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オーシャンニュースレター

第424号(2018.04.05発行)

自律船開発の国内外の取り組みについて

[KEYWORDS]自動運航船/自律航行機能/遠隔監視・操船機能
(国研)海上・港湾・航空技術研究所海上技術安全研究所知識・データシステム系上席研究員◆丹羽康之

自動車の分野では自動運転の研究が進められているが、船舶の分野でも国内外で自律船(自動運航船)の研究が進められている。
特に、海外ではヨーロッパを中心に複数のプロジェクトが立ち上がっており、本稿ではこれらについて紹介する。
また、日本でも海外に遅れぬようプロジェクトが立ち上げられており、日本による自動運航船実現に向けた取り組みの一部を紹介する。

自律化・自動化技術の導入と自律船に必要な機能

現在、自動車の分野では、自動運転が実現しつつあります。この自動化のレベルを示す指標は、アメリカのSAE(Society of Automotive Engineers)インターナショナルが定めた「SAE J3016」により、レベル0(自動化なし)からレベル5(完全自動運転)の6段階が一般的に用いられています。現在のところ、レベル2(部分的自動化)として、自動ブレーキや車線維持システム等の支援装置が実車に組み込まれ始めており、さらに、高速道路での渋滞時の自動運転や無人車庫入れを可能にする運転の責任を車側に移譲したレベル3(条件付き自動運転)の車がドイツのメーカーから発売されています。
一方、船舶の世界でも、自律化・自動化技術を導入し、安全かつ効率的な運航の実現を目指した「自律船」(日本では自動運航船とも呼びます)の研究が国内外で進められています。なお、自律船・自動運航船といえども必ずしも無人の船とは限りません。
自律船の最初の定義としては、EU(欧州連合)の政府系海事関係諮問機関であるWATER BORNE Technical Platformが「自律制御を可能にする先進判断支援システムとワイヤレスでの監視と制御機能を可能にする次世代モジュラー制御システムおよび通信システムの両方を持つ船舶」と定義しています。この定義は国際的に合意されたものではありませんが、この後実施されたプロジェクトでは、おおよそこの定義に基づいて研究開発が進められました。
自律船実現に必要な機能としては、次のものがあげられます。自律航行機能として、トラックコントロール、障害物を検出し自動回避する機能、荒天海域を回避する機能、これらを実現した上での経済的な運航機能等です。また、遠隔監視機能としては、船側では船上で得た航海関係情報、イベント情報、気象海象情報等を陸上に伝送する機能、陸上側では船上からのデータを受信しこれに基づく船舶の監視機能、さらに、監視結果に基づき遠隔操船ができる機能が必要であり、高速大容量の通信環境を必要とします。さらに、エンジンや艤装品のメンテナンスフリー化があげられます。自律航行に必要な技術については、基本的には、既存の技術の組み合わせで実現できると考えられますが、障害物の検出等十分な性能を実現できていない機能があるため、これらの機能の完成度を上げて、自動化レベルの向上を実現する必要があります。

自律船の海外の取り組み

近年の海外の自律船研究の代表的な取り組みを紹介します。
最初に紹介するMUNIN(Maritime Unmanned Navigation through Networks)(EU補助金プロジェクト、8の大学・研究機関等、2015年終了)では、大洋航行を行う無人自律航行商船の概念の構築を行い、シミュレーションでこのコンセプトの検証が行われました。船のコンセプトとしては、「航海の全域あるいは部分的に船員が乗船しないで、一部遠隔制御を受けながら航海を自ら管理できる船舶」としており、これを実現するための重要技術として、①先進センサ(赤外線・可視光カメラ、レーダおよび船舶自動識別装置)による電子見張りシステム、②深海域自律航行システム、③遠隔監視・制御や保守計画、各種問題解決を行う陸上支援システム、④自律エンジン監視・制御システムが試作され、それぞれ検証がされており、その有効性があるレベルで確認されました。
ノルウェーとドイツの船級協会であるDNV-GLによるReVoltプロジェクトでは、陸上トラック輸送を船舶輸送に代替するモーダルシフトの促進を目的として、蓄電池ベースの電気推進による自律船の概念を構築し、その有効性を検証しました。電気推進は可動部を少なくすることができ信頼性を向上できます。さらに、蓄電池式によるパワー不足を6ノット程度の低速運航と船体形状の最適化により克服しています。また、自律航行システムについては、MUNINとほぼ同様の考え方で実現されています。現在、ReVoltプロジェクトを受けて、ノルウェーの会社が自律船「YARA Birkeland」を実際に建造し、運航する準備を進めています。計画によると、船長約60mのコンテナ船の設計が終了し建造段階に移るところで、2018年の下半期には、ノルウェー南部の3港間と限定されますが、自律運航の実証を目指しています。
この他、ロールス・ロイス社を中心としたAAWA(Advanced Autonomous Waterborne Applications)プロジェクトでも、2025年までの遠隔操船を含む自律船の開発を目指して、2015年から2018年にかけて、自律船の概念の構築、要素技術の開発、概念の確認が行われており、その一環として海上衝突予防法に対応した自動避航操船機能や先進センサと人工知能技術を用いた状況認識技術の開発が行われています。

自律船の国内の取り組み

平成29年度より海上技術安全研究所は、国内の造船会社、船舶運航会社、大学、船級協会、研究協会と連携して「自律型海上輸送システムの技術コンセプトの開発」の研究を国土交通省の支援を受け実施しています。本研究の目的は、船舶の自動化レベルの定義に基づいた自律船コンセプトを策定し、この自律船実現に必要な開発要素を洗い出し、自律船実現のためのロードマップを整備することです。これにより、船舶に自律化技術を段階的に導入することを促進し、「安心・安全で効率的な海上輸送システム」の実現を図ることを狙いとしています。
上述の研究は、技術コンセプトの策定とロードマップ整備でありますが、それに合わせた技術開発も必要となります。国土交通省支援事業の「船舶の衝突リスク判断と自律操船に関する研究」では、他船との衝突リスク判断を容易にする機能の開発、非常時における陸上からの遠隔操船、船橋の見張りを補助するための映像と航海計器情報を重ねた機器の開発により、事故の削減を図ると共に、船員の負担軽減等を図るものです。
また、自律船・自動運航船が運航される場合、現行規則を改訂する必要があり、それに対する国際的な取り組みも進める必要があります。
以上簡単に紹介しましたが、これらの研究は取り組みの一部にしか過ぎず、特に海外では試験海域を設定し、実現に向けた研究が進められています。今後、欧州の動きを意識して研究を進めるとともに、研究開発の際に実現される各種要素技術を実船に搭載して成果としつつ、自律船・自動運航船実現を目指して研究を進める必要があると考えています。(了)

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