Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第439号(2018.11.20発行)

島しょ地域の次世代を担う若者の育成

[KEYWORDS]島しょ高校の連携/高校生によるネットワークづくり/人材育成
東京都立小笠原高等学校校長◆遠山裕之

第2回島しょ高校生サミットが今年の夏、小笠原高校を会場に開催された。
本サミットは、生徒の見方・考え方を広げ、島しょの横のつながりを生み、将来の島しょ地域を担う人材の育成にもつながることが期待されて、昨年から始まったものだ。
今回は、都立島しょ6高校の生徒12名に本校の8名を加えた20名の生徒が参加した。
今後も島しょにある学校としてこのような高校生の交流の機会を支援し、見守り、島しょ地域を創っていく若者を育てていきたい。

島しょ高校生サミットの開催

7月25日から28日の3泊4日、東京都立小笠原高校を会場に第2回島しょ高校生サミットが開催された。都立小笠原高校の創立は1969年、小笠原諸島が返還された翌年に開校し、来年50周年を迎える全校生徒48名の普通科高校である。このサミットは創立50周年に向け、生徒がこれまでの高校や地域を広い視野から振り返り、将来を考え地域を創る力を培ってほしいと願い、3年前から企画してきた。
小笠原諸島は東京・竹芝から1,000km南に位置する、東京都最遠隔地の離島の一つである。片道24時間かかる6日に一便の船が唯一の生活航路で、その船も台風の影響で欠航がある等、他地域との交流がしにくい立地である。小笠原諸島では児童・若年層が増えているが、東京の島しょ部の多くは高齢化・人口減少が進み、高校卒業後に島を出てから戻ってこない者も多い。かつては七島学生寮などで島しょ間の生徒の交流があったが、今ではその機会が少なくなり、本校の生徒も他の島の様子を十分に知らない状況にあった。地方創生や18歳選挙権、主権者教育が言われる今日、自分の住んでいるところに目を向け地域の良さと課題について知り、島しょ高校生同士が話し合ってその改善策を考える機会が必要と思われた。その経験は生徒の見方・考え方を広げ、島しょの横のつながりを生み、リーダー育成にもつながる。そこで東京島しょ高等学校長会に提案し、標記の会議を立ち上げた。第1回は昨年7月に東京島しょ高等学校長会が主催し、都立大島高校を会場に開催された。
「島しょ高校生サミット」を島しょ地区で実施するには、内地で実施するよりも各段に移動の時間と費用(交通費・宿泊費)がかかる。その対応に苦労していた時、海洋教育を推進していた都立八丈高校から協力校の声をかけていただいた。このサミットは、海洋教育パイオニアスクールプログラムと、今回を機に初めて設立された小笠原高校PTA、東京島しょ高等学校長会、小笠原村および小笠原総合事務所に後援をいただくとともに、小笠原支庁、小笠原諸島返還50周年記念事業実行委員会事務局や多くの島民の方々のご支援を受け、準備が進められた。

第2回島しょ高校生サミットの実施内容

第2回島しょ高校生サミットには、都立島しょ6高校(大島・大島海洋国際・新島・神津・三宅・八丈)からの生徒12名に本校生徒8名を加えた20名、それに引率や教育関係者を合わせ43名の参加があった。この島しょ高校生サミットのねらいは大きく三つある。一つ目は島しょ高校生の代表が交流し、研修と情報交換を行うことで各島の良さや他校の取り組みを知り、課題の共有とその改善策の協議を通して今後の活動の活性化を図ること。二つ目は思考力・判断力・表現力や課題解決力を培い、リーダーの在り方を学ぶこと。三つ目は島しょ高校生の横のつながりをつくることにある。
台風12号の影響で、着発便で出港せざるを得ない参加者もいて、内容を大幅に組み替えて実施した。初日は開会式で東京大学海洋アライアンスの日置光久特任教授からメッセージをいただき、参加各校の紹介とグループ協議を一通り行い、一旦出港を見送った後ウェルカムパーティを通して親睦を深めた。2日目はサミット協議の後、村役場・小笠原支庁・小笠原総合事務所を表敬訪問し、現状と取り組みについて説明を受け質疑・応答を行った。3日目は台風接近のため、高校で成果発表と成果報告会リハーサル、伝統工芸としてタコノ葉細工を経験した。最終日は朝9時からビジターセンターで村民向けの成果報告会に臨んだ。台風一過の土曜日の朝にもかかわらず15名の方が来て下さり、会場から発表に対する質問や温かい感想をいただいた。その後3班に分かれて島内を見学した。テーマ別協議は、①「魅力ある学校づくり、島づくりに向けて協力してできること」、②「島しょ高校生にできること」、③「島しょ地域の防災」をテーマに、4つのグループに分かれて協議した。昨年度のテーマから一歩進め、「協力してできること」とし、また「島しょのアイデンティティ」を意識したテーマとした。事前課題をもとに具体的な提案や取り組みについて話し合い、模造紙やスライドにまとめての発表だったが、生徒の課題意識の高さと地域を創っていこうとする意欲の表れた、昨年度よりさらににレベルアップした内容で展開された。

長時間の船旅でやって来たサミット参加者を、父島二見港で出迎える
7校の生徒がグループを組み、さまざまな協議を行った

生徒の変容と人材育成

3日目の夜、残った15名の生徒にアンケートを取ったところ、サミット参加前には「日頃から地域の課題を意識していた」生徒は約7割であったのが、サミット後には全員が「課題の共有と課題の解決のヒントが得られた」と回答した。また9割方が「島しょ地域の良いところに気付くことができた」「島しょ間で協力しようという意識が高まった」「参加者同士の横のつながりが深まった」と回答しており、今回のねらいが達成された。昨年に引き続きサミットの機会を通して、生徒たちの意識に大きな変容を見ることができた。島外から参加した生徒は、「時間が足りないくらい充実した時間であり、今後の高校生活に活かせるような中身だった」と話してくれた。成果報告会では、高校生の視点から「島の温かさや風習、郷土料理を島しょ連携サイトを作って発信したい」といった提案があり、また「園芸で島の魅力を世界に発信したい」等の抱負も語られ、会場からは「島の高校生がこんなに逞しく、頑張っていることが分かった」との感想をいただいた。
東京都の7つの島しょ高校の全校規模は2018(平成30)年5月1日時点で、大島海洋国際高校224人、大島高校137人、八丈高校161人、三宅高校27人、新島高校38人、神津高校43人、小笠原高校48人である。内地の高校に比べ少数であるが、7校が集まれば678人と内地の1校分の人数になり、見方・考え方を深める教育活動のチャンスが拡大する。実際に交流の機会をつくることで、お互いに刺激を受け生徒の大きな変容が見られた。
第3回サミットは来年夏に、三宅島で開催される予定である。その都立三宅高校の生徒は、「今回の成果を受けてしっかりと責任をもって生徒会活動をしていきたい。そしてさらに良い交流の場ができるようにしたい」と意気込みを語ってくれた。私は、このような機会を通して地域に目を向けることが、主権者教育、地方創生を担う人材育成につながり、20年、30年先の島しょ地域を創っていく有為な若者を育てていく一助になると信じている。島しょにある高校として、今後もこのような高校生の交流の機会を支援し、見守り、島しょ地域を創っていく若者を育てていきたい。(了)

前浜での記念撮影、島しょ高校生どうしの強い繋がりができた

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