Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第452号(2019.06.05発行)

海洋環境整備船による海面清掃

[KEYWORDS]海洋汚染/漂流ごみ/油回収
前国土交通省中国地方整備局港湾空港部海洋環境・技術課課長◆矢野博文

大型化する台風や予測困難な局地的な大雨は、各地で河川の氾濫や土砂災害を引き起こし、河川より流木を含む大量のごみを海域に流出させる。
特に、周囲を陸地に囲まれた内湾・内海などの閉鎖性海域へ流出した場合、ごみは長期間滞留し、海洋環境を悪化させるばかりでなく、航行船舶の安全を阻害するなど、海上交通へも多大な影響を与える。
漂流ごみや浮遊油の除去にあたる海洋環境整備船とその活動について紹介する。

海洋環境整備船の配備

昭和40年代の著しい高度経済成長期において、生活環境や自然環境が悪化、とくに外海との水の交換が行われにくい内湾、内海では漂流ごみや浮遊油等による海洋汚染問題が生じ、海洋生物への影響、また、航行船舶への影響が頻繁に出始め、1973(昭和48)年の港湾法の改正により、一般海域(港湾区域、漁港区域を除く海域)の清掃を国が自ら行うこととなった。
これにより、海洋環境の保全を図るとともに、航行船舶の安全を確保するため、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海、有明・八代海の閉鎖性海域に、現在12隻の海洋環境整備船を配備し、海面に漂流するごみや流木、船舶等から流出した油の回収を行っている。
通常は清掃船として、年間をとおして海面に漂流しているごみの回収作業に従事しているが、災害や油流出事故が発生した時は速やかに現場に向かい、航路障害となる漂流ごみの除去や流出油の回収に従事する。

海洋環境整備船の構造・特徴

海洋環境整備船の最大の特徴は、独特な船型に表れており、一般船舶では胴体が一つの単胴型であるのに対し、二つの胴体を甲板で連結した双胴型としている点である。これは、ごみ回収装置や多関節クレーン、油回収装置を搭載するために広い甲板面積が必要であること、また、漂流ごみや浮遊油を双胴間に誘導し回収するためである。ごみの回収は、コンテナと呼ばれるごみを捕集するカゴを双胴間の海面に下ろし、ごみに向かって船を航行させ回収を行う。双胴間へ誘導できない流木や竹等の長尺ものは、搭載したクレーンにて海面で掴み直接船上へ回収する。油の回収もごみと同様に双胴間に配置した油回収装置を海面に下ろし、双胴間に誘導した油を回収する。揮発性の高い油が薄く広範囲に広がる場合は、航行撹拌や放水銃による放水拡散作業を行う。

平成30年7月豪雨における対応

2018(平成30)年7月6日からの大雨は、西日本、東日本の多くの観測地点で史上第一位となる雨量を観測し、各地で河川の氾濫や土砂災害を引きおこし、河川からは大量の流木や葦(あし)類が海域に流れ込んだ。中国地方整備局管内では、広島湾・安芸灘を中心とした海域に大量の流木が漂い船舶の航行に大きな影響を与えた。
航行船舶が流木と接触、衝突すると、船体や推進器に多大な損傷を受け、また、漂う葦類は機関の冷却水取り入れ口を塞ぎ、航行不能を招くばかりでなく、重大な海難事故に発展する恐れもある。とくに視界が効かない夜間は事故につながる可能性が高くなることから、広島県東部や周辺離島を結ぶ定期航路においては、全便運休や夜間便運休が発生した。このため、航行船舶の安全を確保し、被災者の生活への支障や経済的影響を最小限に留めるためにも一刻も早い漂流ごみの除去が必要であり、この海域を担務する中国地方整備局所属の「おんど2000」に加え、九州地方整備局の「がんりゅう」、近畿地方整備局の「クリーンはりま」「Dr.海洋」「海和歌丸」の応援を受け、1日あたり最大3隻の海洋環境整備船を投入し回収作業を実施した。
瀬戸内海、有明海・八代海、伊勢湾で回収した漂流物は、回収作業を開始した2018年7月8日より1カ月間で7,299m3に上り、これは、同海域における同時期の平均回収量の約4倍にあたる量であった。

■平成30年7月豪雨の漂流ごみ回収状況について

災害時の活動事例

平成23年3月 東日本大震災
津波により大量の漂流物が発生し東北地方沿岸域を広く覆ったことから、第二管区海上保安本部の協力要請に基づき、関東地方整備局所属の「べいくりん」、中部地方整備局所属の「白龍」が出動し、2011(平成23)年4月23日から5月20日の1カ月間、仙台湾の周辺海域で漂流ごみの回収を行った。その後、5月22日から6月20日にかけて近畿地方整備局所属の「海和歌丸」が三陸沖の周辺海域で、5月21日から6月21日にかけて四国地方整備局所属の「みずき」が仙台湾の周辺海域で回収を行い、この4隻で、家屋の一部や漁網など合計6,722m3の漂流ごみ(10tトラック約1,340台分相当)を回収した。この量は全国の海洋環境整備船が回収する1年分の量に相当する。
平成29年7月 九州北部豪雨
2017(平成29)年7月5日から6日にかけ九州北部を中心に降った大雨は、多いところでは総降水量が500mmを超え、河川より大量の流木が周防灘、有明海に流れ込み広範囲に漂流した。
とくに、多くの船舶が行き交う関門航路では、航行船舶に支障を及ぼす恐れが高まり、この海域を担務する九州地方整備局所属の「がんりゅう」に加え、中国地方整備局所属の「おんど2000」、四国地方整備局所属の「いしづち」が九州地方整備局からの要請を受け、流木の回収に加わった。海洋環境整備船による広域的な連携により、周防灘、有明海において、2017年7月6日から8月24日までに流木2,690本を含む2,033m3の漂流ごみを回収し、航行船舶の安全を確保した。
近年、台風は大型化し、上陸する数も時間降雨量50mmを超える局地的な大雨の発生回数も増加の傾向にある。自然災害を起因とした漂流ごみや油流出事故への対応など、今後、海洋環境整備船が担う役割は今まで以上に重要なものとなってくるであろう。(了)

  1. 中国地方整備局港湾空港部>瀬戸内海総合水質調査HP>海をきれいにする仕事>浮遊ゴミの回収と処理
    http://www.pa.cgr.mlit.go.jp/chiki/suishitu/kaisyu.htm

第452号(2019.06.05発行)のその他の記事

ページトップ