Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第432号(2018.08.05 発行)

不発弾処理でパラオの海を守る

[KEYWORDS]不発弾処理/海域保全/国際貢献
NPO日本地雷処理を支援する会パラオ現地代表◆寺田康雄

NPO日本地雷処理を支援する会(JMAS)は、2012年からパラオでは 主として海中の不発弾を処理するために活動している。
2015年までは、ヘルメットレックと呼ばれる日本の貨物船に積まれた多数の爆雷(潜水艦を攻撃する爆弾)が戦後70年を経てその容器が腐食し、有毒なピクリン酸が漏出し、湾内の水質に悪影響を与えているため、この漏出を防止する活動を行った。
現在は沈船および浅海域に所在する不発弾の調査・処理に当たり、海の安全確保に努めている。

日本地雷処理を支援する会(JMAS)

日本地雷処理を支援する会(JMAS: Japan Mine Action Service)は、東京都の認定を受けた特定非営利活動法人、いわゆるNPOであり、活動の内容からNGOと呼称されることもある。2002年に陸上自衛隊の退官者が組織を立ち上げ、直後からカンボジア不発弾処理事業を開始した。その後、アフガニスタン、アンゴラ、パキスタンでも活動を行い、現在は、カンボジアのコンポントム州で地雷・不発弾処理に関する総合機械事業、バンテアイミアンチェイ州で地雷・不発弾処理を伴う地域開発促進事業、バッタンバン州でコミュニティ総合開発プロジェクト「安全な村づくり」、ラオスのシェンクワン県におけるクラスター子弾処理機械化事業、パラオで不発弾処理事業、ミクロネシアのチューク州でトラック環礁の戦没船油漏れ対策事業を行っている。
カンボジアにおける「安全な村づくり」を除き、ODAの一環として資金援助を得ており、国連によるグローバル基準である持続可能な開発目標SDGsに貢献することが期待されている。

爆発性戦争残存物

爆弾の基本的な仕組みは、破壊力の中心となる炸薬とこれを発火させる信管との組み合わせで作動するものである。通常、爆弾を使用しない時は、炸薬と信管を分けておき、これによって爆弾が不意に爆破することを防ぎ、爆弾を安全に保管できるようになっている。
一般に不発弾と言われるものは、不発弾または放棄弾のいずれかである。不発弾(UXO:UnExploded Ordnance)とは、戦闘に使用するために炸薬に信管が装着されていたが爆発しなかった爆弾のことである。放棄弾(AXO:Abandoned Explosive Ordnance)とは、撤退や武装解除等のため放棄または遺棄される等したもので、使用されることがなかったものであり、通常、信管が装着されることなく、未使用の状態であるものが多い。
UXOとAXOを総称して爆発性戦争残存物(ERW:Explosive Remnants of War)と定義されているが、ERWとUXOは、ともに不発弾を示す用語として同じように使用されている。

パラオの海中不発弾

第一次世界大戦後、パラオはドイツの植民地から日本の委任統治領になり、南洋庁および南洋庁パラオ支庁が置かれ、南太平洋諸島の中核的な島となった。第二次世界大戦が始まると、パラオは日本海軍の重要な基地となり、このため米軍の攻撃対象となり、1944年3月30日と31日には、米海軍の空母から発進した航空機が艦船や地上施設を攻撃し、パラオの港内や周辺水道への機雷投下を行った。いわゆるパラオ大空襲である。これにより当日在泊していた船舶は、ことごとく碇泊したまま撃沈された。
JMASパラオが現在、処理に当たっているのは、米軍が使用した爆弾及び砲弾の不発弾ならびに、この時に沈められた日本船舶に搭載されていた不発弾であり、海中に残された放棄弾である。2012年から2015年の3年間は、パラオ唯一の商業港であるマラカル港の沖合1km、水深30mに沈むヘルメットレックという船に積載された爆雷の処理にあたった。ヘルメットレックは仮称で、日本軍が徴用した輸送船であるが、船名は不明である。爆雷は、潜水艦を攻撃する爆弾であり、船から水中に投下し、設定した水深に達すると信管が作動し、爆破する。
爆雷を処理するのは、戦後70年を経て、水中にあった爆雷の容器が腐食してき裂が入り、内部から有毒な炸薬であるピクリン酸が漏洩し、環境に悪影響を与えていたからである。パラオ政府は、2013年にスイスのジュネーブ人道的地雷除去センター(GICHD: Geneva International Centre for Humanitarian Demining)に環境調査を依頼している。この調査の結果、ヘルメットレックの爆雷については、ピクリン酸の漏洩防止処置と信管が装着されている爆雷2個については処分することとされた。
ピクリン酸の漏洩を防止するために、パーミクロンガード(商品名)という水中で硬化し、無害なプラスチックを使用する。パーミクロンガードは、港湾、河川施設などの補強・防錆に使用されており、成分に毒性物質は含まれておらず、水中に成分が溶け出すこともない。爆雷の容器に生じたき裂をパーミクロンガードで塗り固めることにより漏洩を防止している。
2014年には処置可能な105個の爆雷にピクリン酸漏洩防止処置を行い、これにより船内の海水のpH値が酸性の6.80から平均的海域の数値である8.07に改善し、海水の透明度が増し、また魚影数も増加し、生態系も回復している。信管のついた爆雷2個については、2015年に陸上で爆破処分した。その後、定期的にモニタリングを実施し、環境面での異常の有無、新たなピクリン酸漏洩の有無について確認するとともに、漏洩阻止のための措置を講じている。ピクリン酸の軽微な漏洩は継続しているが、環境への大きな影響はほとんど無いほどに抑えられている。
2016年からは、世界遺産であるロックアイランド諸島およびマラカル湾において、沈船36隻および水深10m以浅の浅海域約700,000m2の海底に沈む不発弾を調査した。記録に残る沈船36隻のうち船体が確認できたのは15隻、そのうち5隻から不発弾を発見しており、浅海域でも爆雷等多数を発見している。
パラオ政府は、これらの不発弾の位置、種類、数等を地図上に記録した不発弾データベースを構築し、安全確保の指標としようとしている。当初、パラオ政府の地図システムに登録していたが、現在は、より一般的で簡易なGoogle Earthを使用している。右図は、浅海域に残された爆雷をGoogle Earth に記録したもので、赤のマークが処分予定の爆雷、白丸は処分したものであり、それぞれ爆雷を特定する番号を付している。このように不発弾の状況が一目瞭然となっており、今年中にこの海域の爆雷すべてを処分する予定である。
パラオでは、ラグーン・モニュメントという法規定により海中の遺跡で作業する時は、大統領の許可を得なければならない。このため、この爆雷の処分も大統領の許可を得て行なっている。来年からは、へルメットレックに残された165個と推定される爆雷の処分を計画している。浅海域での作業と異なり、水深が30mに達するため、より困難な作業となるが、安全第一に一歩ずつ進めていき、パラオにとって完全に近い安全を確保できるよう尽力していきたい。(了)

浅海域に沈む爆雷を調査 バルーンを使い爆雷を浮上させる Google Earth上に記録した爆雷
  1. NPO 日本地雷処理を支援する会(JMAS)https://jmas-ngo.jp/
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