Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第449号(2019.04.20発行)

改正漁業法と持続可能な水産業

[KEYWORDS]改正漁業法/TAC管理/海面利用制度の見直し
衆議院議員(自民党・広島7区)◆小林史明

2018年12月、適切な資源管理と水産業の成長産業化を両立させるため、資源管理措置並びに漁業許可及び免許制度等の漁業生産に関する基本的制度を一体的に見直す改正漁業法が成立した。
漁業資源の回復や漁業関係者の収益改善をはかる本法の適正な運用と効果的施行を通じて、日本の水産業の再生や持続可能な漁業の実現を図り、わが国が海洋大国としての水産資源の保全と持続可能な利用を目指し、 国際社会において牽引的役割をしっかり果たしていくことを願っている。

漁業の活性化と改正漁業法

改正漁業法が2018(平成30)年11月29日に衆議院、12月8日に参議院で可決され、70年ぶりの漁業法の改正が実現しました。漁業は世界的には成長産業であるにもかかわらず、日本の漁業は停滞傾向にあります。今回可決した改正漁業法を通じて、早獲り競争で量を追い求める漁業から、質を求める資源管理型漁業へ日本の漁業を転換し、漁業資源の回復や漁業関係者の収益改善を図り、成長戦略の一環として日本の漁業の再生を目指しています。
私の実家は広島県福山市に本社を持つ漁網メーカーだったこともあり、子供のころから漁船に乗ったり、世界中の漁業の話を自然と耳にする環境で育ってきました。日本の漁業の課題をつぶさに見て体感してきた私としては、悲願であった70年ぶりの漁業法の改正が日本の水産業の活性化と全国の漁業を中心とした地域社会の持続可能な発展の実現をもたらたすものと確信しています。
改正漁業法は成長戦略と行政改革の流れの中で、多くの方々に支援を頂き、実現することができました。2012年に衆議院議員となり、初めて私が出席した自民党の水産部会では、燃油対策や漁業共済などが議論の中心で、低迷する日本の漁業をどう再生させるのかという構造的な問題解決に着手できていませんでした。河野太郎外務大臣が行政改革推進本部長であった2017年、私はその行政事業レビューチーム水産庁特別班の主査として、区画漁業権の運用の見直しに関する提言をとりまとめ、意欲的で能力のある者が漁業に円滑に参加できるよう規則等の見直しを提言しました。日本の漁業の活性化を目指した気運の高まりが、2018年12月の改正漁業法の実現につながったのです。

改正漁業法の柱

今回の改正漁業法には、いくつか大きな柱があります。まず1つ目は、科学的根拠に基づく新たな資源管理システムの構築を図ることです。漁業資源の科学的評価に基づき、漁獲可能量(TAC)による漁業資源の管理を行い、持続可能な資源水準に維持・回復させることを目指しています(第8条)。また、TAC管理では、個別の漁業者の漁獲割当て(IQ)を設定し、漁獲量の管理を行います。2つ目は、漁業権の見直しで、船舶の規模に係る規制の見直し(第43条)、新規許可の推進(第42条)、資源管理責務の明確化や漁業生産に関する報告の義務付け(第52条)を規定しています。
3つ目は、養殖や沿岸漁業などの海面利用制度の見直しで、海区漁場計画の策定プロセスの透明化を図り(第62条~第64条)、既存の漁業権がない場合には、地域水産業の発展に最も寄与する者に漁業権を付与することとし、法定の優先順位は廃止しています(第73条)。この他、国、都道府県の漁村の活性化に配慮することを規定している点や(第174条)、海区漁業調整委員会の漁業者委員を公選制から任命制に見直す点(第138条)があげられます。TACが科学的根拠に基づき設定されるとの基本原則や漁業調整員会が漁業者を中心とする組織である点など、改正漁業法が目指す競争力ある持続可能な水産業の実現に向けた基本原則が揺らぐことのないよう、関係者が注視し、協力し合っていくことが肝要です。

漁業者とともに

観光漁業として期待される牡蠣養殖場の視察(右:小林史明議員、広島県福山市内海町)

改正漁業法の柱の一つであるTACの設定と運用は、科学的根拠に基づき設定されることとなっている一方、漁業者等の社会経済的条件を考慮する余地を残しています。これ自体は特に異例ではなく、資源量の大きな変動があった場合などに、漁業者への急激な影響を回避し、漁業者の生活を一定程度維持するために、漁獲枠の削減幅に一定の制限をかけるという方式は海外でも導入されています。しかし、こうした社会経済的考慮により資源量に対し過剰な漁獲が長期間にわたり過度に許容されてしまえば、TACの基本原則が揺らいでしまいます。そうした意味で、TACが適正に設定され、運用されていくよう注視していくことが必要です。
漁業権の運用については、報道では民間企業の養殖業への参入が容易になるといった指摘が目につきますが、重要なのは意欲ある方が生産的な漁業や養殖業を立ち上げ、展開できるよう制度を整備していくことだと考えています。
また、漁業は体験型観光としての可能性も秘めています。先日は地元で海苔網から海苔を収穫する船(摘採船)に乗ったのですが、海苔の収穫を目の前で見るということ自体大変興味深いものでした。ワカメについては、一口オーナー制度というのが導入されていて、オーナーには旬なワカメが届き、しゃぶしゃぶにして食べると絶品だと好評です。地元の水産養殖業は、単に食料の生産活動というだけではなく、文化的な資産でもあることを私たちは認識すべきです。現に、多くの観光客の方々から興味を示してもらった漁業者さんは、その後、俄然、やる気が出てきたというような話を聞いています。漁業者と消費者を繋ぐことで、生産現場や地域が盛り上がるという例が増えてきています。みんなで漁船に乗り、海に出て漁を体験することで、海の神秘と恵みを知り、漁業をより身近に感じてもらうのは非常に重要だと考えています。今回の改正漁業法でそうした地域密着型の取り組みが広がっていくことを期待していますし、私自身も自分の体験を今まで以上に写真や動画を通じてブログなどで発信していきたいと考えています。
海区漁業調整委員会の委員の選任については、公選制から任命制への変更について様々な意見がありました。漁業者の立場が尊重されるという原則が維持されることが重要ですが、他方、これまで硬直しがちであった漁業行政を強いリーダーシップで変えていくこともまた可能になるのではとの期待もあります。この点の運用について、しっかりと注視していくことが重要です。

持続的な日本の漁業・水産業を目指して

今回の改正漁業法で日本が持続可能な漁業の構築と水産業を基盤とした地域社会振興を進められるとすれば、これは、日本と同様に魚種が多く、小規模あるいは零細漁民が多いアジア諸国等にとっても参考になる例を示せるのではないかと考えています。魚種が多く小規模漁民が多い国では、欧米の制度をそのまますぐに当てはめるわけにはいきません。一方で、日本独自の制度を日本式と説明するのではなく、グローバルスタンダードに通じるものとして説明していくことがこれからは必要です。水産物だけではなく、漁具などもグロ―バルな取引が進んでいるわけですから、そうした国際的な視点に立った水産行政の発展を目指していかなければなりません。
今回の改正漁業法の可決は持続的な漁業を実現するための通過点で、正念場はこれからです。改正漁業法の効果的施行を通じて、日本の水産業の再生や持続可能な漁業の実現を図り、わが国が海洋大国としての水産資源の保全と持続可能な利用を目指し、国際社会において牽引的役割をしっかり果たしていければと願っています。(了)

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