Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第460号(2019.10.05発行)

編集後記

帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

♦海洋立国推進功労者表彰は、国民の海洋に関する理解を深めることを目的に実施されており、第12回の表彰式が8月22日に総理大臣官邸で行われた。海洋の幅広い分野から、顕著な功績を挙げた5個人と2団体が表彰された。世界初のブラインドセイリングによる無寄港太平洋横断を成し遂げた岩本光弘氏や海洋プラスチック問題の第一人者である磯辺篤彦氏をはじめとする全受賞者の海への挑戦は、海洋立国日本の宝である。
♦洋上風力発電は再生可能な海洋エネルギー資源の利用として重視され、日本の周辺海域での設置が検討されている。そのなか、環境影響とくに海洋生物とその生息環境に対する影響の検討の進め方について長崎大学名誉教授中田英昭氏に解説をいただいた。欧州では洋上風力発電の設置が先行し、環境影響調査も推進されているが、それでも影響の予測や評価は不確実性が大きく継続調査が必要だという。たとえば、洋上風車の漁礁効果や付着生物による底質の変化がもたらす長期の生態系変化である。日本は洋上風力発電では後発かもしれないが、漁礁や海洋生物の研究実績の蓄積を生かした環境影響の調査・研究の進展を中田氏は期待している。
♦前号No.459で紹介された2019年海底探査技術コンペティションを主宰したXPRIZE財団は、2013年より海洋pHセンサーコンペティションを開催した。日本からハイブリッドpHセンサー開発で参加した「HpHS」チームが「値の正確さ」部門で3位となった。チームリーダーの(国研)海洋研究開発機構研究プラットフォーム運用開発部門の中野善之氏よりpHセンサー開発の道のりと、海洋酸性化問題にどのように貢献するかを教えていただいた。海水のpHは7.3~8.2と狭い範囲内で変化するので、測定精度は0.01より高くなければ正確に測定できないという。精度との闘いが信頼できるデータを取得でき、利用できることに感謝したい。
♦海女をしながら漁業体験民宿を経営する佐藤梨花子氏より、ご自身の体験と海の魅力についてご投稿いただいた。学芸員兼漁師のご夫君との出会いからご本人も海女となった経緯とその魅力を存分に具体的に書いていただいている。読者の注目点は、筆者の生活、収入、漁法、気持ちなど、それぞれに違うかもしれないが、読んだ後には海と共に生きる海女文化が消えることはないと気が付くことだろう。そして筆者のさらなる健闘を応援したくなってくるだろう。何はともあれ是非お読みいただきたい。(窪川かおる)

第460号(2019.10.05発行)のその他の記事

ページトップ