Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第392号(2016.12.05 発行)

東南アジアにおける海洋観測の促進に向けて

[KEYWORDS]沿岸海洋観測データ/データ共有/GEOSS
(国研)海洋研究開発機構 経営企画部企画課課長代理、気象予報士◆磯野哲郎

海洋観測と得られたデータの重要性は、すでにこれまでにも数多く本誌内でも論じられている。
本稿では、とくに、東南アジア地域における海洋観測の促進と、流通が盛んではないと言われている沿岸海洋観測データの共有に向けたスキームを構築する方策について検討を試みた。
これらの実現には、東南アジア諸国が海洋観測プロジェクトに参画することが肝要となる。

現状と必要性

東南アジアでは、近年気象災害が頻発するとともに、近い将来には地球温暖化の影響(海面上昇等)を受けることが予想されている。そのため、防災・減災対策や温暖化適応策を立案する上では、地球環境のローカルな予測情報が必要となる。例えば、わが国の異常気象は、エルニーニョ現象など、低緯度の海洋の状態にも密接に関係するとも考えられている。そのため、東南アジアでの海洋観測データが充実すれば、わが国の気象に与える影響の把握とプロセスの理解がより一層進むことが期待される。
海洋のローカルな予測を高精度で行うためには、そのための高解像度モデルが必要となるとともに、精度の高い沿岸海洋観測データがモデル検証および初期値として必要となるが、外洋のデータに比べ、あまり流通しているとは言えない。また、東南アジア諸国は狭いエリアに多数の国が密集しているため、一国の沿岸データのみならず、周辺諸国の沿岸データを活用して予測を行う必要があるため、データ流通の促進には、国際的な取り組みが必要である。

沿岸海洋観測データの共有に向けた取り組みの一例

■GEOSS-AP Ocean Data Networking System
出典: http://www.jamstec.go.jp/geossap/index.html

全球地球観測システム(GEOSS)の普及と推進に向けた情報交換や、共通理解を深めることを目的として、地球観測に関する政府間会合 (GEO)の主催で、GEOSSアジア太平洋シンポジウムが開催されている。本シンポジウムでは、分野別に分かれて目的達成のための議論を行っているが、2010年3月に開催された第4回シンポジウムの「アジア太平洋域の気候変動と監視能力」分科会において、沿岸域のデータ流通が不活発であるという問題が提起され、2012年3月に開催された第5回シンポジウムから「海洋観測と社会」分科会が設置されている。同分科会の目的は、アジア太平洋地域における沿岸海洋観測データを共用する仕組みの構築である。
2014年5月の第7回まで3回にわたり継続的な議論が行われ、アジア太平洋地域の沿岸域の海洋観測データの公開が重要視され始めた理由として、以下が確認された。
OceanObs'09 以降に海洋観測のための社会的な原動力が増加したこと/海洋観測を実施する上で必要なパラメータを明確化する必須海洋変数(EOVs)という概念が構築されたこと/沿岸海洋は日常生活に直結していること/沿岸は国家安全保障の問題が介在するものの、GEOSSの社会便益分野の観点からは沿岸域のデータ公開が不可欠なものであること。
また、関係者間のみでデータを交換して一般に提供する義務がない"データ共有"ではなく、データを広く提供する義務を負う"データ公開"という考え方の必要性が指摘された。
さらに、本分科会の具体的な行動として、沿岸の観測情報(メタデータ)共有に向け、アジア太平洋地域各国の国家管轄を侵さない範囲での観測情報の共有は社会利益をもたらすとの共通認識のもと、「GEOSS-AP Ocean Data Networking System」を立ち上げることが提案された。
しかしながら「GEOSS-AP Ocean Data Networking System」のHP(図参照)を開いてみるとわかるとおり、アジア太平洋諸国では、そもそも沿岸の海洋観測を現業目的で自国の力のみにより実施できる国は多くない。

データ共有スキームの構築に向けた方策

すでに、総合海洋政策本部を始めとして、文部科学省、外務省や環境省などの政策文書において、わが国のイニシアティブによりアジア太平洋地域で海洋観測を促進するよう、うたわれている。したがって、データ共有スキーム構築の実現に向け、以下の点に留意しつつ海洋観測プロジェクトを練り上げることも一案ではないだろうか。

  1. 1)気候変化の分野のように、国際的に認知されている地球規模課題を解決するという社会的な原動力を立脚点として、東南アジア諸国が参画する形で海洋観測プロジェクトを立案すること。その際、東南アジア諸国において、データを共有することにより得られる共通のメリットを見出すこと。
  2. 2)成功事例である世界海洋循環実験計画(WOCE)、熱帯海洋・全球大気研究計画(TOGA)およびArgo計画を参考に、プロジェクトの立案過程において、研究計画立案の議論と並行し、当初からデータの運用・管理・流通方法のルールについて検討し、定義しておくこと。
  3. 3)わが国が実施してきたこれまでの取り組みに加え、相手国の現業官庁のポテンシャルを組織的に上げられるような能力開発プログラムを構築すること。この際も、東南アジア諸国の参画が重要である。先進国の都合で計画を立てて援助する形は、実質的には単に当該国の管轄圏内で観測をするための見返りであり、それは参画とは言えない。
  4. 4)プロジェクトは、政府間海洋学委員会(IOC)や国際海洋データ・情報交換システム(IODE)のような国連フレームワーク(法的拘束力有り、かつ合意には長期間の調整が必要)とGEOのような非国連フレームワーク(法的拘束力無し、かつボランタリーベース)をうまく使い分けること。その際、数多の既存枠組みに屋上屋を重ねる新しい枠組みを構築するのではなく、既存枠組みを活用すること。

おわりに

米国海洋大気庁(NOAA)が公開しているWorld Ocean Database 2013によると、国別の海洋観測データ量は総数約1,100万に対し、IOCの西太平洋に関する政府間地域小委員会(WESTPAC)に参加している日本以外のアジア諸国のデータ量はトータルで2%(約15万)にも満たない。これに対し、例えば、全球の外洋域を自動昇降型の漂流フロートで観測するArgo計画では、約3,500台のフロートにより1ヶ月間で約1万の水温・塩分データを取得している。これらの数字からもわかるように、アジア太平洋地域の沿岸海洋観測データはほとんど流通していないのが現状である。また、沿岸海洋観測データは安全保障問題とも直接関係してくることから、外洋域のデータのように公開や流通が簡単には行われないという側面もある。
アジア太平洋地域の沿岸海洋観測データを充実させ、かつ流通させるためには、わが国がこれまで当該地域において築き上げてきたプレゼンスを活用して海洋観測プロジェクトを立案し、主導していく必要があるのではないだろうか。(了)

  1. 安藤健太郎ほか(2015):日本によるアジアにおける海洋研究-WESTPAC設立25年の活動を中心に-, 海の研究(Oceanography in Japan), 24(3), pp.79−108
  2. 本稿は、筆者の放送大学大学院社会経営科学プログラム平成27年度修士論文をもとにした個人的見解であり、(国研)海洋研究開発機構ならびに所属部署の公式見解を示すものではありません。
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