Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第427号(2018.05.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

◆地球温暖化が、日本海の海底にある「底層水」の溶存酸素濃度に影響を及ぼしているという興味深い論考を、(国研)国立環境研究所地球環境研究センターの荒巻能史主任研究員よりご寄稿いただいた。日本海の2,000m以深に存在する「底層水」は、日本海北西部の海面が冬の季節風によって冷やされ、こうして密度を増大した表層水が海底付近まで沈むことで形成されるので、豊富な酸素を含むという。しかし、地球温暖化に伴うこの底層水形成の循環システムの変化により、溶存酸素が減り続けているという。現在の減少速度が続くなら、100年後には日本海の底層水が無酸素化するという。そうなれば、日本海の水産資源は危機に瀕するであろう。海洋大循環が2000年のタイムスケールで生じるのに対し、「ミニチュア・オーシャン」と呼ばれる日本海は100年のタイムスケールとされるので、日本海の観測を続けることで地球規模にどのような海洋環境の変化が生じるのかを予測できるという。今後の研究の進展に期待したい。
◆同じく憂慮すべき問題が、愛媛大学沿岸環境科学研究センターの鈴木 聡教授から寄せられた。院内感染で問題視される薬剤耐性菌であるが、畜産現場では抗菌薬が医療現場の倍以上使用されており、これらの薬剤耐性菌と抗菌薬は、人獣医療現場から、下水処理を経る過程で、ある程度分解されるものの、多くは自然水圏へ放出されるという。海洋の生態系には、捕食食物連鎖に加えて、マイクロビアルループという微生物食物連鎖系があり、海洋細菌は海水1mL中に100万細胞あるとされる。これらの海洋細菌がまだ知られていない耐性遺伝子を保有している可能性があるというのである。水圏環境の細菌がヒトにもたらすリスクにつき研究が必要であろう。
◆2016年より海洋教育パイオニアスクールに参加している明治学園中学高等学校の元教諭の鹿野敬文氏から、普通科高校での海洋教育の取り組みについてご寄稿いただいた。同学園では、海洋教育がもつ総合性を失わないさまざまな工夫がなされていることを知り感心した。早朝講座として、高1に『国際海洋研究』、高2に『北極海域研究』を年に200回開催する情熱と、特設授業としてのキリバス、ミクロネシア、パラオの『太平洋島嶼国の研究』を行い、英語で発表させると聞くと、いまの高校生の熱意と力に希望を見出す。ぜひご一読を。 (坂元茂樹)

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