Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第393号(2016.12.20発行)

海洋の変化と闘うことの必要性

[KEYWORDS]気候変化/NDCs/国際協力
フランス持続可能開発・国際関係研究所(IDDRI)◆Alexandre K. Magnan
IDDRI、パリ第6大学UPM◆Jean-Pierre Gattuso

海水温の上昇、酸性化、貧酸素化、海面上昇など、海の物理的、化学的変化による影響は、生態系へ、さらには漁業、養殖など各種の生態系サービスへと、段階的に拡大している。
海洋温暖化や海洋酸性化が生態系に取り返しのつかない事態を招く前に、緩和、保全、適応、修復に関わる4つの対策を国や地方の行政レベルで早急に進めるとともに、世界的には積極的な二酸化炭素排出削減を迅速に進めることが必要である。

気候変化と海洋

地球全体を見るとき、海は、人類活動によって大気中に蓄積される二酸化炭素のおよそ4分の1を、さらに、熱の90%以上を吸収し、結果的に気候変化の速度を抑えるところとなっている。しかし、これは、海水温の上昇、酸性化、貧酸素化、海面上昇など、海の側における大きな犠牲の上に成り立っているのである。こうした海における物理的、化学的変化による影響は、生態系へ、さらには漁業、養殖など各種の生態系サービスへと、段階的に拡大して行き、最終的には世界各所において人類社会へ大きな影響を及ぼす結果になることが予想される。
日本など複数の諸国が今、こうした海洋変化の最前線に立たされており、すでに造礁サンゴ、中緯度海域に生息する二枚貝などにその影響が観測され、世界の今後の温室効果ガス排出量緩和策によって、今世紀の末までの海洋にどのような影響が生ずるリスクがあるのか、という問題が出てきた。この問題にどう対応するかを、とくに海洋資源に直接的に依存して生きる諸国は、主要な関心事とし、気候変化に対して歯止めをかけ、海がもたらす生態系サービスに著しい崩壊が起こるのを防ぐことを目指して積極的な努力を行うための重要な動機とすべきである。

取り組みの検証

「パリ協定」が成立した2015年COP21に先立って、世界のほぼすべての国は、2100年までに地球の平均気温上昇を産業革命以前比2℃未満に抑えるという世界目標達成のために自国の排出量を削減する道筋を述べたいわゆる「自国が決定する貢献」(INDCs。現在NDCsと呼んでいる)を提出した。日本は世界の大半の国々と比べてかなり早く、2015年7月に自国が決定する貢献の提出を行い、2030年までに温室効果ガス排出量を2013年と比べて26%削減することを約束した。ちなみに、2013年の排出量自体、2005年と比べて25.4%低かった。
こうして世界から集まった将来への見通しの上に立ってクライメート・アクション・トラッカー、クライメート・イニシアチブその他の組織がすべての自国が決定する貢献を総合して、2100年までに地球の平均気温は2.7℃ から3.5℃の幅で上昇、結果的に海面の温度は1870年から1899年に比して2.0℃から2.6℃上昇、pH 値は0.26 から0.34の幅で低下するであろうとの予測を示した。さらにわれわれも、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が図解によって示した気温2℃上昇シナリオ(RCP2.6シナリオ)および4℃上昇シナリオ(RCP8.5シナリオ)をもとに、そこに示された海洋および沿岸地域の生物、生態系、人類社会が受ける恩恵維持のための各種の緩和目標の連鎖反応について分析を行い(Gattuso et al. 2015およびMagnan et al. 2016)、気候変化への対応に関して世界が約束している取り組みの水準が海洋に対してどのような意味を持つことになるのかの検証を行った(図1)。
その結果、2℃上昇シナリオから2.7℃上昇シナリオに移った場合に、造礁サンゴが影響を受けるリスクは「高」から「超高」に移り、中緯度海域の海藻、二枚貝類、養殖産業へのリスクが「中程度」から「高」に、マングローブへのリスクが「検知できず」から「中程度」へと移行することが判明した。われわれの分析では、総体的に言って、現在のグローバルな積極性のレベルのままで気候変化に対応しようとした場合、海への影響のリスクは、現在から2100年までに2.2倍から2.5倍にまで上昇する。ちなみに、RCP2.6 シナリオおよびRCP8.5シナリオでは、それぞれ1.4 倍、2.7倍となっている。
結論として重要なことは、現在提出済みのNDCsは、4℃以上の上昇を見込んだIPCCの「平常通り」のシナリオより大きな前進ではあるが、気温上昇を、パリ協定が目標とする「2℃を十分に下回る」水準に抑えるには決して十分ではない、ということである。

■気候変化が海洋および人類社会にもたらすリスク
現状(黒色実線)、RCP2.6シナリオ(白色実線)、2100年までに工業化前比気温上昇2.7℃(長破線)、同前3.5℃(中破線)、
RCP8.5℃シナリオ(短破線)。リスク度色別:「超高」(紫)から順次「検知できず」(白色)まで。
(出典:Magnan 他 2016)

各国が果たすべき役割

ここで、日本そして他の諸国は今、何をすべきか、という問題が浮かび上がってくる。各種の科学的文献や、いわゆる灰色文献に属する文書は、いずれも4つのオプションについて述べている(Billé et al. 2013)。すなわち以下の4つである。

  1. (1)海洋変化の根本原因を抑制するために二酸化炭素排出を抑制する「緩和」策を取る(例:排出量の削減、海洋からの二酸化炭素の除去、など)
  2. (2)海洋および沿岸地域の生態系がもつ本来の復元力の育成あるいは維持のために、気候および海洋以外のところに原因を発するストレス要因からこれら生態系を守るための「保全」策を取る(例:保護区の設定、天然資源利用の規制、陸起因の汚染の削減など)
  3. (3)社会の「適応」策を取る(例:活動・居住の場の移転、海洋の変化に対応可能な経済活動の開発と対応不可能な分野の放棄、護岸施設を適切な場所に限って建設するなど)
  4. (4)すでに破壊された生態系に対して「修復」策を取る(例:サンゴの養殖、マングローブの移植、養浜など)

これらはいずれも、国や地方の状況に合わせて実施すれば、単独でも有効であり、複数実施すれば相乗効果もありうるが、気候の変化、海洋の変化が進むにつれて有効な対応策の数も効果も減って行くことが大きく懸念される。従って、世界の緩和措置が、それだけでは不十分とはいえ、まず、これを実行することが第一であり、さらに、世界的に迅速で積極的な二酸化炭素排出削減が必要である。そのためには、各国、とくに排出量の多い国々が、パリ協定の定める2020年からの5年ごとのNDCs見直しプロセスにおいて、全面的に役割を果たすことが求められる。(了)

  1. 本稿は、英語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻訳とりまとめたものです。
    原文は、
    こちらでご覧いただけます。

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