Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第391号(2016.11.20 発行)

トルコ ギョコワ湾コミュニティー保全プロジェクト

[KEYWORDS]海洋生物保全/海のレンジャー制度/官民協働
地中海保全協会会長、2014年国連開発計画赤道賞受賞◆Zafer Kizilkaya

トルコ南岸のギョコワ湾は美しいリゾート地であり、特異な生物の生息地となっているが、海域内での乱獲が進んだことで漁業資源の減少が深刻な問題になっている。
こうした生態系の劣化、魚の種類および個体数の減少への対応として地中海保全協会は、海域内各所に禁漁区を設けて地区ごとに地元住民が監視するプログラムを開始し、さらに、関係省庁内に国としての海のレンジャー制度を作るよう働きかけを行っている。

地中海、ギョコワ湾の生物多様性の危機

地中海域は地球上でも生物多様性の破壊が特に著しく、WWFグローバル200のひとつに数えられているが、トルコ南岸にあるギョコワ湾は、まさにその地中海域に位置する。同湾は、海、陸部共に各種の特異な生物の生息地となっており、1988年、湾内各所が特別環境保護地域(SEPA)に指定された。陸部は政府によって、資源の採掘や利用に厳しい規制が課されているが、海洋資源に関しては、そうした規制の全く範疇外に置かれたままとなっている。近年「ノー・テイク・ゾーン」(禁漁区)の制度が設けられるまで、この水域内では自由に漁労を行うことができ、これが要因となって、乱獲が進み、違法な操業が横行するところとなった。ギョコワ湾では、観光と並んで漁業が雇用の面からみて主要な産業となっているが、この地域での漁業資源はこの数十年、確実かつ深刻な度合いをもって減少してきており、漁民が収入減に苦しむ結果となっている。漁業資源減少の要因として、一部には、乱獲と不法漁業が海の生態系に非持続的な圧迫を与えていることが挙げられるが、同時に、気候変動によって生態系の機能および均衡に異変が生じ、侵略的な外来種の移入が別の要因として挙げられる。リブレイテッドラビットフィッシュ(Siganus rivulatus)、スクエアテイルラビットフィッシュ(Siganus luridus)、センニンフグ(Lagocephalus sceleratus)などの外来種が湾内に侵入して、商品価値をもつ重要な魚種を捕食して生態系を損ない、漁具に被害を与え、地元漁民の生産性が低下した。主要魚種であるハタ科のゴールデングルーパー(Epinephelus costae)およびクルマエビの一種カラモテプローン(Melicertus kerathurus)の漁業所得に占める割合は、2006年には前者が32%、後者が10%を占めていたのに対し、2009年から2010年にかけての漁期には前者が10%、後者が0.02%にまで落ちている。

政府と民間の協働

ギョコワ湾のレンジャー

こうした生態系の劣化、魚の種類および個体数の減少への対応として地中海保全協会は、海域内各所に禁漁区を設けて地区ごとに地元住民が監視するプログラムを開始し、必要な資機材や資源も提供した。また、地中海保全協会は政府と協力し、この禁漁区と住民監視を正規の施策として登録し、政府の支援で住民パトロールの範囲を拡大した。地元住民によるレンジャーは、違法な行為に対して罰金を課すことはできないが、事例をカメラで記録、沿岸警備隊に通報することができ、沿岸警備隊は写真、ビデオなどによる証拠をもって違法行為者に法的措置を取ることができる。これまでに、水産養殖総局の現地職員が地元レンジャーのパトロールに同行することによって連携強化につとめた。この取り組みは大きな成果を上げ、敏感な生息水域2,400ヘクタール以上が保護されている。地元の伝統的知識と、多様な利害関係者による連携・法令執行制度とを一体化した、この取り組みは、広く世界各地の海域に有効なモデルとなり得るものである。
これは、トルコで初めての、ボトムアップ意思決定型天然資源管理プロジェクトである。地元の漁業者が、違法漁業の監視・通報権限を与えられ、地域住民の持つ情報と、法を施行する監督官庁とが連結した。地域住民と政府機関は、地域の漁業活動の持続可能な管理をさらに調整し向上させていくための方策について革新的なアイデアを共有し合いつつ、全面的な協働関係の中で取り組みを進めている。

生態系復元の兆候

ギョコワ湾全域を対象に地中海保全協会の主導によって開始した詳細な調査では、2013年から2015年の間に、複数の禁漁区域内で頂点捕食者の位置にある魚種の資源量が有意に増加し、また、イングリッシュベイ内の禁漁区における平均の資源量は、禁漁区域外と比較して25倍に近いことが観察された(図1)。さらに、調査の対象とした魚種すべての中で頂点捕食者魚種の増加が最も顕著で、結果的に侵略的草食魚の生物量低下が見られた。地中海全体としては侵略的魚種による生態系への圧迫のあることが数種の科学的調査によって知られる中で、このような頂点捕食者魚種の増加と侵略的草食魚の生物量低下は、この海域の生態系が復元に向かっていることを示唆する好ましい兆候である。
地中海保全協会のこうした取り組みによって、地域の漁業管理のあり方が向上するに至り、これが地域漁民にとって漁獲量の増加さらには所得の向上へとつながっていった。禁漁区監視の強化によって遊漁船の数が平均的に減少し、また漁業資源が増加し漁業所得の向上につながった。湾内最大の漁民組織アキャカ漁業組合は、禁漁区制度の開始以来3年後には漁業による収入が180%伸びたと報告、同様の伸びがあったとする例は多数に上っている。

海洋生物保全の確保に向けて

2010年に禁漁区を設定し、これを地元漁民と政府が共に監視し法の適用の実践を開始したことは、地中海域において政策と実践を直結させなければならないという緊急ニーズに応えるものであった。地中海保全協会が、ギョコワ湾奥部を基地とするまき網漁、トロール漁などの大型漁船の規制を求める運動を積極的に展開したことによって、一層の効果が得られた。今日ではギョコワ湾内15万ヘクタール以上の水域でまき網漁が、26万ヘクタール以上の水域でトロール漁が禁じられている。地中海保全協会の活動は、地域住民による保全活動と政府による施策の実施との間に、それまで欠けていた連携の懸け橋が築かれる結果となり、現在未だニーズが満たされないままになっている、ギョコワ湾全体にわたる共同漁業管理の実現の基盤が生まれるところとなった。
地中海保全協会は現在、関係省庁内に国としての海のレンジャー制度を作るよう働きかけを行っているが、これが実現すれば、トルコとしては初めて、国全体を通じた海洋生物保全の確保に向けた措置が取られることになる。(了)

  1. 本稿は英語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻訳まとめたものです。原文はHP(/opri/projects/information/newsletter/backnumber/2016/391_1.html)でご覧いただけます。
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