Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第451号(2019.05.20発行)

瀬戸内海の海洋ごみ問題 解決に向けての女子中高生の挑戦

[KEYWORDS]海底ごみ/島嶼部の漂着ごみ/地域協働
山陽女子中学校・高等学校教諭地歴部顧問◆井上貴司

海底ごみは、公的な回収者が不在であり、海底に堆積することで目視が不可能であることから、解決に向けて進んでいない問題である。山陽女子中学校・高等学校の地歴部では、瀬戸内海の海底ごみや島嶼部の漂着ごみの回収活動と啓発活動に取り組んでいる。
認知度が極めて低いこの問題について、情報発信を行い、地域協働で解決に取り組みたいと考えている。

瀬戸内海の海底ごみ

生徒たちの海底ごみ回収作業

最近、「海洋ごみ」「プラスチックごみ」という言葉を聞かない日はない。これらの問題は国際社会においても世界規模で解決すべき環境問題とされている。海洋ごみには、海岸に漂着する漂着ごみ、海上を漂う漂流ごみ、海底に堆積している海底ごみがある。地歴部では瀬戸内海の海底ごみと島嶼部の漂着ごみ問題に注目して、11年前からこれらの問題の解決に向けて、継続的な活動に取り組んでいる。
海底ごみは、公的な回収者が不在であり、海底に堆積することで目視が不可能である。さらには、認知度が極めて低いことで、解決に向けて進んでいない問題である。地歴部ではこの負の特徴を解消することが解決への道筋になると考え、海底ごみの回収活動と啓発活動を主な活動としている※。海底ごみの回収活動は、漁業者の協力のもと、漁船から底曳き網で沈積するごみを船上へ引き上げる。引き上げた漁網には魚介類と共に大量のごみが見られる。ごみの大部分はプラスチックやビニールなどの生活ごみであり、長期間の堆積のせいか細分化して破片状になっている。時には土鍋や虫かごなどもあり、海底に人が生活しているかのようである。さらに、電化製品などの産業廃棄物を引き上げることもある。生活ごみは個数比では多いが、重量比では僅かとなり、産業廃棄物が重量の大部分を占めることになる。回収したごみは船上にて分別まで行い、1回の操業は3時間以上に及び、年間を通して取り組んでいる。回収作業は自然との闘いであり、漁船が大きく揺れる日の作業もある。ごみの廃棄は容易だが、大海原からごみを引き上げることは大変困難な作業ではある。しかしながら生徒たちは使命感を持って取り組んでいる。
海底ごみの啓発活動は情報発信が中心である。瀬戸内海は閉鎖性海域であることから、沿岸部の影響を大きく受け、内海へ留まる傾向がある。つまり、沿岸域への働き掛けは必須である。そこで、「海底ごみの見える化」プロジェクトを立ち上げ、海底ごみの廃棄地をごみに表示された地理情報から流入する河川の流域であることを特定するなど、海底ごみを可視化することで、認知から理解と行動の変化を促すことを心掛けている。次に海底ごみの認知度に関する地域的な特徴の把握である。瀬戸内海の沿岸域と流入する河川の上流域において、住民を対象とした認知度調査を実施した。その結果、沿岸域の認知度は高いが、瀬戸内海からの距離に比例して認知度が低くなった。しかし、海底ごみを沿岸域特有の問題とするのではなく、流入する河川の全流域が共通認識と相互理解を持つことが重要であると考え、「海底ごみのつながる化」プロジェクトを立ち上げ、内陸部や対岸部に重きを置いた出前授業や展示会を行っている。

瀬戸内海島嶼部の漂着ごみ

島嶼部の漂着ごみ回収作業

地歴部の海底ごみの回収海域は岡山県浅口市寄島町沖の瀬戸内海である。ちょうど高梁川が注ぐ海域である。この海域の先には手島(香川県丸亀市)が位置しており、海上からも海岸に漂着した無数のごみが目視可能なほど、大量に漂着している。手島は人口30人たらずであるが、島民にとって生活の島である。過疎化と高齢化を抱え、これらの漂着ごみを回収することは困難である。海岸の漂着ごみの大部分はペットボトルやプラスチック容器などの軽量で浮遊性のごみである。廃棄から漂着までの時間が短く、新しいごみが目立つ。ごみに表示された地理情報や製造地から、廃棄地の大部分は本州などの陸域であり、廃棄から漂着まで最短3日間のごみには驚かされた。つまり、手島への漂着ごみは手島が起源ではなく、陸域で廃棄されたごみが短い期間で島へ漂着している。さらに後日、回収に訪れると前回の回収前と同じ状態に戻っており、ごみの漂着が繰り返されている。島の集落は四国側に面した南側に位置しており、海岸までは山を越えての移動となり、海岸へ立ち入ることが難しい。また、漂着したごみは植生の中まで吹き上げられ、細分化されたごみはマイクロプラスチックへと形を変えつつある。海岸での回収作業では、島民による漁船での運搬や処分など多くの協力をいただいている。

地域協働による取り組みとSDGsの視点

海底ごみや島嶼部の漂着ごみ問題は、生態系や島民、漁業者への影響は非常に大きい。そこで、問題の解決に向けて多くのステークホルダーと協働することで、より効果的な解決へ向けての取り組みが実施可能となった。1つ目は、メディアからの情報発信である。メディアはリアルタイムで広範囲へ情報発信が可能である。地域だけではなく、全国や世界へ向けて発信した。また、海底や島の様子を内陸部へ伝えることで効果的な啓発となった。2つ目は、学術活動や国際会議での情報共有である。同じ閉鎖性海域に関する国際会議や学会においても積極的に情報発信することを心掛けている。3つ目は、NPOなどの専門家との出前授業や体験学習会の実施である。未来を担う同世代の中高生や親子が参加できる体験学習会を実施して、海底ごみの底曳き体験、生き物に触れたり、海の幸を美味しく食べてもらう機会を充実させている。4つ目は、自治体との企画展示会や学習会を実施して、多くの学びの機会を設けている。
多くのステークホルダーの持ち味を生かすことで、方法論は異なるが、問題の解決へ同じ方向を向いて取り組みを共にすることで、点が線や面となってより効果的で力強い取り組みとなっていることに手応えを感じている。さらに、国連で定められたSDGs(持続可能な開発目標)には海洋ごみ問題の解決への目標が含まれ、SDGsの視点を持って活動に取り組んでいる。それは、目標10の視点:地域の特徴や差について共通認識と相互理解を持ってもらい、目標12:ごみの廃棄者の責任ある行動を促し、目標4:学びから問題の解決へ向けて理解と行動を促し、目標14:海からの恩恵に感謝して生物多様性を守るために、目標17:ステークホルダーとの地域協働による問題の解決に取り組むことを狙いとしている。
手元を離れたごみは、小さくなり、見えなくなり、拾えなくなる。これらの問題の解決に向けて、マイクロプラスチックから島嶼部への漂着ごみ、海底ごみ、河川ごみと時間を巻き戻し、消費者の手元を離れる段階での適切な判断と処分を心掛けてもらえる啓発活動を今後も実践したい。瀬戸内海では今春から瀬戸内国際芸術祭が開催される。国内外から多くのお客様が来られる。芸術への感動と共に、足元から美しい瀬戸内海でお迎えしたいと考えている。(了)

  1. 山陽女子中学校高等学校地歴部は、この活動により、第2回(2018年)「ジャパンSDGsアワード」SDGsパートナーシップ賞を受賞 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/award/index.html

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