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第385号(2016.08.20 発行)

大島海洋国際高等学校における海洋教育について

[KEYWORDS]海洋国際科/実習船教育/感動体験
東京都立大島海洋国際高等学校副校長●鈴木光俊

東京都立大島海洋国際高等学校における海洋教育の特筆すべき取り組みとして、実習等による研究活動、大学等との連携事業、実習船教育を挙げることができる。
特に実習船教育に関しては、人格的陶冶も主たる柱の1つとして位置付けており、従前よりその教育効果は評価されている。
実習船固有の特殊環境がそれを強化させているものと考えられ、乗船実習と実習船の環境要因が連動することによって生じた「感動体験」と捉えられる。

学科改編に伴う本校の概要

東京都立大島海洋国際高等学校は、21世紀の国際社会に貢献できる人材を育成する、教科「海洋国際」の高等学校であり、東京都大島町に所在する。東京都における水産・海洋教育の担い手であった都立大島南高等学校は、平成18年度に海洋科(水産科)から海洋国際科(国際科)への学科改編が実施され、「中堅職業人育成としての海洋教育」から「海を通して世界を知る国際教育」という観点の転換が図られ、校名が都立大島海洋国際高等学校に改称された。しかし海洋教育をその中心に置く点は今まで通りであり、以下に本校で実践している海洋教育について記述する

本校における海洋教育の取り組み

小型実習船「みはら」による鯨類調査(大島近海)実習船「大島丸(国際総トン数738.0トン)」

  1. ①実習等による研究活動
    部活動や海洋系の科目において、生徒が海洋に関する研究活動に主体的に取り組んでいる。過去の例として、実習科目「課題研究」では、大島近海に出現する仔稚魚調査や大島住民の地産地消を考察するテーマで論文を執筆している。また、沖ノ鳥島近海で得られた観測データから特有の流れを推測している。このような研究活動の成果は、生徒研究発表大会や一般者向けのフォーラム等で生徒が発表している。
  2. ②大学等との連携事業
    生徒の学問に対する意欲や、進路選択に対する意識の向上を図ることを目的として、開校当初より東京海洋大学海洋科学部、東海大学海洋学部、首都大学東京、東京大学海洋アライアンス等と順次連携を結んできた。内容として出張講義、公開講座、特別実習(海洋生物の発生観察)、施設開放、合同調査(鯨類調査やサンゴ保全調査、ROV実習)等を実施している。
  3. ③実習船教育を通した人格的陶冶
    本校は実習船「大島丸(国際総トン数738.0トン)」を有し、日頃より実習船教育を実施している。その最大の目的は、海技従事者および漁業従事者の育成であり、それらに関する知識・技術を十二分に習得させ、資格取得等を通して進路実現に結び付けることである。本校においては、これのみならず「実習船教育を通した人格的陶冶」も目的の主たる柱の一つに位置付けており、保護者等からもその期待は大きい。
    実習船教育で培われるものとして忍耐力、協調性、社会性等が挙げられる。また実習船教育の特性として、1)肉体と精神力を鍛え、不自由な生活の中で人間関係の大切さを学ぶこと、2)勤労意欲・基本的生活習慣・自己抑制力・社会性・思いやり等を体験させながら学ばせていることが挙げられ、現代の若者に欠如している態度育成への有用性が認められる。これらは一般の教室で実施される実験・実習とは異質の、実習船が有している特殊環境により増大するものと考えられており、従前よりそれが高く評価されている。ここで実習船固有の特殊環境とは、1)外界から遮断されていること、2)生活空間が狭くまた限られた人間関係しか存在しない状況であり、一度実習船が出港したら嫌でもその中で生活しなければならないこと、3)船酔いや多くの葛藤条件があるが、そこから逃げることができないこと等であり、生徒達が不安を抱え込む可能性があることから、適時的な支援が必要である。
    過去の乗船生徒へのインタビュー調査の結果、生徒たちの言葉の端々から、実習船固有の環境要因に起因していると考えられる事柄が見受けられた。実習船全体を運命共同体に捉えた発言が多く見られ、運命共同体だからこそ自分に与えられた役割を認識し遂行のために努力するという思考が見受けられた。船内の構成員が変化しないことを受け、それが自分には苦痛であったと素直な感覚を述べている生徒もいれば、その事実を踏まえお互いを認め合い理解を深めることの重要性に言及している発言もあった。また乗船実習を通して団結・協力を学んだという者が多かった。さらにさまざまな葛藤体験に対する自己制御の自信も、実習船が持つ環境にいかに適応するかという取り組みの結果と判断できる。
    このように、船内におけるさまざまな学習、実習、作業を通して果たされてきた役割取得・役割達成は、環境が特殊であるが故に強化された結果ではないかと考えられ、乗船実習と実習船の環境要因が連動することによって生じた、感動体験としての捉えが考えられる。「感動とは、その人にとって強い共感を呼ぶ場面、または、画期的で稀な場面において生起し、心の奥底に響く非常に強烈な情動」と定義され、感動体験の分類に関してはさまざまな研究がなされているが、①成功体験、②苦しい体験、苦しさを乗り越えた体験、③共同の喜びと定義され、乗船実習を感動体験と位置付けることは妥当と考える。感動体験の効果について、①やる気/肯定的思考/自立性・自主性/自己効力といった動機づけに関する効果、②思考転換/視野拡大/興味拡大といった認知的枠組みの更新に関する効果、③人間愛/関係改善/寛容/信頼/利他意識といった他者志向・対人受容に関する効果が挙げられている。よって実習船教育が、「人格的陶冶」に大きく寄与していることが裏付けられる。

首都東京の目指す海洋教育とは

日本は世界で6番目に広い排他的経済水域を有し、その4割が東京都に由来している。2007(平成19)年に海洋基本法が制定され、それに基づく海洋基本計画が策定されるなど、わが国が海洋立国として目指すべき姿が明らかにされている。2016(平成28)年2月発表の『都立高校改革推進計画・新実施計画』には、「海洋国際教育の充実」として教育内容の改善・充実と共に実習船の代船建造を含めた教育環境の整備が謳われており、水産・海洋に関する科学的調査・分析手法を理解し、フロンティア精神に満ちた人材の育成が求められている。(了)

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