Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第391号(2016.11.20発行)

編集後記

国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長◆山形俊男

◆地球温暖化対策に向けた国際ルールである「パリ協定」が11月4日に発効した。世界の197の国と地域は産業革命後の気温上昇を2度未満に保つために、今世紀後半には温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることをめざすことになった。わが国は8日に批准手続きを完了したが、7日には国連気候変動枠組み条約第22回締約国会議がモロッコで開幕しており、世界の動きに乗り遅れた感は否めない。今後は低炭素社会の実現に向けて実効ある対策を進め、世界の範となるように努めていかねばならない。
◆このような折、寒波が襲来し、北海道はかなりの降雪に見舞われた。11月初旬のまとまった積雪は1995年以来である。この年には今年と同様にラニーニャ現象が発生していた。こうした異常気象をもたらす気候変動(Climate Variability)と外部要因による気候変化(Climate Change)の違いを理解することは、科学面からだけでなく対策面からも重要であるが、わが国では気候変動と気候変化の概念が未だに混同されている。
◆人類活動の影響は大気の組成変化に伴う気候変化にとどまらず、生態系を含む地球システム全体の持続可能性に深刻な問題を起こしている。しかし私たち一人一人の活動は極めて小さな世界に限られている。パスカルが『随想録』に記したように人は一本の葦でしかない。しかしそれは考える葦であり、共に立ち上がれば世界を包み込むことができる。地域の人々が連携し、持続可能な発展をめざす取り組みの成功例を増やし、その情報を広い世界で共有していくことにこそグローバルな解があるのではないか。そこで今号ではトルコのギョコワ湾における成功例を地中海保全協会のZafer Kizilkaya氏に紹介していただいた。地元住民と政府の協働により、漁業管理を適切に導入したことで、生態系が回復し、漁業資源と漁業所得を増加させることに成功したという。海のレンジャー制度など学ぶべき点が多い。
◆生物多様性の保全と持続可能な利用という人類の共通価値は、国家の管轄権の及ばない公海と深海底に新たな視点から規制を導入する国際的な動きも生み出している。これは資源の絡む問題であり、先進国と途上国の綱引きも激しい。坂巻静佳氏にはこうした動きの背景、既存の法制度との関係、海洋法秩序が向かう方向などについて解説していただいた。法による国際秩序を重視し、海洋調査の先進国でもあるわが国は制度設計の上でも重要な役割を担えるのではないかと思う。
◆ところで冒頭で言及した「パリ協定」の目標を達成するには再生可能エネルギーの導入が不可欠である。なかでも重要なのは自然エネルギーであるが、水力、太陽光、風力に比べて、海流などの海洋エネルギーの開発は遅れている。そこで利根川雄大氏に新潟県粟島沖で漁協と産官学の連携により進められている海流発電実証試験について解説していただいた。海洋エネルギーを固定価格買取制度の対象にすることは、自然エネルギーの複合利用を促し、電力の安定供給につながる。これは新産業を興すことにもなり、離島振興策としても効果的ではないだろうか。 (山形)

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