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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第441号(2018.12.20 発行)

海上保安庁モバイルコーポレーションチームの発足

[KEYWORDS]インド太平洋戦略/ミクロネシア3国海上保安能力強化支援事業/世界海上保安機関長官級会合
海上保安庁総務部海上保安国際協力推進官◆倉本 明

海上保安庁は過去40年以上にわたり、アジア沿岸国をはじめとした諸国に対する海上交通の安全確保等に関する能力向上支援を継続して実施してきた。
2017年10月には能力向上支援の専従部門「海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT)」が発足、2018年12月20日現在で、8カ国に対し計15回、MCT要員等延べ54名を派遣しており、インド太平洋地域における海上保安能力向上によって「海をつなぐ」活動に努めている。

MCT発足

海上保安庁は過去40年以上にわたり、アジア沿岸国をはじめとした諸国に対する海難救助、油防除、海上法執行や海上交通の安全確保等に関する能力向上支援を継続して実施してきたが、近年、技術指導等の支援要請の増加などへの対応が必要となっている。
このため、2017(平成29)年10月に海上保安国際協力推進官を責任者とする7名体制の能力向上支援の専従部門「海上保安庁モバイルコーポレーションチーム」(以下「MCT」※1という)を立ち上げた。MCTは、わが国の「自由で開かれたインド太平洋」に向けた取り組みの一つの柱である海上保安分野の支援において、今後技術指導の分野で中核を担う存在となるべく活動の充実を図ることとしている。
輸出入のほとんどを海上輸送に依存するわが国にとってその安全確保は極めて重要である。また、世界的にも重要な海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡、スールー・セレベス海、ソマリア沖・アデン湾での海賊事案などにみられる犯罪のグローバル化や、事故・災害の大規模化などへの対応では、海でつながる関係国との連携・協力が極めて重要である。このため海上保安庁では、諸外国の海上保安機関との間での合同訓練や共同パトロール等を通じて、国際協力関係をより実質的な活動に発展させるよう各種連携・協力活動に積極的に取り組んでいる。 外国海上保安機関に対する能力向上支援もその一環で、(独)国際協力機構(JICA)や日本財団の枠組みにより、海難救助、油防除、海上法執行や海上交通の安全確保等に関する技術指導等を過去40年以上にわたり継続して実施してきた。この間、職員を派遣しての研修も多く実施してきたが、現場の海上保安官を一時的に派遣する形での実施であり、対象機関のニーズへのきめ細かい対応や、派遣可能回数・人数の制約などの面での課題があった。また近年、アジア諸国における海上保安機関の相次ぐ設立に伴い技術指導等の要請が増加しており、これらに対応するための海上保安能力向上支援の専従部門MCTが7名体制で2017年10月に発足した。

MCTの活動

新たな体制では、MCT要員が対象機関のカウンターパートとの間で、日常的に必要な支援内容を協議する等して信頼関係を構築しながら対象機関の課題について認識共有を図り、また技術指導の進捗状況を常時把握して指導等を行うことで、より一貫性・継続性をもった能力向上支援を実施することとしている。
また、PDCAサイクルの考え方により活動実施状況を組織的に検証、指導体制・要領を逐次改善すること等による効率化を図り、増加する要請に対応することとしている。MCT発足以降本年12月20日現在で、8カ国※2に対し計15回、MCT要員等延べ54名の派遣を実施した。

派遣事例

MCTの発足により調整機能を強化し、同時に複数国の研修員にして技術指導を実施するなどの効率化を図ることとしており、以下に事例を紹介する。
(派遣事例1)フィリピン沿岸警備隊での法執行訓練
技術指導のためのMCT初派遣。2017(平成29)年11月5日から17日の間、フィリピン沿岸警備隊職員40名に対する法執行訓練の講師としてMCT要員等17名を派遣し、日本から供与された巡視船および小型高速艇を使用した法執行訓練を実施した。同研修にはインドネシア海上保安機構、マレーシア海上法令執行庁およびベトナム海上警察からそれぞれ2名ずつの参加があったほか、並行して米国沿岸警備隊の講師が高速小型艇のエンジン取扱研修を実施し、初の日米海上保安機関が連携しての訓練となった。また16日には薗浦健太郎内閣総理大臣補佐官による訓練視察が実施された。
(派遣事例2)練習船こじま乗船研修
2018(平成30)年7月28日ベトナム・ダナンを出港し8月3日呉に帰港した海上保安大学校練習船こじまの遠洋航海実習に、フィリピン沿岸警備隊、マレーシア海上法令執行庁およびベトナム海上警察から2名ずつ計6名の研修員を受入れ乗船研修を実施し、日本到着後同8日までの間フィリピンおよびマレーシアの研修生に対し施設見学等の研修を実施した。全期間中、MCT要員1名が同行し研修員の指導等に当たった。東南アジアの海上保安機関では専用の練習船を用いた訓練を実施できる体制が整っておらず、本研修は貴重な機会となっている。2003(平成15)年以降14回実施。この間、フィリピン41名、マレーシア20名、シンガポール3名、ベトナム2名、計66名の研修員を受入れた。なお、本研修に対し同時に3カ国から研修員を受け入れたのは今回が初めてである。

フィリピン沿岸警備隊員との高速小型艇訓練状況(後方は日本からの供与船) 研修員(最前列中央)と海上保安大学校実習生等との集合写真

「海をつなぐ」 ― 海上保安能力向上支援分野での国内外での連携・協力

わが国の「自由で開かれたインド太平洋」に向けた取り組みでは、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を維持・強化し、インド太平洋を、いずれの国にも分け隔てなく安定と繁栄をもたらす「国際公共財」とすることを目指して域内諸国との連携・協力を推進するとし、その一つの柱として海上保安分野の支援を挙げている。これに基づき、近年、わが国の政府開発援助(ODA)による外国海上保安機関に対する巡視船を始めとした資機材供与が積極的に実施されている。
また、日本財団、(公財)笹川平和財団および(公社)日本海難防止協会は日米豪政府と協力して「ミクロネシア3国海上保安能力強化支援事業」を推進しており、これまで多くの巡視船等の機材を贈呈する等の活動を実施している。
さらに2017年9月、海上保安機関のInter-Regionalな地域間の協力・連携関係を構築するため、世界38の国・国際機関等から海上保安機関等の長官級を招聘し、世界初となる「世界海上保安機関長官級会合」※3を日本財団と共同開催した。同会合では、海上保安分野における地球規模で解決すべき課題について意見が交わされ、人材育成分野での国際協力の重要性についても議論がなされた。また、2018年11月には世界66の国・国際機関等から海上保安機関等の実務者を招聘して「世界海上保安機関実務者会合」を開催し、2017年の長官級会合の議論の内容や目標を実現していくための具体的な検討がなされている。
これらの中で、今後MCTが海上保安の技術指導分野の中核を担う存在となるよう、国内外の関係機関と連携・協力しつつ活動内容を充実させることにより、インド太平洋地域における海上保安能力向上といった観点から「海をつなぐ」活動に貢献していくこととしている。(了)

  1. ※1同専従部門の通称 "Mobile Cooperation Team: MCT"。
  2. ※2インドネシア、ジブチ、スリランカ、セーシェル、パキスタン、フィリピン、マレーシア、ベトナム
  3. ※3古谷健太郎「世界海上保安機関長官級会合の開催 ~世界的な海洋秩序の維持へ向けて~」、Ocean Newsletter, 第416号参照
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