Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第391号(2016.11.20発行)

粟島沖の海洋エネルギーの取り組みについて

[KEYWORDS]海洋再生可能エネルギー実証フィールド/浮体式小型海流発電/新潟県粟島浦村
新潟県産業労働観光部産業振興課長◆利根川雄大

新潟県では、「新潟版グリーンニューディール政策」の一環として、海洋エネルギーの導入に向けた取り組みを推進している。
粟島沖が、国の海洋再生可能エネルギー実証フィールドに選定され、新潟県海洋エネルギー研究会と日本大学理工学部が共同で浮体式小型海流発電装置の実証試験に取り組んでいる。
実証フィールドが活用されることで、地域活性化の効果も期待できるので、今後も本実証フィールドの利活用が進むよう努めてまいりたい。

はじめに

新潟県では、地球温暖化問題に対処しつつ、関連産業の振興を図る観点から、再生可能エネルギーの導入拡大を図る「新潟版グリーンニューディール政策」を推進している。
これまで本県では、民間企業との共同による全国初の商用メガソーラー発電所や全国初の自治体直営のメガソーラー発電所の開設、県の導入可能性調査を契機とした全国初の100℃未満の温泉を活用したバイナリー地熱発電の実証、雪冷熱供給を通じて民間事業者が行うデータセンター事業など、再生可能エネルギーに関する先駆的な取り組みが行われてきている。こうした中、わが国における導入ポテンシャルが高く、長大な海岸線を有する本県の強みを活かせる地域資源として、「海洋エネルギー」に着目した。

粟島における海洋エネルギーの取り組み

粟島浦村沖実証フィールド

本県では、県北部の面積9.78km2、人口370人(2015年10月1日現在)の「粟島(粟島浦村)」沖において、海洋エネルギーの利活用を図る取り組みを進めている。
平成24年度、粟島における海洋エネルギーの導入可能性調査等を実施し、賦存量、地形・水深、自然環境、地元漁業への影響を踏まえ、潮流(海流)発電、波力発電等の導入可能性が確認された。2013(平成25)年11月、県内企業、大学等の共同により、「新潟県海洋エネルギー研究会」(以下「研究会」という。)が設立され、海洋エネルギーの開発・導入等に取り組むこととした(現会員:2大学11社、アドバイザー:(一社)海洋エネルギー資源利用推進機構、新潟県)。また、研究会に加え、水車を利用した海流発電を研究する日本大学理工学部、粟島浦村、粟島浦漁業協同組合および新潟県の5者が、『海洋再生可能エネルギーの利活用に向けた取組に関する協定』を締結し、海洋エネルギー開発・導入等に向けた連携体制を構築した。
こうした海洋エネルギー開発の体制を構築した上で、本県は、粟島浦村沖北方海域について、国の海洋再生可能エネルギー実証フィールドの公募に申請し、2014(平成26)年7月に選定された。対象とする海洋再生可能エネルギーは、海流(潮流)、波力、浮体式洋上風力である。海洋エネルギー利用の技術開発に当たっては、フルスケールでの実証前に、低リスクで着手可能な小型プロトタイプでの実証が重要であることから、本実証フィールドは「小型プロトタイプ向け実証フィールド」と位置付けている。また、本実証フィールドの最大の利点は、単一漁業協同組合の共同漁業権海域に設置され、上記5者協定により、地元の粟島浦村および粟島浦漁業協同組合の理解が得られていることである。加えて、船舶航路に支障がないこと、自然保護地域や漁港区域等と重複しないことなども、利点として挙げられる。

浮体式小型海流発電装置の開発・実証

平成28年度実証試験の様子

日本沿岸域の海流・潮流は、低流速(0.5m/sec~1.5m/sec)が中心的な流れであることから、研究会と日本大学理工学部では、低流速の流れでも発電可能な「浮体式小型海流発電装置」の開発・実証に取り組んでいる。県は、研究会に対して、開発・実証費用の一部を支援し、地元の粟島浦村および粟島浦漁業協同組合の協力を得ながら、これまで、粟島の実海域における実証試験を3回実施した。
1回目の実証試験は、2014(平成26)年3月に海流発電装置用水車の予備試験として行った。その結果、流速と水車の回転数の関係を把握し、粟島の流況に適合する発電設備の仕様設定に必要なデータを取得した。これが5者協定締結者による初めての実証試験であり、合意形成のモデルケースにもなった。
2回目は、2014(平成26)年10月である。これが、実証フィールドを活用して選定後初となる実証試験となった。直径50cmの可変ピッチ翼式・6枚翼のアルミ製の水車および定格150Wの発電機を、3m×3mのスチール製の浮体に取り付け、粟島浦漁協の漁船に艤装して発電性能等を確認した。実証試験は、船速を一定にして定常流に近い状態を作り、水車性能と発電機出力性能を計測する曳航試験および自然海流による発電試験の2つの方法で行われた。
その成果として、約15%程度の水車効率の確認(目標20%)、低流速における可変ピッチ翼の有効性や装置の防水性や耐久性について確認するとともに、流速1m/secで約20Wの発電結果が得られた。また、波浪や浮体動揺による微小な流速の変動は、1m/sec程度の流れ中ではそれの数パーセントとなり、これを考慮する必要性が示唆された。
3回目は、実証フィールドを活用した2回目の実証試験として2016(平成28)年7月に行われた。26年度の試験結果を踏まえ、規模を拡大した発電装置を用い、大型化による発電装置の製作の課題の抽出、浮体運動影響と水車出力特性の関係の把握等を目的として行われた。発電装置の規模であるが、水車は、より効率を高めるため3枚翼とし、直径を前回の2倍の1mとしたことから、浮体の規模も5.2m×4mに拡大し、浮体の形態も波浪による浮体動揺を低減させるため双胴船型とした。
現在、実証試験の結果を解析中であるが、データ的には流速1m/secで約50Wの発電出力結果が得られた。また、発電機とのギア比を含めた水車と発電機との効率的なマッチングができず、本来の水車パワーが実際には十分に発揮できなかったが、実際の発電装置の組立方法や可変機構の製造方法など機械的再現について、規模を大きくしたことで新たな課題を抽出できた。

おわりに

新潟県では、海洋エネルギーの導入を進めるため、海流・潮流等の海洋エネルギーを固定価格買取制度の対象とするよう、国に求めている。併せて、実証フィールドにおける海洋エネルギーの技術開発や関連設備の整備に対する支援について、継続的に国に働きかけていくこととしている。
また、本実証フィールドが活用されることで、海洋エネルギーの導入を進めるだけでなく、大学等と県内企業とが共同で発電装置を開発することによる県内産業の振興や、実証試験が活発に実施されることによる交流人口の増加など、海洋エネルギーを通じた地域活性化といった効果も期待できるので、今後も本実証フィールドの利活用が進むよう努めてまいりたい。(了)

  1. 可変ピッチ翼=翼の角度(ピッチ)を自在に変えることにより、一定の回転方向・回転数のまま任意の前後方向の推進力を得ることができる。

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