Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】最新号

第437号(2018.10.20 発行)

水中浮遊式海流発電システムの開発と実海域実証試験

[KEYWORDS]海流発電/黒潮/かいりゅう
(株)IHI 技術開発本部総合開発センター機械技術開発部海洋技術グループ部長◆長屋茂樹

海洋再生可能エネルギーのひとつである「海流発電」は、「黒潮」を有効に活用することを目指した日本に適した再生可能エネルギー技術である。
(株)IHIと(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2017年8月に鹿児島県口之島沖で海流発電システムの実証試験を行い、今後の実用化に向けたデータを取得した。
100kW規模は世界最大級である。世界初となる水中浮遊式海流発電システムの概要を紹介する。

黒潮を利用した発電

わが国が有する領海・排他的経済水域(EEZ)は世界第6位の広さを誇り、このEEZにおける海洋再生可能エネルギーの利用は、温室効果ガスの排出抑制や、エネルギー安全保障の面からも積極的な推進が求められている。なかでも、日本近海を流れる黒潮(図1)は世界的にも有数の強い海流であり、約205GWと膨大なエネルギーが賦存すると試算されていることから※1 ※2、この黒潮からの発電を可能にすることによって、わが国にとって非常に有用な再生可能エネルギー源となることが期待される。
この海流発電に対して筆者らは、低発電コストで効率良く発電する装置として、水中浮遊式海流発電システム(図2)の研究開発をNEDO事業として2011年度から開始し、2017年夏に黒潮海域での発電実証試験を完了した。本稿ではその概要について紹介する。

■図1 数値解析による黒潮流軸分布予測例
黒潮はトカラ海峡を通過して太平洋へ入る。本州南方において強い流れが見られるが、四国南方から本州南方にかけては黒潮大蛇行などがあり流軸が一定しないという課題もある。
■図2 水中浮遊式海流発電システムによる大規模発電ファーム イメージ図

水中浮遊式海流発電システムの特徴

海流発電を実現するうえでの海流の特徴は、昼夜や季節による流れの速さ・向きの変動が少なく、東シナ海や太平洋の沖合の幅約100kmにおよぶ大きな流れが、海底水深数百mの海域の海面に近いところを流れていることが挙げられる※3。このような海流からの発電を行うために、水中浮遊式海流発電システムは以下の特徴を有する。
(1)安定した海流エネルギーを長期かつ連続的に利用できることで、再生可能エネルギーとしては非常に高い60%以上の設備利用率を実現することを目標としており、ベースロード電源として安定した電力供給も期待できる。
(2)発電装置を係留索で海底から係留し、海流によってあたかも「凧」のように海中に浮遊させる(図3)。係留索を伸ばすことで大水深域での設置にも簡便に対応できるため、設置可能海域を広く設定することができ、多数の発電装置を設置する大規模発電ファームの展開が可能である。
また、すべて海中にあるため波浪の影響を受けずに安定した水深での運用が可能となり、船舶の航行にも支障を及ぼさない。さらに簡便な係留が可能となることから設置が容易であることも、コスト低減に寄与する。
(3)互いに逆回転する2基のタービン水車を連結することで、タービンの回転に伴う回転トルクを相殺でき、海中で安定した姿勢を保持して、効率的な発電が可能である。
(4)保守整備時には、タービンの向きと浮力を調整することで、必要に応じて海上に浮上させることができるため、メンテナンスや修理が容易である。
これらの特徴を生かして、水中浮遊式海流発電システムの実機は、1機あたりの発電出力2MW(1,000kW×2基)を想定し、それらを多数設置する大規模海流発電ファームでは、NEDO事業の設定目標である発電コスト20円/kWh以下を達成し、他の発電方式とも発電コストで比肩し得る発電システムの実現を目指している。

■図3 水中浮遊式海流発電システム 概念図

実海域実証試験

2011年から開始した要素技術開発の成果を利用して、実際の黒潮流域での水中浮遊式海流発電システムの発電実証実験を2017年の7月から8月にかけて実施した。
本実証試験のために、将来実機と同様の機構・構造・材料等を用いた、タービン直径が実機の約1/3スケールの実機実証試験機(図4、地元小中学生からの公募により「かいりゅう」と命名)をIHI横浜事業所で開発・建造した。
この「かいりゅう」は、本体全長および全幅が約20m、重量約330トンの水中浮遊式浮体で、各種機器を内蔵する3つの水密・耐圧容器(ポッド)を連結した構成である。左右のポッド後端にはローター直径11mで3ノットの流れから左右合計で最大出力100kWを発電可能な、翼角可変機構付きの水平軸式タービン水車を備えている。中央のポッドには浮力を調整する機構や送電機器等を搭載している。海中での発電時は、変動する外部環境に応じて本機の深度や姿勢、発電性能や非常時の対応などを、内蔵する制御装置により自律制御する。事前の曳航による試運転で、計画通り最大出力100kWを発電できることや自律制御により安定して浮遊することを確認した。
続けて実施した黒潮海域での実証試験は、内閣府総合海洋政策推進事務局が海洋エネルギー実証フィールドに認定した鹿児島県トカラ列島十島村の口之島北方海域を試験海域とし、口之島の沖合約5km、海底水深約100mで平均流速約2ノットの黒潮が流れる海域に「かいりゅう」を係留設置して発電試験を行った。この実証試験の結果、今回の試験期間中では2ノットの流れがあり、そこから約30kWの発電を達成するとともに、実際の黒潮の流場特性やその中での浮体の浮遊安定性、実海域での設置・運用作業等の貴重なデータを得ることができた。このような100kW級の海流発電装置を実際の海流域に設置しての発電は世界初である。

■図4 100kW実証試験機「かいりゅう」外観図と実証試験海域

実用化に向けて

水中浮遊式海流発電システムは、1)高い設備利用率をもたらす海流エネルギーと高効率の水中タービン発電装置、2)設置海域を選ばない低コストの浮体係留方法によって、ベースロード電源の役割を担うことが可能な新しい発電技術である。
今後は2018年度から2020年度にかけて実施を計画している実海域長期運転試験や、再生可能エネルギー源としての黒潮の調査・研究を詳細に進めることによって、2020年代に海流発電システムの実用化を目指している。(了)

  1. 本稿はNEDO事業「海洋エネルギー技術研究開発/海洋エネルギー発電技術実証研究」での成果に基づいてまとめたものである。
  2. ※1(独法)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO):『NEDO再生可能エネルギー技術白書 −新たなエネルギー社会の実現に向けて−』,(2010)
  3. ※2(独法)新エネルギー・産業技術総合開発機構:『風力等自然エネルギー技術研究開発/洋上風力発電等技術研究開発/海洋エネルギーポテンシャルの把握に係る業務』成果報告書,(2011)
  4. ※3海中の流れを活用した発電方式として、海流発電のほか潮流発電がある。潮汐の干満に伴う潮流には、1日のなかで流れの速さ・向きが大きく変動するという特徴がある。
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