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オーシャンニュースレター

第411号(2017.09.20発行)

海外まき網漁業と資源管理

[KEYWORDS]海外まき網漁業/VD(隻日数)/FAD(人工浮き魚礁)
(一社)海外まき網漁業協会会長◆中前 明

海外まき網漁業は、日本食のベースとなっているカツオ節や調味料の加工原料の70%以上を供給する重要な遠洋漁業である。
その漁獲対象となっているカツオなどについては国際管理が行われているが、これまで成果は十分あがっているとは言えない。
今年末には管理機関において規制措置の見直しが行われるが、この重要な資源の持続的利用が確保されるような適切な管理が導入されることを期待している。

海外まき網漁業の現状

わが国の海外まき網漁業は、中西部太平洋を漁場とし、カツオ・まぐろ類などを年間約20万トン漁獲し、その多くは鰹節や鰹節から作られる各種の調味料等の原料として供給され、地域経済に寄与するとともに、今や世界遺産に登録された和食文化を支えている。主な漁場は、赤道をはさむ形で広がるミクロネシア連邦、パプアニューギニア等の200カイリ水域であるが、中西部太平洋は、東太平洋やインド洋と比べ公海の占める割合が少なく、いずれかの島嶼国の200カイリ水域に入漁しなければ操業できない状況にある。それに加えて沿岸島嶼国は200カイリ水域の入漁許可と引き換えに一部公海での操業を禁止している。この漁場で日本、台湾、韓国、中国、フィリピン、米国、南米、EU、そして各島嶼国籍の漁船がしのぎを削っているのが実情である(図1参照)。

■図1 海外まき網漁業の操業海域
青エリアは、各島嶼国の200カイリ水域。赤はそれらに囲まれた公海で、「ポケット公海」と呼ばれ、本文に記した様に、
WCPFC条約上は操業可能にもかかわらず、PNA諸国は200カイリ内入漁の条件として禁漁措置をとっている。
(出典:海外まき網漁業協会)

漁場環境の激変

この中西部太平洋漁場をめぐる国際情勢は近年一変している。中部太平洋の中心的な漁場を有するナウル協定参加8カ国(PNA)※1はまき網漁船の隻数の上限を205隻とするという制限を決めていたが、これは自国籍の漁船の進出の可能性も否定するものであった。そのため、2007年に隻数制限に変えて漁船総隻数と操業日数を掛け合わせた隻日数(VD)※2の上限を決め、制限する方式を導入し、水域内の登録漁船数は270隻を超えるまでに増加することになった。そして2012年には、長年にわたって行ってきた漁獲金額の一定割合を徴収する方式を変え、漁獲の有無にかかわらず操業日数1日当たりの料金を徴収するVD方式を導入した。予測に違わず漁業国側の足並みが揃うことはなく、すべての漁業国は、限られたVD数の中からそれぞれが必要とするVDの確保に走り、PNA側の要求をほぼ言い値で受け入れるという結果となった。さらに、この海域で操業する漁船数が増加し続けたことを背景に毎年増額され、現在までにVD単価は、1万ドル以上と高騰しておりわが国船団の場合、1隻あたりの入漁料総額は年間約2億円を超え、人件費や燃料費を上回る額に達しており経営を大きく圧迫している。

カツオ資源の管理

中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFCW)※3は、この水域の漁業が主な対象としているまぐろ類(高度回遊性魚類)の内、カツオの資源は基本的には良好であるとしている。しかしながら近年日本近海に回遊するカツオの漁獲が減少しており、国内では赤道周辺での漁獲の増加との関連が指摘されている。わが国の海外まき網漁船の一部も、夏季に本州東方海域において北上群を対象に操業しているが、その漁獲にも減少傾向がみられ同様の懸念を有している。したがって、南方水域での増隻等による漁獲増に歯止めをかける必要性を強く支持している。
水域全体の生産量に占めるわが国海外まき網漁船による漁獲は長らく年間20万トン前後の水準を維持しているが、水域全体の漁獲量に対する比率は、1985年当時の50%から近年は10数%にまで低下している。これは、諸外国の漁船数が大幅に増加しているのに対し、わが国の場合、厳しい国内規制により総隻数を35隻に制限されてきたことによる(図2参照)。
赤道周辺のカツオ資源と日本近海に来遊する群れとの関連についての調査研究は、進みつつあるとはいえ未だ十分解明されていないため、国際会議の場では、同資源から最大限の入漁料等の収入を得ようとしている沿岸島嶼国等の理解が進んでいないのが実情である。そして、主たる産卵域であるフィリピン等の群島水域では、カツオの幼魚が連日のように大量に水揚げされているにもかかわらず、それらは国際管理の外に置かれ、資源管理のための十分なデータも得られていないのが現状である。したがって、国際的に説得力のあるデータの収集と科学的な根拠を示すことが、この問題解決の前進を図る上で何より重要であると考えられる。

■図2 外国船と日本船のまき網漁獲量
縦軸は千トン、横軸は西暦。赤線は条約水域内で操業する各国のまき網による総漁獲量、青線はそのうち日本船の漁獲量。
(出典:海外まき網漁業協会)

メバチ混獲問題とFADの規制

海外まき網漁業の漁獲対象とする資源は、主にカツオ、キハダなどのまぐろ類であるが、そのほかにも各種の魚類が混獲される。特にメバチはマグロはえ縄漁業において重要対象種のひとつであり、資源状態も既に利用が過剰な状態であり、漁獲圧力を減少させることが喫緊の課題となっている。
海面に漂う流木や人工的に放流された集魚のための漂流物体、いわゆる人工浮き魚礁(FAD)に集まった魚群は動きが遅いため漁獲しやすい反面、小型魚等の混獲が多くメバチの幼魚が混獲されることが問題になっている。したがって、FADの使用を制限すればその削減ができるとの考えに基づき、WCPFCWでは、まき網漁業についてメバチの幼魚混獲削減目標達成のため、現在は毎年4カ月間のFADの使用禁止あるいは使用回数の制限を行っている。
このような規制措置の導入に際し、わが国の海外まき網漁業は、規制措置を完全に遵守することはもちろん、禁止期間以外においても自主的にFADを使わない操業を増加させている。しかしながらEUや米国、南米諸国等にあっては、操業隻数の増加に加え、禁止期間外にFAD操業を集中的に行うことなどから、年間を通じてのメバチ幼魚混獲削減効果は十分とは言えず、その早急な改善が求められている。

管理の改善に向けて

WCPFCにおいては、漁獲努力量を凍結することやFADの規制強化が議論されてきたが、新たな規制措置が導入されても開発途上にある島嶼国は規制の例外とする扱いとなっている。そして、その例外措置を最大限に活用し、自国の影響下にある合弁船等を増加させてきたのが東アジア諸国や米国であった。これが実効ある資源管理が遅々として進まない問題の根源であるといっても過言ではない。
本年12月のWCPFC総会では、資源管理方法の見直しが議論されることとなっているが、合理的かつ効果的な措置が採択されることを期待している。(了)

海外まき網漁船(写真提供:共和水産(株))
  1. ※1ナウル協定参加国(PNA:Parties to the Nauru Agreement)排他的経済水域とその隣接する公海におけるマグロ類の漁業に関する協定であるナウル協定に加盟する、パプアニューギニア、ミクロネシア連邦、マーシャル 諸島共和国、ソロモン諸島、パラオ共和国、キリバス共和国、ナウル共和国、ツバルの8カ国の共同体。
  2. ※2VD:Vessels Day=1隻1日操業を単位とする漁獲努力量指標。
  3. ※3中西部太平洋まぐろ類委員会WCPFC: Western and Central Pacific Fisheries Commission=中西部太平洋における高度回遊性魚類(マグロ、カツオ、カジキ類)資源の長期的な保存および持続可能な利用を目的とした地域漁業管理機関。

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