Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第407号(2017.07.20発行)

SDGs達成のための科学技術イノベーションへの期待

[KEYWORDS]科学技術外交/SDGs/ブルー・イノベーション
政策研究大学院大学副学長、笹川平和財団海洋政策研究所所長◆角南 篤

科学技術イノベーションにより維持可能な開発目標(SDGs)を達成しようという動きが世界で広まっている。
科学技術イノベーションはわが国の強みとして、国際社会でも期待が集まる。
海洋国家日本として、地球を未来につなげていく維持可能なシステムを、世界とともに創るための科学技術外交が今、求められている。
また同時に、海にかかわる科学技術イノベーションを誘発するわが国ならではのエコシステムの構築が急がれる。

STI for SDGs

国連本部でのパネルディスカッション

現在、国連を中心に地球規模で活動が広がっている「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(SDGs)は、17の目標を設け、これまでのミレニアムゴールとは違ったアプローチで先進国と途上国が一体となって解決を目指す動きを本格化している。そのなかでも、科学技術イノベーションは、ほぼ17の目標すべてに関係する重要な解決手段として注目されており、今年の5月には、第2回目となるSDGsの解決のための科学技術イノベーションを推進する「STIフォーラム」が、国連本部の経済社会理事会の主催で開かれた。世界からも科学技術の面で常に期待されているわが国は、このフォーラムを科学技術イノベーションで世界のためにSDGs解決に貢献するという姿を全面的に打ち出すよい機会とし、これまでの科学技術協力の実績や地球環境問題、感染症、公衆衛生など人類共通課題に対する取り組みなどを広く紹介してきたところである。わが国の強みである科学技術イノベーションをSDGsの解決に生かすというメッセージは、参加国の中でも大きな評価を得ることができた。SDGs外交としても意味深い第一歩、まさにわが国の科学技術外交の成果の一つだと言える。
科学技術外交とは、科学技術と外交という異なる二つの分野を連携させることによって、世界が抱える課題の解決を目指すことを意味する。2015年、外務省は岸田文雄外相の下に科学技術顧問を設置、岸 輝雄東京大学名誉教授が初代顧問として就任した。そして、科学技術顧問を支えるため17人の有識者で構成された科学技術外交推進会議も発足されている。この推進会議は、岸科学技術顧問をサポートし、わが国の科学技術外交の推進役となりSDGsのほか、北極や海洋など重要な外交課題を選定して議論している。例えば、SDGsの目標14である海洋についてはまさに地球規模課題の代表的テーマであるが、まだまだ解明されていない部分が多く、科学技術と外交がうまく連動していくことが必要不可欠であるとされている。

エビデンスに基づいた地球全体のガバナンスに向けて

科学技術によるSDGsへの貢献において、とくに期待される点のひとつは、地球の限られた資源の利活用に対するガバナンスの構築である。とりわけ、海洋資源の維持可能な活用は人類の長期にわたる重要な課題である。これまで人類は主に陸上を舞台として発展してきたが、地球の表面の7割以上を覆う海については、その多くが未知のままである。大きく広がる海洋全体の状況に加えて深海まで視野に入れると、人類がいまだに解明できていない領域がほとんどであるといえる。海が地球全体の環境システムを形成しており、地球環境保全の課題のみならず維持可能な経済成長を実現するうえでも、海にかかわる科学技術イノベーションは今後ますます重要になる。また、IOTやビッグデータの時代に入り、海にかかわるデータの収集や分析、海洋研究を含めた地球科学から得られた知見は、今後の地球全体のガバナンスのベースになる。
わが国も昨年、官民データ活用推進基本法を制定し、よりエビデンスをベースにした行政システムに変えていくことを目指している。わが国が海洋政策をはじめ、今後世界的な取り組みとして維持可能な地球システムを実現するためのガバナンスの構築に積極的に貢献するためにも、海洋研究のさらなる推進は不可欠である。わが国が海洋国家として世界をリードするのであれば、まずは最先端の研究拠点としてその成果を世界に発信し続けることが求められる。

「ブルー・イノベーション」でSDGsの達成を

昨年、スバールバル諸島(ノルウェー)の国際北極環境研究センターで海洋経済の未来についての国際会議があり、主催国であるノルウェーから招待され参加してきた。その会議のなかで最も印象に残ったのは、17歳の時にオーシャン・クリーンアップ基金(2013年設立、デルフト)を立ち上げたボーヤン・スラットという若い起業家である。創業のきっかけは、あまりに多くのプラスチックゴミが海に漂流している現状を学生時代に乗った船上から目の当たりにしたことだそうだ。
彼のオーシャン・クリーンアップは、海流を精緻に計算したうえで、適切な場所にネットを設置するだけで自動的にプラスチックゴミの回収が容易にできるシステムである。ネット自体にも多くの技術的なイノベーションがあり、海流に関する研究と最新のシミュレーションを用いた、まさに科学技術イノベーションによる課題解決のよい例である。彼の勇気ある活動は世界中で評価をされ、オバマ大統領(当時)からもホワイトハウスに招待され激励を受けたそうである。今年からカリフォルニア沖の太平洋で実証実験が開始されるが、今後、日本近海でのさらなる実証実験に期待を寄せている。
昨年、OECDが『The Ocean Economy in 2030』というレポートを出した。OECDは、彼らがこれまでの事業であまり注目されてこなかった海を、地球が保有する重要な財産として世界経済の維持可能な成長という観点から捉えなおした画期的な研究報告である。そして本レポートでは、維持可能なオーシャン・エコノミーの発展のために海洋にかかわるオープン・イノベーションを実現することを提言している。そのために、国際協力による科学技術イノベーションのプラットフォームを形成し、幅広い意味でのオーシャン・エコノミーをより的確に捉えるためのデータや指標開発が求められると指摘している。
「ブルー・エコノミー」とその維持可能な成長をもたらす「ブルー・イノベーション」を実現することは、SDGsのなかでも最も重要な課題解決のひとつになることは間違いない。わが国発の「ブルー・イノベーション」をひとつでも多く創出できるよう、海洋イノベーション・エコシステムの構築を急がなければならない。(了)

Boyan Slat代表(写真上)とオーシャン・クリーンアップ基金の活動。(The Ocean Cleanup.com より)

The Ocean Economy in 2030,OECD, 2016
http://www.oecd.org/environment/the-ocean-economy-in-2030-9789264251724-en.htm

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