Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第445号(2019.02.20発行)

韓国海洋産業の現状と海洋金融教育の本格化

[KEYWORDS]海運産業/船舶金融/韓国海洋大学
韓国海洋大学教授◆呉聳湜

世界の海運産業は大不況に見舞われており、韓国の海運産業も大きな影響を受けている。
海運は経済と金融に詳しくなければならないし、金融は海運を深く理解しなければならない。
中長期的に海運産業の再建は、何よりも海運と金融の融合知識に根拠を置くべきであり、韓国海洋大学に海洋金融大学院が設立されたことは、韓国海運にとっては喜ばしい出来事であると考える。

韓国海洋産業の現状

最近の10年間に渡って世界の海運産業は大不況に見舞われている。海運業の市況を代表するバルチック・ドライ・インデックス(BDI)は10年前の大崩壊を経験した後、横ばいの動きが長期化しており、それはコンテナ傭船料指数を見てもあまり相違ない。その間、多くの船会社が破綻し合併を余儀なくされており、そこには世界的なメガキャリアも多数含まれている。
韓国の海運産業もその波から逃れられていないし、むしろ最も大きな影響を受けている。STXパン・オーシャン、大韓海運、現代商船など韓国有数の韓国籍船社の所有者が替わり、最大手であった韓進海運は買い手すら見つからず清算されることとなった。このような海運業界の大不況はそのまま造船業界に転嫁され、韓国の海洋産業全体が国民経済への大きな負担になっている。韓国だけではなく、世界の海運、造船産業が全体的に困難な状況にあるが、韓国の状況は特に深刻である。なぜ韓国の海洋産業はこのような困難に陥ってしまったのか。

市況産業としての海運業

海運業は代表的な市況産業である。景気が良いときは非効率的な船社も生き残れるが、指数が落ち込むといくら効率的な船社でも経営に苦しまざるを得ない。このような市況産業で生存と繁栄を決める鍵は市況を見通す眼力であろう。すなわち、市況の回復や崩壊の可能性、およびその時期をもっと精緻に、もしくはもっと間違わないように予測するのがキーポイントで、このような望ましい予測に根拠を置いた船舶の売買と傭船契約の調整がなされるべきである。韓国海運に見る最大の苦境は、もっとも船価が高かった時にもっとも多くの船を買ったためであり、もっとも高い傭船料を払いながらもっとも長い傭船契約を結んだためである。
筆者は海運業が次第に金融化されてきたのではと考えている。市況産業であれば、いつどのように投資し、いつどのように回収するかが肝心なことであり、その簡単な事実をきちんと認識せず、市況の変化に上手く対応できなかったのが、韓国海運の一番大きい過ちであった。韓国の海運業では、何とか船舶を確保し、真面目に運航さえすれば報われるだろうと思うナイーブな雰囲気が今まで強かった。それを変えなければいつまでも今の惨劇が繰り返されるだけであろう。
そのような意味で海運は経済と金融に詳しくなければならないし、金融は海運を深く理解しなければならない。中長期的に海運産業の再建は何よりも海運と金融の融合知識に根拠を置くべきであり、それゆえ、韓国海洋大学に海洋金融大学院が設立されたことは少々遅かった気はするが、韓国海運にとっては喜ばしい出来事であると思われる。

海洋金融大学院の開設の意味

韓国で最初の海運分野での金融教育は韓国海洋大学(釜山)で始まった。韓国金融研修院(ソウル)で船舶金融にフォーカスを置いた短期課程を数回運営したことはあるが、韓国海洋大学では2011年3月、海事産業大学院内に正規の修士課程として船舶金融学科(夜間)を設置し、今まで運営してきた。筆者はその学科の初代学科長に就き、海運と金融の融合的なカリキュラムの編成に携わった。

韓国海洋大学

現代重工業への見学の様子

主に海運、造船、金融業界の分野で経歴を積んできた学生達がお互いに足りなかった部分の知識を補い、異なる産業間のネットワークを作りながら、その間100名余りの卒業生を送り出すことができたのを誇りに思う。
世界的に見ても大学院の学位課程で海運金融を独立した専攻として設置しているところは多くない。英国のCASS Business School(CBS、ロンドン大学)、Henley Business School(HBS、レディング大学)そしてギリシャのAthens University of Economics & Business(AUEB、アテネ大学)等を数えることができるが、まだ日本を含めアジア圏では類似の事例が見つからない。ヨーロッパのCBS、HBS、AUEBのカリキュラムからもマリンファイナンス専攻には海運と貿易、経済と金融教育が融合されていることが分かる。

社会人を相手にする夜間(主に週末)コースの修士課程から一歩進み、2018年の9月1日、韓国海洋大学に新しく海洋金融大学院が開設された。これは韓国で海洋金融教育が本格化したことを意味する。海洋金融大学院は釜山を新金融中心地として育成することを目指す政策の一環で、中央政府(金融委員会)と地方政府(釜山市)が共同で支援するグローバル金融専門家養成事業に、釜山大学(派生金融)と韓国海洋大学(海洋金融)が選定され、韓国海洋大学内に設置された。グローバル金融専門家養成事業には国費と市費が4年間総じて80億ウォン支援され、大学院課程の設置、運営と人材養成に全額支出される。
海洋金融大学院では、既存の夜間コース15名と別に、全日制コースで毎年15名の大学院生を選抜し、3学期45単位として構成され、課程修了者に経営学修士(MBA)学位を授与している。夏季・冬季休暇にも休まず特別プログラムを提供し、特にギリシャの AUEBとの協力を通じてアテネで1カ月間の集中講義の運営を推進している。海洋金融大学院は現在その第一学期に入っており、海運と金融業界より優秀な人材が多数派遣され、大学新卒の学生と一緒に生活し、一緒に学習している。
筆者は今まで機会があるたびに海運金融の中心に立つためには教育と研究が重要であると強調してきた。本学での海洋金融大学院の出帆にてその一つが報われたようで幸いに思っている。ここの卒業生たちが近未来に韓国と世界海運に「地の塩と世の光になる」(マタイ福音書)ことを望むばかりである。(了)

海洋金融大学院の開設式
  1. バルチック・ドライ・インデックス(BDI)=ロンドンにあるバルチック海運取引所が算出・公表する、外航不定期船(外航ばら積み船)の運賃指数。

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