Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第449号(2019.04.20発行)

築地魚がしコンシェルジュの活動

[KEYWORDS]魚河岸目利きブランド/持続可能な魚食推進/水産資源保護活動
(一社)東京築地目利き協会代表理事◆佐藤篤子

魚がしコンシェルジュ認定講座は、日本の魚食文化を支えてきた魚河岸が代々受け継いできた目利きの技を学ぶ、魚食推進活動の啓発を行っている。
市場の仲卸は、魚の目利きであり、江戸時代よりずっと伝え守られてきた職人技をもっている。
今後も「築地ブランド」を守り、持続可能な魚食推進のための水産資源保護活動に取り組んでいく。

築地魚がしコンシェルジュのきっかけ

2018年10月、80年に及んだ築地市場の歴史が幕を下ろしました。築地市場は日本の台所であり、取扱高世界一の市場でもあります。『築地ブランド』として、日本に限らず海外までその存在が知られています。
市場の移転が一時延期になった頃、土壌汚染問題をはじめ、さまざまな問題がテレビでもたくさん報道されました。市場内でも動揺が起こりました。また、これまで育んできた『築地ブランド』を守るために移転反対を訴える人々もおりました。
料理人であった父に幼い頃連れていってもらったあの活気のある築地、母もおさめやと呼ばれる卸業者として20年以上市場にお世話になっており、行くだけで元気をもらえる築地。長い間関わってきた私にとっても、移転は悲しく、できたら移転したくないという思いはありました。誰もがその思いを持っていたことではないでしょうか。
しかし、移転は過去にもありました。1935年の日本橋から築地への移転。このときも同じような問題は起きたそうです。
歴史は繰り返す。つまり、移転とは市場がある限り、必ず起こることです。次の移転までに、移転に左右されない価値作りが大切ではないかということを考えはじめました。
また、移転問題だけが築地市場にとっての問題ではありませんでした。インターネットの発達とともに、産地直送が増えました。市場の仲卸は中間搾取ではないかということまで言われるようになりました。市場の仲卸はただ中間マージンをとっているわけではありません。そこには、江戸時代よりずっと伝え守られてきた、目利きという職人技があります。魚の真の価値を見極める大事な仕事です。金融業界で企業の格付けをする独立した機関があるように、魚の格付けをする機関が仲卸であります。目利きとは魚の評価機能を担う存在です。消費者の求める価値の魚を見極めて提供することにプライドを持っております。このプライドこそが、築地を世界に『築地ブランド』として広めた、魚河岸の目利きブランドのことなのです。そこを伝えるために、市場の仲卸の話を聞く魚がしコンシェルジュ講座を作りました。
当初は、魚河岸の魚を食べる会としてホームパーティなどを開催するところから始め、豊洲移転が延期となった一年後、2017年11月に第一回築地魚がしコンシェルジュ認定講座を開講しました。
「どこへ行っても築地は築地」。日本の魚食文化を支えているのは、目利きが代々伝え守ってきたものであります。

実際の講座を聞いて新たな使命を見出す

千葉外房で獲れたヒラメ。今朝〆たもの(左)と3日前に〆たもの(右)を見比べて試食する。今朝のものは歯ごたえがよく見た目もぷりぷりしているが、味わいは3日前のもののほうがある。

講座内容は、築地市場仲卸の方々にすべておまかせでお願いいたしました。
旬のこと、活け〆のこと、市場のしくみのこと、江戸から伝わる魚河岸文化のこと、漁法の違いによる味わいの違いのこと、禁漁期間のこと、目利きとはなにかということなど、各方面のプロから試食を交えて直接お話を聞きます。
講座を聞いてみると、驚くことに、全員が共通して話す内容がありました。それが、水産資源の保護についてです。乱獲や、海洋環境の変化、汚染問題など、それぞれが感じていること、努力していかなくてはならないことなどお話してくださいました。
実技では、一本釣りのアジを持ってきていただき、巻網と一本釣りのアジの品質・味の違いなどを教えてくれます。巻網のアジのほうが、はるかに安いのですが、それには理由があります。巻網のものは、魚同士がぶつかるので鱗がはげてしまい、品質が悪くなります。また、巻網で獲る漁が未来の漁獲に影響を与える話などもしていただいています。持続可能な魚食推進のためには、消費者に、その魚がどういう獲り方をされたか、漁の仕方により未来の食卓に魚が消える可能性もあるという情報を教えることは、大切なことであります。

これからの魚がしコンシェルジュの活動

私たちの団体も、本年度から水産資源保護も視野に入れた活動を本格的にしてまいります。
現在、魚がしコンシェルジュは、180名以上誕生いたしました。コンシェルジュとなったみなさんは、ご自身の料理教室などで魚メニューを増やしたり、新たな資格認定講座を企画されたりして活躍しています。昨年度は、コンシェルジュを増やすという努力をしてまいりましたが、本年度より、「持続可能な魚食推進のための水産資源保護活動」をキーワードにさらに、コンシェルジュとともに活動の幅を広げる準備をしております。まずは、すぐできることとして、私たちの団体で出している、目利きが認めるお刺身に合うお醤油の売上の一部を、水産資源保護団体に寄付をさせていただくことにしました。
また、企業向け学校向けの講演活動、そして、日本を訪れる海外の方への市場案内なども組み込んでいく準備を行っています。
魚がしコンシェルジュが、持続可能な魚食推進のための水産資源保護活動のリーダー的存在として各方面で活躍していくための後押しが、一般社団法人東京築地目利き協会の役割だと思っております。
発足のきっかけから、途中で芽生えた新たな使命、そしてその使命に基づき今後活動していけるよう、本年度も3回、講座を行います。私たちに興味をお持ちの方がいらっしゃったらぜひご連絡ください。小さな活動が大きな渦になればと思っております。(了)

元平井本店平井社長の実演の後、海老を通した海洋環境の重要性も伝えながら生きた海老を各自でむいて試食します。
(一社)東京築地目利き協会「築地魚がしコンシェルジュ認定講座」について https://uogashi.mekiki7.jp/

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