Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第443号(2019.01.20発行)

大洋州島嶼国の沿岸資源管理への国際協力~東日本大震災から学ぶ~

[KEYWORDS]住民主体の沿岸資源管理/災害からの復興/女性の起業
バヌアツ・豊かな前浜プロジェクト、国際協力機構専門家◆枝 浩樹

大洋州島嶼国は、水産資源が大きな財産となっていますが、近年の水産資源の減少と共に、大規模自然災害による深刻な被害が度重なっています。
一方日本では、大規模自然災害からの復興に多くの経験や教訓を持っています。
このような災害リスク管理についての日本のさまざまな経験や教訓は、大洋州の島嶼国にとって有益な参考事例として生かされる部分が大きいと考え、大洋州6カ国から行政官を招聘し研修を実施しました。

バヌアツ・豊かな前浜プロジェクト

自分たちで作った貝細工を観光客に売る地元住民

「豊かな前浜プロジェクト」という(独)国際協力機構(JICA)が大洋州の島嶼国の一つであるバヌアツで行っているプロジェクトがあります。このプロジェクトは、現地の人々自身によって沿岸水産資源を保護し、持続的に利用することを目的としています。現地沿岸コミュニティが行ってきた禁漁区の設定など、伝統的な手法を活かした資源管理と、それを実施する人々の生活を安定・向上させるための代替の生計手段の普及を組み合わせた活動を行っています。プロジェクトでは、この沿岸資源の保全と住民の生計向上を同時に進める効果的アプローチを「コミュニティ主体による統合型沿岸資源管理(Community Based-Coastal Resources Management)」と呼び、このようなバヌアツでの活動をメラネシアの近隣国を中心に大洋州の他の島嶼国にも広げることを目指しています。
また、これまでのプロジェクト活動の注目すべき成果の一つとして、男性中心の伝統的な社会において女性に新たな機会が創出されたことがあげられます。プロジェクトでは、浅瀬で生きた貝を採取している女性たちに、浜に打ち上げられた貝殻を利用した貝細工づくりを紹介しました。今や、女性グループは貝細工を始めとした民芸品を制作し、自ら観光客たちに販売するだけではなく、さらに魚料理の小さなレストラン「フィッシュカフェ」を起業して地元の料理を提供するまでになっています。女性たちは、これらの活動を通して現金収入を得ると共に、これまでの近隣島嶼国からの輸入品に代わって「Made in Vanuatu」の土産品を提供することにより、観光振興にも貢献しています。バヌアツでは、これまで女性がこうした経済活動に参加することはほとんどなく、多くは家事に従事していますが、こうした機会の創出は、女性の社会的地位の向上につながっています。
一方、バヌアツを含めた大洋州島嶼国では、水産資源が沿岸住民の主な生計手段となっていますが、近年の水産資源の減少と共に、大型のサイクロンの発生や火山の噴火、地震と津波による深刻な被害が度重なっています。被災した住民やコミュニティは、それぞれの生活を再建していかなければなりませんが、資源や資金力に限りのある島嶼国では、国による支援には限界があり、住民自身による努力にも工夫が必要です。一方、台風や地震の多い日本では、多くの経験や教訓を持っており、復興のための住民の努力とそれを支援する公的仕組みが比較的整っています。このような災害リスク管理についての日本のさまざまな経験や教訓は、大洋州の島嶼国にとって有益な参考事例として生かされる部分が大きいでしょう。

日本研修と地域セミナープログラム

「たみこの海パック」の阿部民子さんと共に

このような考えから、「豊かな前浜プロジェクト」では、地域住民自身による沿岸資源管理や防災、被災後の再建の事例などを大洋州の島嶼国の方々に学んでもらうため、水産行政を担当する政府機関において沿岸漁業や漁村開発を担当する行政官、またはジェンダーを担当する行政官を日本へ招聘し研修を実施しました。この研修は、2018年5月に実施された第8回太平洋島サミット(PALM8)開催時期に併せて行われ、「沿岸水産資源とジェンダーと災害リスク管理」をテーマに、バヌアツ、ソロモン諸島、フィジー、サモア、トンガ、パプアニューギニアの6カ国が参加しました。
研修では、まず東京海洋大学で「漁村における沿岸資源管理と生計向上」と「ジェンダーと防災」をテーマに東京海洋大学・馬場治教授と静岡大学・池田恵子教授から講義を受け、その後、東日本大震災に襲われた東北地方で取り組まれている養殖など水産資源を利用した地域経済復興の事例を学ぶため、南三陸を訪問しました。南三陸では、震災後に再建された南三陸町卸売市場、海面養殖事業の復興を果たした宮城県漁業協同組合志津川支所の戸倉事業所を訪問し意見交換を行いました。また、特に女性の活躍に注目し、震災後の南三陸の漁村を活性化させるため、養殖のノウハウや海産物の加工技術を活用し、南三陸地域の新鮮な海産物のパック加工と販売の事業を立ち上げた女性起業者(たみこの海パック代表 阿部民子氏)を訪問し大洋州島嶼国の水産業での女性の貢献や女性のエンパワーメントにつながる可能性について議論しました。
さらに、本研修の最後に、沿岸の豊かな水産資源を守り、育てていくことの重要性を共に学び、今後の取り組みにつなげていくことを目的としJICAプラザ東北においてワークショップを開催しました(プログラム参照)。ワークショップでは、東日本大震災後の地域社会や経済の復興における女性起業家と地元漁協の取り組みや、大洋州の島嶼国における沿岸住民の水産資源の保全と住民の生活の向上に向けた取り組み、さらに水産資源が役立っている事例などをお互いに紹介しました。また、大洋州の島嶼国でも地震や津波などの大規模自然災害が多発していますので、これら国々において住民コミュニティの日々の水産資源の保全や有効利用などの取り組みが災害後の復興にあたって大きな役割を果たす可能性について探りました。
研修に参加した各国研修員が、以上の視察や講義、ワークショップを通じて得たさまざまな情報や学びを各国の水産行政に役立てて行けるよう、今後も研修員との連絡を密にして情報共有に努めていきたいと考えています。(了)

  1. 豊かな前浜プロジェクト https://www.jica.go.jp/oda/project/1500559/index.html

第443号(2019.01.20発行)のその他の記事

ページトップ