Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第430号(2018.07.05 発行)

きっかけを作る水族館 ─ 解説パネルの例から

[KEYWORDS]解説パネル/水族館と来館者/自然環境への興味関心
竹島水族館館長◆小林龍二

日本は大小120館ほどの水族館がある超水族館大国である。
しかしながら水族館の「関係者」と水族館を楽しむ「来館者」をそれぞれ見ると、考えや求めるものの乖離が見受けられる。
これからの水族館は、水族館が持つべきそれぞれの目的や役割を果たしつつも、人々が楽しみ、必要とされる施設となるよう、その方法を追求しなければならない。

竹島水族館について

竹島水族館は、愛知県蒲郡市竹島町にある蒲郡市立の水族館である。1956(昭和31)年に開館した、観覧面積がテニスコート2面分ほどしかない小さな地方水族館で、平成の大型水族館ブームのあおりを受けて一時は閉館の危機に立たされた。
そのため、2006(平成18)年頃より改革を開始し、「生物を大事に上手に長く飼う」というのが最高目標だった飼育員の意識を改革し「その生物をいかに来てくれる人に楽しく見てもらい、さらに人を呼ぶか」を考えた働き方に変更した。まずは、来館者から不満やアドバイス、要望を聞きだし、改善・具体化した。「生き物に触ってみたい」というお客さんの声に「ここでしかできない」という強み要素を加えて「深海生物タッチプール」を作ったり、「来館者が解説看板を呼んでいない、つまらなそう」という調査結果をうけて、手書き解説看板等の新設をしたりした。また地元漁師との徹底したつながりを武器として深海生物を大量展示し、地元のみならず全国から注目される水族館を目指した。
これにより、一時は12万2千人まで落ち込んでいた入館者数が、39万8千人(2016(平成28)年)にまでV字回復した。いまでは、手書き解説やユニークな展示方法などが人気で、深海生物については全国で一番多い展示種数である。

解説パネルは読まれない

水族館の水槽の横に掲示してある「解説パネル」を読むだろうか。海洋や生物に関することに興味がある方は読んでいるかもしれない。しかし水族館を出てから書いてあったことをどれほど覚えているだろうか。解説を読んだ水槽の次の次の水槽に進んで行った時、前の前の水槽に書いてあった解説の内容をどれほど覚えているだろうか。
水族館でよく観察してみると、解説パネルを読んでいるのは水族館に入って直ぐの入り口部分が一番多く、10人に1人くらいは熟読している人が見受けられる。さぁ水族館に入ったぞ、しっかり見ないと、という気分がそうさせているのだと思われる。しかし館内の中盤から後半になるにしたがって解説パネルを真剣に読む人はどんどん減る。最後のほうは実際の水槽の中の魚が何という名前かを見るために魚名板と言われる魚の紹介パネルにある写真を照らし合わせる程度になる。

以前の解説パネル

来館者と水族館側の感覚の違い

たくさんの文章が書かれている解説パネルには生物の体のしくみや、とりまく環境、自然について、詳しく長々と書かれていることが多い。これを読み、果たしてどれほどの人が「自然を守らないといけない!」とか「命は大切にしないと!」と感じ、何か行動をするのだろうか。しかし毎日そこで働いている水族館側の職員たちは、水族館に来た人全員が解説をしっかりと読んで、行動してくれるだろう、と期待している。ところが、水族館に来て楽しんでくれている人の多くは、解説を読んだり、読んだことについて深く考えたり行動しようと思っている人より、家族とのレジャーやデートなどを楽しみに来ていることが多い。実際に200人の来館者に水族館の出口で来館目的を聞いたところ、魚の勉強をしに来たという方は1人のみで、「フグの調理師免許を取るのでフグの勉強をしに来た」という内容であった。
しかし水族館側は、人々は水族館に来るくらいだから興味があるだろうという前提でパネルを設置して読んでくれていると思っている。来館者と水族館との考えの違いがそこにある。

現在の解説パネル

きっかけを作る、興味を持ってもらうための水族館

自然を大切に、生き物を守ろう、といっても、ふだん自然や生き物に接する機会は少ないし、海や川に入れば危ないよ、行ってはいけません、と言っている側も何がどう危険でどうしたら危険ではないかということもあまりよくわからないこともある。昨今、自然はかなり遠くなっており、大切に思う機会も少ない時代なのではないだろうか。
竹島水族館では数年前からこのことに気付き始めた。なかなか大きな問題であると思ったし、われわれ水族館を提供している側の来館者に対しての思い込みは非常に間違っているのだなということを発見した。そこで解説パネルの見直しと研究を始めた。考え付いたことは、興味があるのを前提とせず、興味を持ってもらうためのきっかけを作る解説を作ることで、生き物や自然環境に関心を持つ前段階での解説を作ることであった。
水槽で泳いでいる魚や生き物たちのことをもっと詳しく知りたい、と思ってもらうために、まず難しいことを書くのをやめ、魚類図鑑に書いてあることを抜き取ったような内容のものは削除していった。興味のある人は図鑑を見てもらえばいいと思ったからである。代わりにどこからどんなふうに来たか、どんなエサが好きか、嫌いか、その生物にとっての喜びや不満なことは何か、さらには食べたら美味しいのか、不味いのかなどを紹介して書いた。これを親しみやすいようにその生物を担当しているスタッフが手書きで語りかけるようなスタイルにした。もとからあった解説に比べて生物学的な要素がかなり減った。
解説パネルの変更後にスタッフの服は着ずに、館内のお客さんに紛れて覆面調査をした。解説パネルを見て「へぇ~」と言ったり、笑ったりしながらその魚や生息環境のことに少し興味を持つ来館者は以前よりも多く見られた。まず何よりも来館者は以前よりも目に見えて解説パネルを読むようになった。解説パネルを読んで、実際に水槽に泳いでいる魚を見て、一緒に来た人たち同士での会話が多く生まれていた。来館者の館内の滞在時間は以前と比べ、極端に長くなった。
問題になっている自然環境の破壊や生物の減少等を食い止めるには、まず多くの人がそういったことや生物に「興味を持つ」ということが必要で「興味を持つきっかけを作る」ことがとても大きな一歩だと感じる。しかし、自然や生物を守らせたい、守らなければいけないと思っている側は、当然のことながら自分がすでに興味を持っているため、自分の立場やレベルで考えて物事の行動をしてしまう。ここに上手くいかない一つの大きな理由や原因が隠れているように感じる。
水族館は「興味を持つきっかけを作る」という意味で大切な意味や大きな力を持つ施設だと考えている。なかなか実際の自然の中で生物や環境を見たり感じたりできない多くの方が、ちょっとした余暇の時間で水族館に訪れ、興味を持つきっかけになると幸いである。(了)

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