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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第415号(2017.11.20 発行)

プレジャーボート等小型船舶の安全対策としてのスマホアプリの検討

[KEYWORDS]プレジャーボート/衝突・乗揚防止/スマートフォンアプリ
(国研)海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所運航・物流系系長◆福戸淳司

平成28年度には約2,000隻の船舶が海難に遭遇し、このうち小型船舶の事故が75%を占めており、これらを未然に防ぐという観点から、スマートフォンのアプリによる航行支援システムの開発が進められている。
今回の航行支援の技術的検討とガイドラインの策定により、今後スマートフォンアプリによる航行支援が普及し、小型船舶の船舶事故低減につながることが期待される。

小型船舶の海難の増加とその状況

平成28年度には約2,000隻の船舶が海難に遭遇し、このうちプレジャーボートや漁船等いわゆる小型船舶が75%を占めており、その安全対策が喫緊の課題となっている。そこで、小型船舶に対する船舶事故の未然防止という観点から、スマートフォンによる航行支援システムの開発が進められており、安価で有効な安全対策候補として期待されている。国土交通省はこれらの航行支援システムの普及を促進するとともに、支援機能が適切に働いて航行の安全性を確保するため、『船舶におけるスマートフォンアプリ活用のためのガイドライン』※1を策定した。
海上保安庁の平成28年度の「海難の現況と対策」によると、図1に示すように平成24年から28年までの5年間に船舶事故に遭遇した船舶数は10,876隻で、この内訳は、プレジャーボートが43%、漁船が29%、遊漁船が3%であり、いわゆる小型船舶が、75%を占めている。
小型船舶が遭遇する事故としては、機関故障、運航阻害(過放電及び燃料欠乏等)、衝突、乗揚が多く、安全対策としては、機関故障等の抑制を促す発航前点検機能と、衝突・乗揚の危険の発生を警告する機能が挙げられる。

■図1 船種別船舶事故隻数
平成28年度「海難の現況と対策」海上保安庁より

スマートフォンアプリによる航行支援

近年、急速に普及しているスマートフォンは、海上で位置検出ができる通信デバイスとして利用可能となってきた。こうした中、他船や危険海域への接近を警告する機能や発航前点検を促す機能を持つスマートフォンアプリが、安価で有効な安全対策として、複数の機関・企業で開発されてきている。
航行支援システムは、スマートフォン端末上のスマートフォンアプリとサーバで構成されており、基本的に次のような仕組みで機能する。スマートフォンアプリは、自身で計測した位置情報や携帯端末のID番号等船舶情報を定期的にサーバに送る。サーバは航行支援システムのサービスに加入している全てのスマートフォンアプリから受信した船舶情報を更新し、全船舶同士の離隔距離を求め接近警告の必要性を判断する。さらに、サーバは全船舶を対象に陸岸や設定した危険海域からの離隔距離を求め、危険海域の接近警告の必要性を判断し、その結果を他船位置情報や海図情報等とともに支援情報としてスマートフォンアプリに返す。支援情報を受信したスマートフォンアプリは、支援情報を表示するとともに、警告が必要な場合は警告音や警告表示、振動等により操船者に注意を促す。図2に、船舶の接近警告画面例を示す。
また、航海開始直前には、発航前点検画面が表示され、必要な点検を促す。これにより、小型船舶で多い機関故障と運航阻害の発生の低減が期待できる。表1に航行支援を行うスマートフォンアプリで提供される支援項目の例を示す。各機関・各企業で開発されるスマートフォンアプリは、ここで示した支援項目や独自の支援項目を組み合わせて支援システムを構成する。

■図2 船舶の接近警告画面例
(アプリ画面:富士通(株)提供)

スマートフォンアプリに関するガイドライン

以上のとおり、スマートフォンアプリには、多岐にわたる支援機能を備えることができ、航行の安全性に寄与する機能としては、他船接近警告や、危険海域接近警告等の警告機能と発航前の点検支援機能がある。
しかし、警告は発報時期が遅れたり、適切な表示がなかった場合、この警告機能がより危険な状況に当該船舶を導く懸念がある。そこで適切な発報時期や警告表示方法等ヒューマンファクター面での要求事項と、位置計測精度や計測値の更新間隔、アプリ・サーバ間の通信時間、情報処理時間、通信の欠落への対応等ハード面の要求事項をとりまとめた『船舶におけるスマートフォンアプリ活用のためのガイドライン』を、国土交通省が、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所と協力して策定した。
ガイドラインの作成にあたっては、警告関連の機能に関しては、衝突回避および危険海域回避に関わるシナリオを設定し、操船シミュレータを用いてヒューマンファクター面での要求事項の検討を行い、通信等のハード面での要求事項の検討とシステムとしての総合的検討を実海域実験で実施した。実験では、最も厳しい状況として対象船が双方約25ノット※2で接近する状況を想定し、接近警告後、対象船を発見し、操船判断を行い、回避するまでを検証した。この結果、他船接近警告を発報する距離を500mとすれば、対象船を安全に回避できることを確認し、この値が他船接近警告を発報する離隔距離としてガイドラインに記載されている。ハード面でも、実海域実験において、船舶情報の発信間隔や船舶情報発信から支援情報受信までの時間を計測し、確認を行った結果として、通信間隔を3秒以内にすること等がガイドラインに記載されている。また、他の支援情報についても、表示方法の他、情報の入手先、情報の管理法について調査した結果が、ガイドラインに記載されている。

2016年12月15日に東京湾で行われた実海域実験の公開の模様

スマートフォンアプリの今後

今回のスマートフォンアプリによる航行支援の技術的検討とガイドラインの策定により、この航行支援が小型船舶の安全対策案として、有望であることが確認できた。本システムを実運用に持っていくためには、当該支援システム外の船舶情報を得るための複数の支援システム間での船舶情報の共有化やAIS情報の利用、利用者を増やすためのさらなる支援機能とユーザビリティの向上が必要である。船舶情報の共有については、共有化のためのサーバの試作検討などが進められることとなっており、今後スマートフォンアプリによる航行支援が普及し、小型船舶の船舶事故低減につながることが期待される。(了)

  1. ※1ガイドラインの詳細については、次のURLを参照ください(2017年10月現在)。http://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk6_000019.html
  2. ※2高速船に相当する速度(25ノット=時速46.3km)。双方向であるため実質的に50ノットで接近していることとなる。
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