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第428号(2018.06.05 発行)

海洋利用に関する合意形成のガイドラインについて 〜「海洋空間計画」の策定に向けて〜

[KEYWORDS]合意形成プロセス/海洋空間計画/洋上風力発電
東京大学大気海洋研究所教授◆道田 豊
東京大学公共政策大学院特任准教授◆諏訪達郎

洋上風力発電施設の設置等海洋の利用法が多様化する中で、海洋利用に関する合意形成の重要性は増大している。
東京大学海洋アライアンスでは、公益財団法人日本財団の助成をいただいて進めてきた研究成果を基に、2017年10月にガイドラインを公表した。ここでは、ガイドライン作成の経緯、主な内容について紹介したい。

海洋の利用に関する合意形成とは

現在、海の利用法は多様化しています。海域利用の原点ともいえる漁業をはじめ、海運や観光、そして最近では洋上風力発電の実験施設の建設等が挙げられます。生活の場に近い海岸域を利用する方法には、さまざまな選択肢があります。
しかし、海を利用するプランを実際に立てようとすると、大きな問題に直面することがあります。それは利用者をはじめとした関係者皆の思いをすべて満たすことが、必ずしもできないという点です。
皆が納得できるように海を利用したいならば、よく話し合えばよいとも思われますが、いざ話し合うとなると、「皆」とは誰を指すか、どういう手順で話し合えばよいのか、何に基づいて判断すればよいのかといった難題が出てきます。また、海の新たな利用法を思いつく度に話し合いを繰り返すことは、手間がかかります。海の利用の仕方について、将来にわたって皆が納得できるように「合意」するには、どのように話し合いを進めていけばよいか。その際、何に注意すればよいか。その標準的な道筋を示すのが、「海洋空間計画」という考え方です。米国や英国、フランスなど世界の国々で、この考え方をもとに海の利用計画を決めるようになってきています。
東京大学海洋アライアンスでは、公益財団法人日本財団の助成をいただいて「海洋の利用に関する合意形成手法の開発」を、2014年度から進めてきました。世界的な流れである「海洋空間計画」に基づく海の利用計画を日本にも取り入れるには、どのような点に注意する必要があるのか。それを、国内外での調査や文献の精査などを通して明らかにしようと努めてきました。その成果を『海洋利用に関する合意形成プロセスに係るガイドライン』としてまとめ、2017年10月に公表しました※1
このガイドラインは、海の利用に関する利害を調整し、洋上風力発電施設の設置による再生可能エネルギー資源の開発等実際に利用計画を決めていく主体となる地方自治体を、主な読者として想定しています。ユネスコの政府間海洋学委員会(IOC)による手引書※2を参考にし、本プロジェクトにおける研究成果を具体的な例示として盛り込んでいます。

ガイドラインの構成と主な内容

本ガイドラインの本文は、6章から構成されており、各自の研究成果をまとめた6編のコラムと2編の資料がそれに続きます。本文の6章の構成とそれぞれの関係は図1のとおりです。
1)海洋利用における合意形成プロセスの特徴
海洋利用における合意形成プロセスは、陸域と比較して、以下の特徴があります。

  1. 海域については所有者が法令で定められていない。港湾区域、海岸保全区域、漁港区域等個別の法令で管理者を定めているものの、海域管理における一般的な法令は存在しない。
  2. 合意形成において必要な情報が不足しがちで、かつ、取得困難である場合が多い。
  3. 漁業者、海運事業者、発電事業者等合意形成における関係者がプロフェッショナル主体。
  4. 陸域利用と比較して一般市民の直接的な関わりが薄く、一般市民の利害が表面化しにくい。

■図1 『海洋利用に関する合意形成プロセスに係るガイドライン』の構成

2)一般市民の意見の把握
合意形成に際し、利害調整の対象となる利害、価値の把握、関係者の範囲の設定が必要です。地域住民、国民等一般市民は、直接の利害関係者ではありませんが、明示的なまたは潜在的な利害を表出させることにより、関係者間の合意形成を円滑に進めることが重要です。
このため、パブリックコメント手続に加え、マスコミ報道、インターネットでの情報発信等を通じて、世論の喚起をどのようにして図っていくか、さらに、これらの手法では把握しきれない一般市民の意見をどのようにして把握するかという点も課題となり得ます。本プロジェクトでは、さまざまな海域利用が行われている日本の海に対する人々の意識を全国アンケートによって収集し、分析した結果、人々の海に対する意識や関心の度合い、心理的な親近感がきわめて多様であることが明らかになりました。図2は、日本全国の住民を対象としたアンケートに基づいて集計した海のイメージを視覚化したものです。住民が抱く海のイメージにはいくつかのグループがあり、特に大きなグループは、「抽象化された海」(C7)「食料供給源」(C9)「自然環境」(C11)等の9グループであり、住民が海に対して抱く意識構造の多重性、多様性、複雑性が明らかとなりました。

■図2 日本全国の住民の海に対するイメージ

3)海域管理法制度の把握
合意形成に当たって、その海域がどこまでの範囲であるか、誰がその管理者か、法制度によりどのような規制がかけられているかどうか等について、明確にする必要があります。
この点に関し、改正港湾法による洋上風力発電施設設置の円滑化について取り上げます。
港湾区域内において洋上風力発電施設を設置する場合、港湾法の規定に基づき、港湾管理者から水域の占用許可を受ける必要があります。港湾区域における洋上風力発電施設の設置を円滑化すべく、2016年7月に改正法が施行されました。具体的には、港湾管理者が策定する公募占用指針に基づき、事業者が公募占用計画を提出し、港湾管理者は最も適切な計画の提出者を選定し、当該計画を認定(認定の有効期限は20年以内)することとなりました。
公募占用許可制度は、港湾において洋上風力発電施設の設置を検討する際に関係者間の合意形成を容易にし、他の海域よりも短期間で設置することが可能になると考えられます。このため、洋上風力発電施設を設置する海域を港湾区域に誘導する効果があるものと思われます。
本ガイドラインは、事例調査等で協力いただいた地方自治体等に事前に内容の確認をお願いし、いただいたご意見等を踏まえたものです。今後、本ガイドラインを広く周知していくとともに、住民意見等の分析手法の改善、更なる事例の収集・分析、関係者(主に地方自治体)との意見交換等を通じ、ガイドラインの内容を継続的に見直し、改善を図っていきたいと考えています。(了)

  1. ※1http://mt-utoa.webmasters.co.jp/news/2018/01/005047.html
  2. ※2海洋空間計画導入のための段階的手順書(2009) http://msp.ioc-unesco.org/msp-guides/msp-step-by-step-approach/
  3. 本稿は、久保麻紀子(東京大学公共政策大学院特任准教授、〜2016年3月)、城山英明(東京大学公共政策大学院教授)、杉野弘明(東京大学海洋アライアンス特任研究員、〜2017年3月)、諏訪達郎、徳永佳奈恵(東京大学海洋アライアンス特任研究員)、保坂直紀(東京大学海洋アライアンス上席主幹研究員、〜2017年5月)、道田豊、八木信行(東京大学農学生命科学研究科教授)が執筆(五十音順。ガイドライン最終ページに掲載)したガイドラインの概要を、筆者の責任でまとめたものである。ガイドラインの筆者らの所属は原稿執筆当時。
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