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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第436号(2018.10.05 発行)

世界文化遺産三保松原保全活用計画と沿岸域の諸問題

[KEYWORDS]海岸侵食/バイオマス利活用/松原
東海大学名誉教授◆田中博通

2013年6月に富士山世界文化遺産の構成資産に登録された三保松原は、天女の羽衣で有名な松並木、長く続く砂浜、海の青さと遠方に浮かぶ富士山が織りなす美しい海岸である。
世界遺産登録されたことでそれに相応しい景観を維持するために、海岸侵食対策やマツの保全も重要な課題となった。
住民ボランティア参加による三保松原の保全と利活用の活動について紹介したい。

三保松原の歴史

三保松原は、2013年6月に富士山世界文化遺産の構成資産に登録された。三保半島は、安倍川からの土砂と有度山の海食崖から流出した土砂が、沿岸漂砂で東方に流れて形成された三保島が陸地と接続されてできた砂嘴である。
三保には9世紀に創建されたと言われる御穂神社があり、「羽衣の松」を依代(よりしろ)として神(三穂津彦命(みほつひこのみこと)・三穂津姫命(みほつひめのみこと))が降臨したとされ、樹齢200〜400年の松並木が500m続く参道「神の道」を経て御穂神社へと通じている。
三保松原は、約7kmの海岸沿いに約3万本の松が生い茂り、松林の緑、打ち寄せる白波、長く続く砂浜、海の青さと遠方に浮かぶ富士山が織りなす風景は、室町時代から曼荼羅や屏風に描かれ、江戸時代には歌川広重の浮世絵や数々の絵画、和歌に表現されてきた。また、謡曲『羽衣』で有名な天女が羽衣を脱ぎ掛けた松と伝えられる「羽衣の松」がある。
近代、『東京新都市論』(天業民報社、1922)で東京湾ウォーターフロント構想を提唱した日蓮宗僧侶田中智学は、その後の国柱会本部となる最勝閣を1910年に三保に建設した。その影響もあり、宮沢賢治などの文人、思想家、政治家、軍人など多くの著名人が三保に集まった。このように三保は、さまざまな思想と新興宗教が発祥した地でもある。それは三保松原と富士山を鳥瞰できる景観によるものと考えられる。

■写真1
三保松原と富士山

静岡・清水海岸の海岸侵食

■写真2
三保松原の海岸線
(2014年1月27日 佐藤武氏撮影)

砂浜の消失は、高潮などの防災、生物の生息環境、人間生活の精神的安定性などに多くの影響を及ぼす。現在、静岡・清水海岸において、海岸線が大きく後退する海岸侵食が起きている。高度経済成長期に、土木構造物やビルなどの建設用骨材として全国各地で川砂利採取が行われた。安倍川ではこの間、年平均約70万m3、1965年のピーク時には120万m3もの砂利採取が行われ、そのことが海岸侵食の要因とされている。
海岸侵食の原因は、土砂採取だけではない。安倍川流域は、破砕帯が多く、地形が急峻であるため上流域の各所で崩壊が起きている。1907年には日向山崩壊(死者23人)、1969年には梅ヶ島土石流災害(死者26人)が発生している。この崩壊による土砂災害を防止するため現在20基の砂防堰堤が建設され、下流への土砂供給を阻害していることが懸念されることから透過型の砂防堰堤が設置されるようになった。また、全国では海岸侵食対策として総合土砂管理と称して、ダムに堆積した土砂を掘削または透過することによって下流に還元する方法も行われている。
なお、1955年代までの静岡・清水海岸が安定であった当時は、静岡・清水海岸に約20×104m3/年の土砂が流出していたとされ、海岸侵食を生じさせないためには、河川から海岸域へ15×104m3/年程度の流出土砂が必要とされる。しかし、最近の傾向として突発的に大きな降雨はあるが、継続時間が短いために大きな出水が生じていない。近年、流量が減少していることから、以前のような土砂供給は期待できないと言える。
静岡・清水海岸では、写真2に示すように離岸堤群によるヘッドランド工法(人工岬工法)と養浜で侵食対策を行った。その結果、海岸線は10年で櫛形になり、以前の富士山を眺望する白砂青松とは程遠い海岸となってしまった。
富士山世界文化遺産構成資産の審査時に、次のようなイコモスの勧告(2013年4月)があった。「三保松原から富士山に対する展望は、潜在的に問題であると考える。・・・・そのうちのいくつかは防波堤のために審美的な観点から望ましくない。・・・・・」この勧告を受けて、静岡県は清水海岸侵食対策検討委員会で検討し、今後、消波ブロックは撤去し、突堤と養浜で侵食対策を行う結論を得た。現在、羽衣の松付近にL字突堤を建設するとともに、毎年9万m3の養浜を行っている。河川から流出する土砂量の変化は、様々な要因に由るものであり、流域と沿岸の特性と状況を把握しながら順応的に対処することが肝要である。

三保松原の保全と利活用

■写真3
マツ葉ペレット

三保松原が富士山世界文化遺産の構成資産として登録されたことにより、海岸侵食問題のみならず、マツの保全も重要な課題となった。静岡市は、三保松原保全活用計画の実施状況の検証および施策の改善等に関し、専門的な見地からの意見を聴取するために三保松原保全活用推進専門委員会を設立した。この委員会では、おもに松原の保全と三保の地をアピールするためのビジターセンターの建設について議論している。
クロマツは、塩や乾燥ストレスに対して耐性のある植物であり、わが国では10世紀以降、防風林として飛砂、塩風、津波を防ぐために海岸線に沿って植栽されてきた。現在、三保松原では、松枯れが起きており、2007年には1,755本の松が伐倒された。松枯れの主因は、マツノマダラカミキリを媒介にしたマツノザイセンチュウであると言われ、松くい虫防除対策としてチアクロプリド剤を地上と空中散布している。
また1960年代までは、燃料として住民がマツ葉を回収していた。これによって富栄養化が抑制されていた。現在、毎週水曜日と土曜日に住民ボランティアがマツ葉拾いを行い、回収したマツ葉は市の焼却所で燃焼処理している。そこで私たちは、「羽衣ルネッサンス協議会」を設立し、松原の保全とともに、マツ葉の利活用について活動している。写真3は、マツ葉を原料に作成したマツ葉ペレットである。このマツ葉ペレットを燃料に、ペレットボイーラーで足湯の給湯をし、ペレットオーブンで観光客にピザを提供することを考えている。最終的には、マツ葉ペレットを燃料に発電し、渋滞する三保半島で観光客が利用できるEVバスの電源を得ることを考えている。
EU諸国の環境先進国では、電熱のエネルギーは地産地消で行っている。私たちの活動を通して、三保半島における、地産地消、ひいては持続可能な自然環境と社会環境の創造となるよう、地域での協働を進めている。そしてこれらの活動の積み重ねこそが、世界文化遺産に登録された三保の松原を持続的に利活用していくために、将来を生きる人々への私たちの使命であると考える。(了)

  1. 国土交通省国土技術政策総合研究所:健全な水循環系・流砂系の構築に関する研究、国土技術政策総合研究所プロジェクト研究報告、No.16、p.29-67、2007.
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