Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第442号(2019.01.05発行)

編集後記

東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター特任教授◆窪川かおる

明けましておめでとうございます。お正月は伝統継承の貴重な時間が流れる。新たな年を迎え、初詣、百人一首、書初めなどの行事をなさった方も多いのではないだろうか。今年は元号が改まる特別な年である。継続と新生は常であるが、今年も海洋分野の静と動をさらに気を引き締めてお届けしていきたい。早々に相応しい3題をいただいたのでご紹介する。
◆2018年5月8日、スウェーデンにある世界海事大学(WMU)内に笹川世界海洋研究所(WMU-Sasakawa Global Ocean Institute)が日本財団の支援により創設された。その活動と意気込みをRonan Long所長にご寄稿いただいた。活動の筆頭には、SDGsのうち教育に関する目標4と海洋に関する目標14の達成への貢献があげられている。海洋への人為的影響は人類が初めて直面する難問であり、待ったなしに全海洋に広がっている。研究所は、自然科学と社会科学の多様な分野の英知を結集して、現状を分析し、将来起こりうる問題を未然に防ぐために、教育・研究・人材育成を進めるという。地球の未来を見据えた事業に期待が膨らむ。
◆(国研)海洋研究開発機構特任上席研究員の山形俊男氏は、人間活動が地球・海洋環境の変化に影響する危機的状況を、早期に科学的実証で警鐘を鳴らされたお一人である。自然科学分野間の連携に基づく知の強化だけでなく、自然科学は、人文社会科学と連携し、地球の未来を持続可能な形に変革しなければならないと説かれる。未来の地球(Future Earth, FE)計画およびSDGsの活動に対して、それらに海洋分野で関わる山形氏のご寄稿を重く受け止めたい。さらに2021年から2030年まで国連による持続可能な開発のための「海洋科学の10年」が待っている。準備に2年しかない中で何が必要かを是非ご一読いただきたい。
◆「田子の浦ゆ うち出でて見れば ま白にそ 富士の高嶺に 雪は降りける」はよく知られた万葉集の一首である。万葉集の時代に、海は、詠み人の心であり、その景観は歌枕となって今に伝承されている。総歌数約4,500余首のうちでも「海」を歌ったものが多いという。海を愛で、海に深い想いを抱く日本人が、三十一文字の世界でも海と共に生きてきたことを、高岡市万葉歴史館の坂本信幸館長に詳しくご教示いただいた。そして静から一転して驚いたことに坂本氏は、歌枕である「鞍の浦」の保全を守るために行動を起こされたという。万葉集の時代から変わらない景観の海を見続けられるか、消失させるか、海を大切にする万葉人の心が今に続いている。 (窪川かおる )

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