Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第409号(2017.08.20発行)

ミクロネシアでの海底地形調査と海洋における国際協力の今後

[KEYWORDS]太平洋島嶼国/海底地形調査/新たな国際協力
(国研)海洋研究開発機構経営企画部国際協力推進担当役◆川村善久

2016年3月、JAMSTECの研究船「かいれい」により、ミクロネシア連邦海域で実施された海底地形調査事例をもとに、JAMSTEC所有の研究船および施設の有効活用による島嶼国等との国際協力のあり方について述べる。
今後は、双方が対等な協力関係を構築していくことがより一層重要になるのではないかと考える。

2016年3月、国立研究法人海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)の研究船「かいれい」により、ミクロネシア連邦海域で実施された海底地形調査事例をもとに、JAMSTEC所有の研究船および施設の有効活用による今後の島嶼国等との国際協力のあり方について考える。

ポンペイ島東方沖 海底地形調査

2016年2月24日午前9時、JAMSTEC所属の研究船「かいれい」は、ミクロネシア連邦海洋資源管理局代表1名とともに、横須賀から同連邦ポンペイ島東方沖に向け出港した。回航中の天候にも恵まれ、3月3日に調査海域に到着、船上設置のマルチビーム音響測深機とサブボトムプロファイラーによる48時間にわたる海底地形および浅部地層調査を実施し予定通りのデータ取得に成功した。翌3月6日にポンペイ入港、調査航海を終了した。
本調査航海実施に至る行程の始まりは、研究船「かいれい」航海開始の約3カ月前、豪州地球科学研究所に、オーストラリア東方沖ロードハウライズ周辺の地質構造解明のための広域地震波構造探査航海の打ち合わせに行ったときのことである。豪州地球科学研究所の西太平洋・島嶼国海域担当の職員から「ミクロネシア連邦が緊急に海底地形調査を必要としており、ロードハウライズ周辺での構造探査航海へ向かう研究船「かいれい」を利用し調査を実施できないか」との問い合わせがあった。
その情報をもとに、ミクロネシア連邦海洋資源管理局とのEメールでのやり取りや、ポンペイ島へ出向いての直接の打ち合わせで、その海底地形調査データが、進行中の国連の大陸棚限界委員会の議論・審査に重要なものであること、とは言え、研究船を独自でチャーターして調査を実施するほどの財源も持ち合わせていないこと等の情報を得た。豪州地球科学研究所からの強い支援要請もあり協議の結果、ロードハイライズ調査航海の回航時に必要最小限の4日の調査日数を追加し、その調査日数のみミクロネシア連邦予算で実施することで、3カ月弱という短い調整期間で本調査航海を確定、実施することができた。
本調査航海の計画立案から実施までの行程は、従来のJAMSTECにおける所有研究船よる調査研究航海、とくに日本の領海外での航海といくつかの点において大きく異なる点がある。従来の調査研究航海の場合、まず初めにJAMSTEC研究者単独またはJAMSTEC研究者と他の研究所所属研究者の共同で、研究船を利用した研究提案として提案書が提出される。研究船利用委員会が厳格な審査を行いJAMSTECの予算状況も加味し、1年以上前に調査研究航海の可否を決定する。その後、JAMSTECにより、許認可手続きを含むすべての航海準備が行われる。日本国予算(海洋研究開発機構交付金)により実施される調査研究航海であり、委員会による審査および年度予算による実施可否への影響は、当然と思われる。対して本調査航海は、JAMSTECでない組織・外国政府機関が必要とする調査を他組織・他政府の経費負担での実施であったため、また、すでに計画されている調査研究航海計画に追加するという形で実施可能であったために、短時間での航海計画立案から実施までが可能になった。

海底地形調査を行った「かいれい」(写真提供:JAMSTEC)調査航海が実施されたミクロネシア連邦ポンペイ島東方沖の海域

背景とJAMSTEC所有研究船の現状

近年、国際・複数国家間の協議の場で、国連海洋法条約のような国際法や、環境影響評価のような国際規格・規準の体系がより明確化し、反映されるようになってきている。それに伴い、客観的な科学的調査データの重要性が高まってきている。
国連海洋法条約のもと、島嶼国や発展途上の沿岸国においても、国連の大陸棚限界委員会へ大陸棚延長申請する活動を積極的に行おうとしている。しかしながら、国、連邦、地域によっては、その申請に必要な科学的調査データを自前で調査・取得できないというのが現状である。同様に、周辺海域における環境調査、環境保全、海中・海底における新たな資源調査・開発等にも、自国の施設、人的資源、技術力不足により手を出せない状況がある。
翻るに、JAMSTECは昨今の日本政府の科学研究予算の状況で研究船や施設の稼働日数が減少している。この状況が継続すると研究船を含む大型施設を維持するのみで実調査研究が実施できないという状況にもなりかねない。

国際協力の今後

従来通りの日本主導の共同研究、調査研究航海を軸とした国際協力の重要性が不変であることに変わりはないが、昨今の国力を背景とした中国の海洋や国際協力への進出を鑑みるに、同じ土俵で日本のプレゼンスを発揮することには限界があると思われる。
しかし、今回のミクロネシアでの海底地形調査の例を見るに、相手国、相手地域が主体的に実施を検討している調査や事業等に、相手に不足しているもの、例えば研究船等の大型施設、科学調査技術等を効率よく提供・支援することにより、何かしらの対価を得るという、双方が対等である協力関係を構築していくことが今後より一層重要になるのではないかと考える。
また、背景にある国際規格・規準に関しても、島嶼国や発展途上の沿岸国と真摯な連携を取り仲間となりながら、連携国も受け入れやすい形になるように、日本が主導して海洋資源開発における環境影響評価等を規格化していくという形の国際協力が、日本の海洋におけるプレゼンスをより高めることになると思う。
これらの新たな国際協力関係の構築には、双方向の情報の共有が不可欠であり、特にJAMSTECからは、研究船運航・施設利用状況および国際規格・規準に対する取り組み等に関する情報の発信が重要である。日本と島嶼国との間で築かれているさまざまなネットワークは、その情報発信場所として大変重要であり、これらとも連携し、国際協力を図っていきたい。(了)

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