Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第434号(2018.09.05 発行)

海洋生態系の持続可能な管理に向けた科学と政策の協働

[KEYWORDS]科学と政策/海洋生態系/POSTnotes
プリマス大学海洋生物生態研究センター講師◆Abigail McQUATTERS-GOLLOP

人類は、漁業、海運、さらにはレクリエーションに至るまであらゆる活動を海に依存しているが、海の持続可能性を守るための管理が行われていない。
われわれに続く世代が海の恩恵を享受するために、科学者と政策決定者が協働することによって人類による海洋環境の利用を持続的に管理して行く道を見つけなければならない。

海洋生態系の管理の課題

人類は、漁業、海運、さらにはレクリエーションに至るまであらゆる活動を海に依存しているが、海の持続可能性を守るための管理が行われていない。商用魚種の多くが過剰に漁獲され、プラスチックが世界中の海で見られ、近年、海水温の上昇によって熱帯域におけるサンゴ礁の約三分の一が消失するなど、人為的原因による海への影響が地球規模で広がっていっている。これらの影響は、日本、欧州など人口密度の高い地域で最も厳しく、海洋生態系の利用度が特に高くなっている。われわれに続く世代がその恩恵を享受するために、人類による海洋環境の利用を持続的に管理して行く道を見つけなければならない。

科学と政策決定のギャップ

われわれの海は、海岸のどの部分を開発するかなどの地方自治体が行う政策決定から、漁獲規制などの国の政策、さらには生物多様性条約などの地域間あるいは国際間の環境保全の協定に至るまで、さまざまな規模での政策決定を通して管理されている。理想的には、政策は強固な科学的根拠、すなわち科学的知見を注意深く考察した上で行われるべきだが、必ずしもそれは実現していない。たとえばこの10年間に、科学の世界では世界の水産資源の枯渇に関して多くの論文が書かれているが、漁業の過半数が持続可能なあり方で管理されてはいない。科学(科学研究活動)と政策決定とのはざまでのどこかで、漁業のあり方を変えなければならないとのメッセージが上手く伝えられないのである。不幸にして漁業は、その一例に過ぎない。良き科学が良き政策決定につながっていない例は、欠陥のある開発行為によって生じる沿岸生態系の破壊など、他にも多数存在する。科学者と政策決定者との間の情報交換のあり方には、明らかに改善が必要である。
科学的根拠に基づいた意思決定を行うためには、科学研究、政策ニーズ、そして各種のアイデアが科学者と政策決定者の間で双方向に流れることが重要である。双方が協働して、科学研究を政策決定過程に統合させる必要がある。だが、そうした協働には、ある種の困難が伴うことが予想される。第一に、科学の世界では、査読を経た論文掲載や、学会発表という手順が尊重されるが、これらは研究成果を政策決定者へ伝達する方法としては妥当ではない。また政策決定者および科学者は、それぞれの世界のみで通用する言い回しで意思疎通を図るが、これでは両者の間に誤解や理解不足が生じる。その結果、科学研究が政策決定過程に統合されずに終わってしまう。一般に、政策決定にたずさわる者は海洋学者ではないため、科学者は、的を絞った科学的情報を明確な言葉で伝達しなければならない。その上、サンゴ礁や藻場などの海の生態系は、陸の生態系と比べて接近しにくいという難点がある。現場に足を運び難いことが障害となって、人間活動による圧力と海洋生態系の異変との関係を認識することを、さらには、健全な海洋生態系がどのような姿をしているのか想像することを難しくさせている。
科学者の側では、政策全体について漠然とした理解しかもたず、政策上の科学研究へのニーズに気付かないこともある。その一因は、自分が行っている研究を政策に役立てようとするには、これに対して投下される資金があまりに少なく、そのための時間を割く価値があると考えにくいこと、また、政策決定者は科学研究に関心がないだろうと科学者が感じている可能性もある。さらに、政策決定者はきわめて短い時間枠の中で仕事をしているため、科学者からすると、そこからの諮問に対して答えを出すなどの対応が難しく、これが、問題を一層複雑なものにしている。そして最後の問題点が、科学者が政策決定者との間に接点を持つためのルートが不明確なことである。政策決定者は、懸案となっている問題に関してどの専門家にアプローチするのがよいのかに確信がもてず、科学者の側は、自分が手掛ける研究の内容をどの政策決定者が知るべきなのか明確な答えを得ることができないのである。

科学者と政策決定者の協働に向けて

こうした問題を解決する手始めは、オープンなコミュニケーションと信頼感づくりであろう。たとえば、ワークショップなどを通して互いに交流することができる。こうした対話の機会はプロジェクトの一部として、あるいは各種の会議と並行して開催されることが多く、両者が互いに相手を知り合い、実務的な関係をつくることができる。政策決定者との対話によって科学者は自らの研究を政策上のニーズに合わせて調整することができ、同様に政策決定者は、提示された科学的根拠をよりよく理解できるのである。さらにコミュニケーションを図る手段として、科学者が、特定の政策課題を取り上げて研究と政策ニーズの関連性を具体的に説明したブリーフィングペーパーやファクトシートなどを発表することも有用であろう。たとえばPOSTnotes(図1)は、英国議会議員、行政関係者によって、最新の科学情報、またそれが近い将来に予定される政治的決定にどのように関わるのかをより良く理解するために利用されている。このほか、ツイッター、ブログなどのソーシャルメディアも科学の世界にいない人々と科学研究を結びつける効率的な方法である。この方法によって特定の問題に関して一般の関心を生み出し、社会の中での位置を高めることができ、結果的にこれが政策決定者らの視界に入る可能性が高くなる。最後の点として、北太平洋海洋科学機関(PICES)などのような政策・管理担当者への諮問的役割を果たす組織で、科学者が政策担当者と実務交流することも一案であろう。
このように科学と政策決定の間に横たわる境界を越えて活動することにはさまざまな困難があるが、そこには、双方にとって明確な利益がある。すなわち、政策決定の過程に科学的根拠を導入することによって、持続可能な管理が実現する可能性が高まり、科学と政策決定とを結びつけることによって科学研究の地位が高まり、研究資金獲得の道が開けるのである。海洋環境における人間活動の管理に関する政策決定が強固な科学的根拠に基づいて行われるためには、こうした緊密な協働関係が欠かせない。(了)

■図1
英国議会科学技術局(POST)が発信するPOSTnotesによる英国の漁業に関する研究報告の例(報告の表紙)。POSTnotesは各種の科学的研究を政策策定の文脈の中で簡潔に紹介し、簡単にアクセスできる。(https://researchbriefings.parliament.uk/ResearchBriefing/Summary/POST-PN-0572より)
日本の海洋生態系(写真は式根島)はきわめて生物多様性が豊かであり、細心の注意をもって管理されることが求められる。筑波大学下田臨海実験センターその他が収集するデータや研究活動の成果は、政策決定に生かすことができる。(写真提供:筑波大学下田臨海実験センター Ben Harvey准教授)
  1. 本稿は英語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻訳まとめたものです。原文は本財団HP(https://www.spf.org/opri/projects/information/newsletter/backnumber/2018/434_1.html)でご覧いただけます。
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