Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第446号(2019.3.5 発行)

種市高等学校の潜水士育成

[KEYWORDS]南部もぐり/潜水士育成/産学官連携
岩手県立種市高等学校校長♦遠藤拓見

親潮と黒潮がぶつかり合う太平洋に面した岩手県九戸郡洋野町種市に、潜水夫が生まれて 120年の月日が経とうとしている。
日本の潜水業界に名をはせる南部もぐり。その発祥の地に立つ種市高等学校は今も全国で唯一、 水中土木作業に従事する潜水士の養成課程をもち、海洋開発を担う人材を世に送り続けている。

南部もぐりと種市高等学校

1898(明治31)年6月25日の夜、函館から横浜に向かっていた貨客船(2,835トン)が濃霧のため種市村(当時)の沖合で座礁した。漁師たちの懸命の救助により乗客・乗員とも全員無事に救出された。翌年、船体の解体、引揚げのため、三村小太郎ら4名の房州潜水夫が種市にやって来た。この工事人夫として雇われた地元の青年磯崎定吉は、潜りの達人三村にその才能を見込まれ、ヘルメット式潜水技術を伝えられ『南部もぐり』が誕生した。なお、「南部」とは種市が南部氏の治めた八戸藩の領地であったことに由来する。南部もぐりは日露戦争、第一次・第二次世界大戦などで沈んだ船などの解体、引揚げ、海難救助、港湾やダムの建設など多方面で活躍し、その舞台も国内はもとより世界各地におよび、日本のサルベージ技術の名声を高めた。
本校は1948(昭和23)年、戦後まもない困窮のどん底の時代に小学校の一室を借りて県立高校の定時制分校普通科としてスタートした。南部もぐり発祥の地として多くの者が潜水業に従事していた種市町であったが、潜水夫には徒弟制度や潜水病の恐怖からの解放、地域住民には潜水業の一般への解放という願いがあり、潜水業の近代化と地位向上を見据えて潜水士養成機関設立の気運が高まり、1952(昭和27)年12月、種市分校に1年制の潜水科が設置された。その後、1970(昭和45)年に独立校となり、1972(昭和47)年、3年制の水中土木科が設置され、全国唯一の学科として潜水業界の期待を担い、日本の海洋土木の担い手育成に邁進してきた。その後、人力に頼る工法から先端技術を取り入れた工法への変化と、本州四国連絡橋、関西国際空港、中部国際空港、東京湾横断道路などの大型建設工事における技術の高度化に対応するため、水中での各種計測機器の取扱いや測定法ならびにコンピュータ等の操作を学ばせ、近代化された土木に関する全産業分野に広く対応できる技術者を養成する目的で1988(昭和63)年に海洋開発科が新設された。

海洋開発科の現状

左/潜水プール脇にたつ装備済の生徒
右/水中溶接の実習風景
実習船種市丸

本校海洋開発科は、現場経験を積んだ職員が多く、教員10名(教諭6、実習教諭4)と船舶職員4名で、生徒92名(3年生35名、2年生32名、1年生25名)を指導している。1年生だけを見れば、町内3名(昨年17)久慈管内9名(同1)その他県内3名(同1)隣接する青森県八戸管内9名(同13)他県1名(茨城)であり、町内の中学生の減少と町外への流出が響き、入学者が大きく減少した。カリキュラムは基礎科目をはじめ測量、土木、製図、潜水関連の専門科目に厚く、特に実習には水中溶接プール(深さ2m)での実習も含め、2年間で12単位を充てている。潜水実習は、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』のロケでも使われた潜水実習プール(深さ1.2m、3m、5m、10m)と、種市漁港に繋留している実習船「種市丸」(1989年竣工33トン)を洋上に停泊させて実施している。この平成と共に歩んできた種市丸も老朽化が進み、現在代船(42トン)を建造中であり、2019(平成31)年に竣工の予定である。本科で取得できる免許は潜水士免許をはじめ優に10を超える。また、JAMSTECとの交流や関連企業から講師を招いての講演会や実技講習会を実施するなどして新しい知識や技術の導入に努めている。

震災後の取り組み

さて、東日本大震災の津波でいち早く沖合に逃れた種市丸は無事だったが、漁港の船具庫は流失した(1年後には復旧工事完成)。その震災後の本校には実にさまざまな動きがあった。
2014(平成26)年、東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センターと連携協定を結び、復興教育の一環として海洋教育に取り組んできた。種市が太平洋に面した町である以上、海について考えることは地域の生活や文化について考えることにほかならず、そこから得られた知見や新たな気づきを、地域を愛する心と地域の未来を考え、創造することにつなげていくべきものと考えている。また、復興を担う人材を確保するという観点からも、海と共に生きて地域の力になりたいと決意する人物を育成していくことは急務である。本校では、東大同センターの丹羽淑博特任准教授が開発した津波解析モデルを使い、圧縮空気を詰めた自前の酸素ボンベで津波発生装置を製作し、近隣の小中学校で出前授業を実施している。海洋教育が津波防災教育を包摂し、地域の小中高連携を果たしているという点でも、その役割は大きい。さらに2016(平成28)年、八戸工業大学との協定締結により海洋に関する教育と研究の推進、海洋エンジニアの育成に向けて連携を進めていくこととなった。
本科は潜水科設置以来、1,600名余の卒業生を輩出しており、その半分以上が潜水士として活躍してきた。特に、高卒採用者の潜水士のうち3分の1は本科の出身者である。建設業界における担い手不足は社会的な問題であり、海洋開発に関する公共工事に不可欠な潜水士も例外ではない。そのような背景もあり、2017(平成29)年には本校、国土交通省東北地方整備局、県教育委員会、洋野町および2つの関係団体((一社)日本埋立浚渫協会と(一社)日本潜水協会)による潜水士育成等に係る連携協定を結び、産学官6者の協力体制を強化した。以上のような取り組みが評価され、同年第10回海洋立国推進功労者表彰の「普及啓発・公益増進」部門で内閣総理大臣表彰を受けた。
2018(平成30)年には、これまでに業界団体の(一社)日本潜水協会、(一財)港湾空港総合技術センター等から洋野町に寄せられた多額の寄付をもって学生寮が整備され、各地から親元を離れて入学してきた生徒たちが寄宿している。少子化が進む中、海洋国家として海に関わる産業の維持に必要な若者を確保するためには、環境整備と海洋教育の充実も含めて、職場見学や就業体験を促進し海洋への関心を高めていく必要があり、本校もより一層の取り組み強化を続けたい。(了)

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