Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第443号(2019.01.20 発行)

横浜市でのブルーカーボン事業の考え方

[KEYWORDS]海洋都市/都市と海の新しい関係性/クレジット化
(株)エックス都市研究所理事、横浜市次期環境未来都市計画に関する有識者懇談会委員◆信時正人

環境モデル都市をはじめ、国から数々の都市選定を受けている横浜市は、
ひとつのトライアルとして、海に注目した温暖化対策「横浜ブルーカーボン事業」を始めた。
市民の目を身近にある海に向けさせ、海洋都市としての特徴を活かしていく施策展開を図っている。

SDGs未来都市としての横浜

横浜市はこれまでに国から、環境モデル都市(2008年)、次世代エネルギー・社会システム実証実験都市(2010年)、環境未来都市(2011年)、そしてSDGs未来都市(2018年)に選定されている。地球温暖化対策のほか、超高齢化対策や国際化、経済対策も含めて、総合的に21世紀型のまちづくりを先導してきた。港湾都市から、海洋環境未来都市という方向への転換も視野に、物流だけでなく、エネルギーや食、資源の宝庫としての身近な海、という意識を高めて行く必要も感じていた。そこで横浜市は、副市長のすぐ下に「地球温暖化対策事業本部(現・温暖化対策統括本部)」を置き、事業を進めた。その中で、横浜市の水源林(2,800ha)のある山梨県道志村において、森林吸収源によるクレジットを創出し、横浜市内の企業等に購入していただく仕組みを構築し、カーボン・オフセットを推進した(横浜市、道志村、山梨県と協定を締結した上で、水道局と共同実施)。これによって市民や企業の身近な環境意識が高まったが、それをベースにして、目の前に展開する海で何かできないか、と考えたのが「横浜ブルーカーボン事業」であった。この基盤には、地球温暖化対策面から考えると専ら物流での海洋利用から、食やエネルギー、資源等、新しい海洋利用も模索していかないといけないのでは、という考えもあった。

■カーボン・オフセットの認証(©横浜市)
カーボン・オフセットとは、排出されるCO2等の温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方。

横浜ブルーカーボン事業

横浜・八景島シーパラダイスでの実証実験施設

UNEP(国連環境計画)が2009年に提唱したブルーカーボン。これを横浜で追求しようとしたのが2011年、東日本大震災の年であった。いろいろと各所に働きかけた結果、市内にあるリゾート施設の八景島シーパラダイスに、その「セントラルベイ」を使用する実証実験に協力して頂けることになった。(株)横浜八景島のトップが、海外には研究所をベースとする水族館も多くあり、その方向を目指していたことが幸いだった。セントラルベイに筏を組み、そこにロープを垂らし、懸架式でワカメを栽培した。そして、そのワカメの二酸化炭素(CO2)吸収量の測定にトライすることから開始した。前例のないことなので、港湾空港技術研究所の桑江朝比呂・沿岸環境研究グループ長をはじめ、現(国研)水産研究・教育機構、東京海洋大学など多くの専門家のアドバイスを頂きつつ推進した。海洋都市横浜としてユニークかつ、今後の大きな課題となるであろう「都市と海の新しい関係性」の第一歩という意識で行った。
ひとつの問題は、CO2固定に関して、食べることでは固定できない、ということであった。食べたワカメは、最終的には分解されて呼吸などを通して大気中のCO2に戻るからである。この固定化の理論に関しては、現在も研究が続けられているが、われわれとしては、横浜版ブルーカーボンと銘打ち、「フードマイレージ」(横浜でワカメを採ることによって遠方からの輸送を省く)によるCO2減、および「ブルーリソース」と呼ぶ、海水熱利用による空調効率の向上(省エネルギー)を合わせてクレジット化した。海水を常時くみ上げている水族館の施設が役に立った。これらのクレジット化に関しても前例がないため、専門家の方々にアイデアを出していただき、独自の方法論で進めた。
また、市民から見てもわかりやすいようにしたいため、横浜市で毎年行われている2つのトライアスロン大会が排出するCO2をオフセット(相殺)することを始めた。参加費に少額(1人30〜200円)のオフセット費用を上乗せしてもらってファンドとするものである。クレジット創出主体は横浜市漁業協同組合や(株)横浜八景島等。購入者はトライアスロン主催者やヨット大会主催者、地元民間企業。最近では、大手流通業者も、海で生み出したクレジットを買いたい人が多数という顧客アンケート結果を受けて、購入者として名乗り出てくれた。市民や企業が、横浜ブルーカーボン事業を通して、地産地消の可能性や、新しい地球温暖化対策に資する行動を取れると認識してくれ始めたと思う。

さまざまな都市との連携

横浜市内で栽培した昆布(2017年3月撮影)

2017年に、CNCA(Carbon Neutral Cities Alliance:2050年までに80%以上の排出量削減を目指す都市(ベルリン、ボストン、ポートランド、ストックホルム等)によるネットワーク。アジアからは唯一横浜市が加盟)から、CNCAイノベーションファンドによる補助を獲得した。「都市の特性に着目したブルーカーボン」ということで、人工の海岸線、下水処理等の影響、そこに生息する海藻など都市ならではの複合的な要素を活用した研究を進めることを、国際的なファンドを得て実施する。2018年は、このファンドを使って、これまでの沿岸での研究をさらに深化するとともに、横浜市の姉妹都市でCNCAのメンバー都市でもあるカナダのバンクーバー市と合同でブルーカーボンのフォーラムを開催した。聞くと、CNCA年次会合ではブルーカーボンという言葉を知らない都市が大半だったようだが、これをきっかけに世界的に知り得るところとなったようだった。こういった動きを国内外の諸都市と連携して進めていくことができれば、温暖化対策にもこれまで以上に貢献することができ、意義深いものと考える。
また、横浜市内ではブルーカーボン事業をきっかけに、漁協と共同で、沿岸で昆布を栽培して事業化を目指す(社)里海イニシアティブが立ち上がった。ワカメではなくて昆布を選んだのは、CO2の吸収においては昆布の方が貢献度が大きいためで、現在、横浜市ではレストラン等への販売や新しい素材としての使い方を模索し、独自の事業展開を図っている。
オーストラリアはすでに2017年から浅海域での温室効果ガス(GHG)インベントリ(ブルーカーボン量)の算定を開始している。緩和策や適応策として検討する国も多くなってきている。横浜市で始まった小さな動きであるが、国の動きも出てきた。ここでも日本は世界の後塵を拝すことのないように、民間企業や市民レベルでも、ブルーカーボンの意味するところを知り、ブルーカーボン事業を推進していくことが、非常に求められているのではないだろうか。(了)

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