ不漁には海洋環境の影響が大きい。サンマを漁るためにはサンマと外国船がいる沖合に出漁するしかないのだが、大型船を用意しても乗組員を確保できる保証がない。高いサンマを食べるか、我慢するか、悩む。
♦「海は人間活動の結果、さまざまな危機に直面している」ことに気付いて欲しい。(株)共同通信社編集委員の井田徹治氏は取材を続け、筆の力で事実を私達に届けている。温室効果ガスが原因であっても危機は一つだけではない。海水温度上昇と酸性化、そしてさらに深刻な酸素濃度の減少がある。今、人間活動による新たな危機は、動物由来感染症の新型コロナウイルス感染症である。それによる経済不況からの復興に巨額の公共投資がなされようとしている。その投資先を、旧来のものではなく、持続可能な海洋経済にしてはどうかと井田氏は説く。ブルーでグリーンな復興政策は日本ひいては世界の将来に重要である。是非ご一読いただきたい。
♦日本人外航船員の減少は深刻で、2018年には2,000名ほどにまでなってしまった。今年7月に、航路を外れてモーリシャス沿岸で座礁した日本の外航船に、日本人船員は乗船していなかった。多岐にわたる課題を再認識し、長期的観点に立って有能な船員を確保することが喫緊であることを福知山公立大学特命教授で海事研究協議会理事である篠原正人氏に説明していただいた。日本人船員の高い知識と技術、すなわち「日本の知」を継承し、日本人船員が果たしてきた役割を外国人海技者の養成に活用することは、長期的視野に立ち海技の世界標準にも貢献できると篠原氏は説く。
♦民話には危機意識を高め生活と命を守る役目がある。その伝承が危うい今日、日本財団「海ノ民話のまちプロジェクト」が2018年に発足した。そのアニメ監督と認定委員長を務める(一社)日本昔ばなし協会代表理事の沼田心之介氏より、プロジェクトの概要と特徴および将来への期待をご寄稿いただいた。例えばネットで配信中の『おたるがした』は、津波の脅威と自然信仰や復興への考え方が凝縮されている。民話の選定を機に地元松山市では演劇が上演され、語り継がれる機運が生み出されたという。民話を通した地方創生にも期待したい。ご一読いただきたい。(窪川かおる)

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