Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第442号(2019.01.05 発行)

WMU笹川世界海洋研究所 ~ユニークな大学に誕生した新しい研究機関~

[KEYWORDS]海洋の持続性/海洋ガバナンス/人材育成
WMU笹川世界海洋研究所所長、世界海事大学(WMU)教授◆Ronan Long

2018年5月8日、世界海事大学(WMU)内にWMU笹川世界海洋研究所が創設され、海洋に関する教育、研究、能力育成の分野に新しい一歩が踏み出された。
WMUにおける新研究所の創設は、海を持続可能な姿で次世代につなぐために多様な海洋ステークホルダーと協働関係を築き、海洋環境および諸資源に対する人為的な影響がもたらす難題に取り組むための研究と人材育成が期待されている。

新しい一歩とそのフィランソロピー

2018年5月8日、世界海事大学(以下、WMU)内にWMU笹川世界海洋研究所が創設され、海洋に関する教育、研究、能力育成の分野に新しい一歩が踏み出された。特に、海洋環境および諸資源に対する人為的な影響がもたらす難題に取り組むための研究と人材育成を行うものである。
本研究所は世界海事大学憲章で運営され、WMUが「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の掲げるSDG 4(教育)およびSDG 14(海洋)の定める目標達成への取り組みを行っている実質的な証である。また、次世代の利益を見据え海洋を持続可能かつ平和的に利用するための人材を育成し、教育を活用することへの日本財団笹川陽平会長の変わることのない深い関心とビジョンの証でもある。そして、複雑かつ多くの論争を生む海洋問題に対処する人材の育成と先進的な学術研究の支援という、日本財団が行っている他に類を見ないフィランソロピー活動の一環である。
1980年代以来、同財団が支援してきたさまざまな活動プログラムを見るとき、その規模がいかに広大で、いかに大きな成果をもたらすものであるかを知ることができる。日本財団は、開発途上諸国出身者にWMUにおける理学修士課程にフェローシップを与えるほか、ブリティッシュコロンビア大学など世界主要17大学との間にネレウスプログラムの運営を行っており、参加大学は、自然科学と社会科学の両面から海洋の共同研究にたずさわっている。能力育成の分野では、日本財団の多大な支援を受けている国際機関も国際海洋法裁判所(ITLOS)、国際水路機関(IHO)、国連海事海洋法課(UN DOALOS)など多数にのぼる。新研究所創設は、海を持続可能な姿で次世代につなぐための国際的な努力の支援をめざして日本財団が行ってきた能力育成への重要な貢献と本質的に関連したフィランソロピー活動の事業なのである。

左からクレオパトラ・ダンビア・ヘンリーWMU学長、笹川陽平日本財団会長、林 基沢(イム・ギテク)IMO事務局長、イサベラ・ロウィン スウェーデン副首相

本研究所の使命

多くの国際機関によって、海洋ガバナンスの在り方が整えられつつあり、人間活動が海洋環境に与える影響についての科学的解明が進められている。特に国際海事機関(IMO)、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC/UNESCO)、国連食糧農業機関(FAO)、UN DOALOS、国際海底機構(ISA)などが、技術協力プログラムを通じて、海洋問題に対処するための人材育成を行っている。
これら先行イニシアチブを考慮に入れ、新設組織として既存の能力育成と相互補完しあうために、本研究所が何をするのが最善であるかを模索するために2018年5月8、9両日、WMUの主催によって「2018WMU海洋に関する国際会議Global Ocean Conference」を開催した。
会議の目的は、(1)陸域起源海洋汚染、サンゴの白化現象、魚類の乱獲、海洋生態系の劣化、海洋酸性化、気候変化による影響など、海洋に危機をもたらす要因を特定する、(2)持続可能な開発目標(SDGs)の実現のために政府および民間との協働関係を築く最善の道をさぐる、(3)今後優先的に取り組むべき分野を特定する、の3点であった。
広範囲に網羅的な議論ができるように、2030アジェンダがかかげる海洋関連目標達成について討議を行った。2日間にわたって行われた広範な討議の結果、本研究所は海洋ガバナンスに関する国際的な文書(条約、協定など)の実施に貢献する道を取るべきであるとするコンセンサスが生まれた。
また、本研究所が海洋ガバナンスのための人材育成とSDG 14への貢献に加えて、海洋ガバナンスに関する中核的研究機関として世界に認められる研究機関となり、海洋にかかわる種々のステークホルダーを結びつける結集の場となること、というミッションも広く支持されている。本研究所はそのビジョンを実現させ、ミッションを実施する指針として、2030アジェンダの中の人々、地球、繁栄、平和、パートナーシップに関する5つの原則に注目している。今後この5つの原則に沿って、2030アジェンダの海洋関連目標に方向性を合わせた研究、教育、アウトリーチ活動を展開する。

2018WMU Global Ocean Conference。50余か国より240名が参加。日本財団、セイシェル、南アフリカ、インドネシア、スウェーデン、カナダ、ドイツ、ノルウェー、日本などの政府代表者、産業界、市民社会組織など、広い分野の利害関係者および専門家が参加。 会議におけるWMU笹川世界海洋研究所所長

今後の研究所活動

海洋をめぐる地政学的現実は変貌を重ねて複雑化し、さまざまな視点から科学的な考察や分析を不断に行うことが求められている。そのため本研究所のプロジェクトや学外活動は、長期的な視点を用いて今の活動が数世代先へのインパクトになるとともに、20~30年先の短期的インパクトにも焦点を合わせている。また「2018WMU海洋に関する国際会議」での主要ステークホルダーとの多方面にわたる協議および主要スポンサー国の日本、スウェーデン、ドイツ、カナダとの協議に直接関係するものとなる。本研究所の活動はニーズ主導型であり、その多くは2030アジェンダのもとで持続可能な開発に取り組む海洋ステークホルダーへの支援に加えて、国際機関および諸国、特に開発途上国の支援というWMUが掲げる中核的ミッションに沿ったものとなるであろう。
海洋ガバナンスにおける緊急課題に対して、革新的かつ根本的な解決を生み出すため、従来とは異なる他分野からのパートナーと協力することが重要な要素となる。本研究所が行うプロジェクトの例として、海洋ゴミ、航行の権利と自由、ISAとIMOと協力して国家管轄権外区域に関する能力の育成、SDG 13(気候変動)およびSDG 14(海洋)のもとでの海洋問題と気候変動に関する法体制の収斂(特に太平洋の海洋大国である小島嶼開発途上国の海上境界線にとり難題である海面上昇とそれに関連する問題)、また、海洋空間ガバナンスおよび陸海インターフェイスにおける海洋リーダーシップ、海洋ガバナンスにおけるジェンダーエンパワメントに関する新旧の諸課題、データ収集・共有のための新技術やプラットフォームの作成などがある。
本研究所がこれらの事業を行う根底には、教育・研究・人材育成は、人類の利益となる持続可能な海洋を作り出すための触媒である、との認識が存在している。多くの点から見て、WMUは、教育と能力開発が持続可能な開発を実現するための推進力として重要な両翼をなすという考え方を体現した存在である。そのWMUを構成する重要な一端を担う本研究所が成果を挙げることができるか否かは、海洋ガバナンスを率いて行く次世代のリーダーらをいかによく導くことができるか、また、世界の海洋の持続性に対し重要な変化の誘因となりえる変革をもたらすことをめざした協働関係を築くことができるか否かにかかっているのである。(了)

  1. 本稿は、英語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻訳まとめたものです。原文は、https://www.spf.org/en/_opri/newsletter/442_1.html?full=442_1 でご覧いただけます。
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