Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第394号(2017.01.05発行)

日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアムについて

[KEYWORDS]海洋開発/人材育成/産学官公連携
日本財団常務理事◆海野光行

海洋開発の人材育成を行うための産学官公からなるプラットフォーム「日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアム」が、2016年10月4日に設立されました。
本コンソーシアムは、将来大きな成長が期待される海洋開発産業を戦略的に展開していくためのオールジャパンの取り組みとして注目されています。

将来に大きな可能性を秘める海洋開発産業

地球表面の約7割を占める海洋には、多くの貴重な資源が存在しており、これを取り巻く市場も巨大です。特に海洋石油・ガス開発市場は、世界の投資額が年間30兆円にも達します。中長期的にはさらに大きく成長していくと見込まれており、2030年には投資規模が50兆円になるとの見方もあります。
海洋に存在するのは、化石燃料だけではありません。地球温暖化に対する関心の高まりを受け、海洋再生可能エネルギーの開発も進んでいます。特に洋上風力発電は、欧州を中心に急速に成長しており、現在は2兆円を超える投資規模となっています。将来は日本近海も含めてさらに大きく成長すると見込まれています。
中長期的には日本国内でも資源開発の可能性があります。日本近海には、メタンハイドレート層や熱水鉱床、レアアース泥、マンガン団塊が存在しています。例えば、東部南海トラフ海域に賦存するメタンハイドレートだけでも1.1兆m3と、日本における天然ガス消費量の約10年分ともなります。これらの資源開発が商業化すれば、大きなビジネスチャンスとなるでしょう。

海洋開発産業の現状と人材

このような海洋開発分野に日本企業も大きな期待を寄せていますが、現在日本の市場への関与は極めて限られています。例えば、世界の海洋石油・ガス開発への投資に対する日本企業のシェアは1%程度しかありません。今後、日本の海洋開発産業を発展させ、売り上げを現在の5倍にする想定をした場合、その規模は2兆円以上になります。日本の技術ポテンシャルを考えれば、十分に達成可能な目標です。
一方で、目標達成のためには優秀な人材の確保が欠かせません。日本財団の調査によると、日本の主な企業において海洋開発に従事する技術者は約2,200人ですが、目標達成のためには、技術者数を5倍の1万人レベルにまで引き上げる必要があります。また、海洋開発産業は多数の事業が組み合わさって構成されており、これらの事業を確実に実施するためにも、技術者は深い専門性に加え幅広い知見を有していなければなりません。さらに、近年の開発エリアの大水深化やメキシコ湾での大事故等による安全対策の強化、環境負荷低減への高まりを受け、求められるスキルはさらに多様化、専門化しています。
このように考えると、海洋開発技術者を将来において確保するためには、長期的な視点に立ち、社会人のみならず学生の段階から、戦略的に人材を育てる必要があります。一方で、学生の人材育成のためには以下の課題の克服が必須となります。

  1. 海洋開発産業の魅力が若い世代(学生)に認知されていない。
  2. オペレーションを含む現場経験を積むことが重要であるが、日本にそのようなフィールドがない。
  3. 海洋開発の技術を横断的、包括的に習得できるカリキュラムが存在しない。
  4. 学生と企業を橋渡しする(連携を促進する)仕組みが不足している。
  5. 上記の課題を解決するための、企業ニーズに合致した人材育成システムがない。

コンソーシアム設立の経緯と概要

日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアム設立記者会見
(2016年10月4日)

日本財団では、海洋開発が将来の日本の海洋産業を大きく成長させる分野であると考え、当初より中心的な立場で議論を主導してきました。2013年には人材育成システムのあり方につき議論すべく「海洋開発人材育成研究委員会」を設置し、上記の課題を抽出するとともに、その対応策を提言としてとりまとめました。また、提言を実行に移すためのプラットフォームが必要であるとの認識から、2015年5月に政界および財界のキーパーソンからなるコンソーシアム設立発起人会を設立し、産学官への呼びかけを本格化しました。このような動きと並行し、同年の海の日記念式典では、安倍晋三総理大臣よりコンソーシアムの必要性についての強いメッセージが発信されました。その後、関係者間による調整の結果、2016年10月4日、日本の主要な海洋開発関係企業(12社)、大学(14大学)、公的機関(4機関)が参加する、オールジャパンのプラットフォームとして、「日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアム」が発足しました(代表:笹川陽平日本財団会長、副代表:宮原耕治日本郵船(株)相談役、市川祐一郎日本海洋掘削(株)代表取締役社長、事務局:日本財団)。
次に、コンソーシアムの概要ですが、対象は大学生・大学院生および若手の社会人技術者です。学生対象の取り組みに関して具体例を挙げますと、海洋開発産業の魅力を伝えるためのオリエンテーションセミナーや、海洋掘削船「ちきゅう」や浮体式洋上風力発電施設「はえんかぜ」において海洋開発の技術を学ぶ現場体験セミナーを開催したり、海外大学のサマースクールや海外企業へのインターンシップへの派遣を積極的に実施しています。また、これらセミナーやスクールに参加した学生に対して「履修証明書」を発行し、企業の方がリクルート等をする際に学生が何を学んだかを「見える」仕組みとしています。さらに、サマースクール等に参加した学生を「日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアムフェロー」として認定し、同輩、後輩たちに産業の魅力を伝える役割を担っていただいています。そのほかにも様々な取り組みを行っていますので、コンソーシアム専用ホームページ(http://www.project-kaiyoukaihatsu.jp/)をご覧ください。

サマースクールに参加した学生たち
海洋開発の技術を学ぶ、現場体験セミナーの様子

これからの取り組み

今後は、企業ニーズを捉えた取り組みをコンソーシアムにおいて着実に行い、優秀な若い技術者をしっかりと育てていきます。そして、フェローや企業の方にもご協力いただき、その成果を広く伝えることにより、海洋開発を学びたいという意欲ある学生をさらに増やしていく(裾野を広げる)予定です。また、人材育成のみならず技術力強化のためにも、ノルウェーやスコットランド、ヒューストンといった先進地域の大学や企業との新しい連携プログラムを準備していきます。
本財団としても、コンソーシアムメンバーをはじめとする関係者、国土交通省と連携し、ファシリテーターとしての役割をしっかり果たしていきたいと考えています。(了)

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