Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第445号(2019.2.20 発行)

未来の海洋はロボットで切り拓く~海中ロボットの複数利用がひとつの鍵~

[KEYWORDS]AUV/海洋産業/地球温暖化
(国研)海洋研究開発機構 海洋工学センター 海洋基幹技術研究部 部長◆吉田 弘

海は残された産業フィールドであり、地球環境問題のオリジンでもある。
わたしたちはもっと海を知るべきであり、海を知ろうとする活動を通じて、未来に向かってやるべきコトの答えを得られるのではないか。
筆者は専門分野である海洋ロボットをソリューションの一つとして提案し、その重要性、これまでと今後やるべきことについて説明する。

海を自分ゴトに

大きな海という領域を有している日本に住む人たちは、海をもっと知るべきだ。海を自分ゴトとして捉えるために、問題となっている環境問題は何か、日本の海にはどんな産業ポテンシャルがあるのか、環境に優しい海の産業はどうやっておこすのか、これらのことを興味をもって調べるべきである。本稿では、読者のみなさまに「ロボット」と言う最近急速に身近になってきたアイテムを中心において、ロボットが海でどう活躍するのかを知ってもらいたい。

日本の海は宝の山

■図1 2機のAUVによる熱水鉱床の調査
(上)調査方法 (下)調査結果(電気抵抗値)

日本の領海と排他的経済水域を合わせた面積の広さは世界で6番目という話は本誌で何度も出てきたと思う。日本の海底地形は特殊で、ほとんどの海は急激に深くなっている。その深さは数千メートルもあるのだ。では、あなたは素潜りでどれくらいの深さまで潜ることができますか。船でさえも海には潜れない。そう、深い海の中で何かをしようと思い立ったら、人は潜水艦かロボットを使わなくてはならない。潜水艦は非常に巨大で維持・運用のコストが高くとても産業で利用できるような代物ではない。では、日本に実用的な深海ロボットがどれくらいあるかというと10機もないのだ。人類はまだ海の面積の数%のエリアしか調査できていないそうだが、日本の海ももちろん少ししか調べられていない。なのに、すでに日本の海には、メタンハイドレートというエネルギー源やベースメタルやレアメタルが採れる深海の鉱床、そしてレアアースがたっぷり入った海底の泥まで見つかっている。その量・質ともかなりなモノだ。現在もこういった海底資源の調査や採掘試験は行われているが、ロボットの数が圧倒的に少ないことから、船から道具を下ろして調査や試験が行われている。しかし、例えば3,000メートルの深海にある鉱物の調査を船からやると、富士山の上から道具を麓まで下ろして作業していることになるのだから、非常に効率が悪い。やはり現場に行って作業すべきだが人はいけない。
ロボットをたくさん作り海に放てば解決、と思うのは性急である。じつは陸や空のロボットの問題と同じで、ロボットはあまり機敏ではなく賢くもないのだ。海中ロボットには人が搭乗するタイプ(HOV: Human Occupied Vehicle)、遠隔操作するタイプ(ROV: Remotely Operated Vehicle)、そして自律するタイプ(AUV: Autonomous Underwater Vehicle)がある。そもそもロボットを使う理由は、コストを下げ、作業効率を上げるためだ。調査船を利用するとそれだけで一日あたり数百万円のコストがかかってしまう。HOVとROVは必ず母船を必要とするためコスト削減できない。AUVを利用するのがコスト的に最も良い方法となるのだが、技術的な問題でAUVはまだ賢くない。
そこで考えたのが賢くなくてもできることだ。単純なジグザグコースを走り回り、その間に海底地形図や物理・科学計測をする。さらに効率アップのために、ロボット(AUV)を一度にたくさん放つという方法である。(国研)海洋研究開発機構の研究・開発グループでは、2010年からその構想をたて、大型外部資金や内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の資金により、 AUV 3機とそれを洋上からサポートする洋上ロボット(ASV: Autonomous Surface Vehicle)2機を開発した。AUVは完全な自律運用ではなく、ある程度の状態監視(管制)を行うためにASVを必要とする。2017〜18年度にかけてこれらロボットを使い、笠谷貴史主任技術研究員ら※1が伊豆・小笠原と沖縄トラフの熱水鉱床の観測をおこなった。
特筆すべき使い方は、2機のAUVを用いた電気探査である。電気探査は海中に電流を流し、海底に染み込んだ電流が通過する媒体の違いで受信する電圧が変化することを利用して海底下の鉱物分布を知るという画期的な方法である。従来は受信機を海底において計測していたが、1機のAUVに送信機、もう1機に受信機を搭載し動的に計測した世界ではじめての例となった。このAUV複数運用では、異なる形状のAUVの距離を一定に保ちながら計測するオペレーションが大変であったが良い成果を得ることができた(図1)。

温暖化は待ったなし

地球温暖化により、いま、夏場の北極の氷が急激に溶けてきており、その影響がわたしたちの生活に少しずつ影響を与え始めている※2。わたしたちは「関係ない」とそっぽを向いていて良いのだろうか。北極はもともと海だ。それを海氷が覆い太陽光を反射している。氷の下を調べ、氷の厚みや海水の状態、生物などがどのように変化しているかを早急に調べる必要がある。データが無いと科学者は原因をつかみ未来を予測できないからだ。溶けているとはいえ氷の覆うエリアは数千キロメートルに渡る。ここへ調査にいけるのもロボットだけ。氷の下のロボットは故障すると帰ってこられなくなることから、深海ロボットよりさらに技術が難しくなる。しかし、できないと言ってはいられない。現在可能なロボット技術でロボットを用意して調査を行いながら、並行してあらたな技術研究開発をするべきなのだ。

わたしたちはどうすれば

海は日本の新しい産業を生み出す大きなポテンシャルを持っている。また同時に地球温暖化を始めとする様々な環境問題(マイクロプラスチック、リンや窒素の増加、海洋酸性化等)をかかえた場所でもある。持続可能な社会のために、わたしたちは経済と環境を両立させて未来に進まなければならない。そのひとつのキーワードがロボットだと考えている。世界の人口は増え、人は快適な生活を覚えた。経済活動をいまさら辞めることはできないだろう。だとしたら、経済=科学技術が生んだツケは科学技術で払うべきである。その対処のためのプラットフォームとして、ローコストなロボットを多く用意する必要がある。使えるロボットはグズでノロマではいけない。海洋ロボットは、時事刻々と変化する周囲環境に対応し、非定型的な作業に挑む必要がある。そのようなロボットの実現には、流行りのソフトウェアによるAI(人工知能)だけでは不十分であり、ハードウェアレベルでのAI化や運動制御の高度化、ロボットによるコンテクストの理解、人との協働のためのアルゴリズムなどが必要となる。また、おおきなシステムデザインとアーキテクチャレベルでの発想も重要。海洋ロボットだけでもやることは山ほどあるが、造船を除いた海洋の技術者はほんの少ししかいない現状がある。上記のような社会問題を意識し、海を自分ゴトにして、海洋に携わろうという人が増えていくことが、日本の未来を作ることになるのではないだろうか。(了)

  1. ※1世界初、AUV複数基運用による海底下構造調査に成功、2018年8月24日報道発表 http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/quest/20180824/02.html
  2. ※2ピーター ワダムズ、「北極がなくなる日」原書房(2017)
ページトップ